「一歩ずつ近寄り、今では何でも話してくれる」大坂なおみの1年前からの変化を語るフィセッテコーチ

オーストラリアン・オープンの前哨戦で大坂なおみのサービスをチェックするフィセッテコーチ(Getty Images)

2019年12月に大坂なおみ(日清食品)のコーチに就任したウィム・フィセッテ(ベルギー)がここまでの道程、オーストラリアン・オープンを制した要因などをWTAのインタビューで語った。

「オーストラリアン・オープンでも昨年のUSオープンでもそうだったが、彼女がタフな状況を乗り越える姿に私は毎日のように驚いている。彼女が成し遂げたすべてのことと、そこからくるストレスへの対処法にも同様のことが言える。それらの状況への対処法は素晴らしいと思う。今大会ではセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)との準決勝への入り方、マインドセット、喜び、試合中の冷静さ、もっとも大事な場面で決めるビッグサーブ、サービスで試合をコントロールする姿も素晴らしかった」

 フィセッテ氏は大坂が持って生まれたある能力に驚いており、自分自身も日々学んでいるという。

「トレーニングで身につけられる能力もあるが、彼女の状況に対処する能力は持って生まれたものだ。私自身も彼女から毎日学んでいる。彼女が試合を見る視点も非常に興味深いものがある。この10年間、私自身が多くの選手から様々なことを学んできたが、なおみからは本当に多くを学んでいる」

  メルボルンで大坂がもっとも成長した部分は、本人も何度も語っていたリターンだという。

 「ベースラインでのストロークが以前より安定しているが、以前よりもアグレッシブになり、特にラリーの方向を変える技術がよくなっている。我々がもっとも注力してきたのがリターン。セレナとの試合では、強烈なサービスを何度も返すことで“簡単にポイントは取らせない”というプレッシャーを相手に与えた」

  一つでも多くのリターンを返すことが最初に一歩だったという。

 「過去のスタッツを見ると、彼女はリターンを十分に相手コート内に返せていなかった。リターンミスが多すぎた。それが一歩目。まだ理想には届かないが、彼女のリターンはかなり改善された。第一歩目はとにかくたくさんのボールを返すことで、それが今コートで見られ始めている。相手にフリーポイントを与えるのではなく、相手に一つでも多くプレーする(ミスをする)機会を与えるんだ」

  中村豊トレーナーと取り組んできたフィジカル面の向上も欠かせない要素だという。

 「リターンでまず大事なのがフットワーク。それに技術的な部分にも取り組んだ。それから必要なのが反復練習と実戦形式を何度も何度も繰り返すこと。それと同時に、豊との取り組みで彼女がどれほど強くなり、うまく体を伸ばしてボールに追いついているか分かってもらえるだろう。いろんな要素が噛み合った成果が今出ている。一つだけのことに取り組んで素晴らしい結果が得られる訳はないんだ」


チーム大坂なおみ(左からカルエ・セル、中村豊、大坂なおみ、茂木奈津子、ウィム・フィセッテ)(Getty Images)

 技術面、フィジカル面に加えてメンタル面でも正しいアプローチができているという。

「すべては彼女のマインドセットから始まる。なおみは素晴らしいリターナーであるビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)と昨年のUSオープン決勝で戦うという、またとない経験をした。“彼女のようにリターンできるようになりたい”これがまさに正しいマインドセットなんだ。これが前に進む方法だ」

イライラしたりネガティブになることを受け入れるなど、大会中に見せた大坂の気持ちの切り替えの早さを絶賛した。

「この数年の経験から、自分の姿勢がいいとき、何をしなければいけないのか頭の中がクリアなときこそ、何をしたいのかがよく分かっており、その結果いいプレーを見せる。だから、彼女がよいプレーを見せるベースにはよい姿勢がある。まったくネガティブになってはいけないという意味ではない。人間なのだから、イライラすることがあるのは普通のことだ。しかし、そこからすぐに切り替えることが非常に重要なことだ」

 信頼関係が深まったことで、大坂が素直に感情を表に出すなど、その時々に思っていることを話してくれるようになったことも大きなプラス要因になっている。

「このことについて大々的に議論した訳ではなく、日常的な話題なのだ。そしてなおみ自身がコート上での振る舞いをよくして、若い選手にとってロールモデルになることを強く願っている。彼女はナーバスになっていたら、それを表現するようになった。試合の前に何が心配なのか、どんな気持ちなのかを素直に出すようになった」


オーストラリアン・オープン優勝を決めた直後、チームと共に祝う大坂なおみ(Getty Images)

 1年前のオーストラリアン・オープンではコリ・ガウフ(アメリカ)に3回戦で敗れた。自分の感情をなるべく表に出さないようにし、苦しんでいたという。

「1年前のオーストラリアン・オープンで彼女はプレッシャーにさらされ、物凄くナーバスになっているように見えた。そう見えたのは、彼女が感情を押し殺していたからだ。ガウフとの試合前、なおみにどんな気持ちか聞いたら、彼女は大丈夫、準備万端だと言っていた。明らかに、そうではなかったのに。あの試合での彼女は完全に自分の感情によってブロックされていた」

 大会後にはスペインでのフェドカップでも敗戦。しかし、その頃から徐々に変化が見られたという。

「選手から信頼を得るのは日々の積み重ねしかない。そして我々は一歩ずつチームとして近づいていった。彼女はオーストラリアン・オープンのあと、スペインでフェドカップを戦っているとき、徐々に感情を表すようになった」

 大坂が感情を表すようになり、チームとの絆も深まっていった。

「彼女は我々が話を聞いて、彼女のこと、彼女の気持ちを分かってあげていることを理解したんだ。そして自分の感情を表現することは、緊張とプレッシャーを和らげる助けにもなる。それ以来、彼女は自分の感情に対して本当に正直になった。ナーバスになっているときはそれをどんどん表現するようになり、試合の前にどんな気分なのか、どんな心配があるのかを表に出すようになった」

 そして大坂自身もチームに気持ちを打ち明けることで、何か助けになるようなアドバイスをもらえたり、試合を別の角度から見ることができることを理解したようだ。「自分の感情を表すことによって周囲に助けてもらえることを理解した」とフィセッテ氏は満足げに語っている。(テニスマガジン)

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写真◎Getty Images

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