「ウイリアムズ姉妹のハングリーさはジョコビッチやメドベージェフにも見られる」映画『ドリームプラン』の字幕監修・伊達公子特別インタビュー

映画『ドリームプラン』の字幕監修を務めた伊達公子氏(写真◎小山真司)(衣装◎MIKAKO NAKAMURA/ミカコナカムラ)


 主演のウィル・スミスがアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされるなど、大きな話題となっている『ドリームプラン』(原題『KING RICHARD』)。

 2月23日(水・祝)に日本公開される話題作について、字幕監修を担当した伊達公子さんに特別独占インタビューで語ってもらった。
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映画を見終わった瞬間、どんなことが頭に浮かびましたか?

「凄くリアリティがあるなと思いました。映画ではあるものの、凄くドキュメンタリーに近く、真実とかけ離れていないという印象です。いいところだけを抜き取ったのではなく、悪いところもしっかり描かれているのがいいと思います」

心に残ったシーンは?

「ウイリアムズ姉妹が成功しているという事実はいろんなところで見てきました。2人が生まれる前から、リチャードさんが78ページにおよぶプランを描き、娘たちを育てようと計画していたのは聞いていたんですけど、ここまで綿密な計画があったことは、この映画を通して初めて知りました。もっと感性で教えていた部分が多いのかと思っていましたけど、ここまでしっかりプランを組み立てて育てていたことに驚きました」


2014年USオープンの1回戦で伊達公子は第1セットを奪うも、逆転されてビーナスに敗れた(Getty Images)

ビーナス、セレナと実際に対戦した経験もあり、この映画を見て2人の強さの秘密が見えたと話していた。具体的にどんなところが見えたのでしょうか?

「このプランがリチャードさんの思いから始まっている中でも、本人たちがしっかり夢を描いている。そしてその夢を実現させるためには、一つの夢に向かって突き進む家族みんなのエネルギーと、そこに懸ける覚悟が凄く大きい。実際にプレーしたときにも、他の選手には感じられない何か、簡単に言えば勝ちに対する執着心のようなものがありました。見ている次元が違うという感じですかね。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)やダニール・メドベージェフ(ロシア)にも見られるものですが、ハングリーさは環境から生まれるものなのか、作ろうとして作れるものではない。そういった環境からずっと染みついている勝負に対する執着心、ハングリーさが、コート上でも見えるし、実際に対戦して感じるものがありました」

字幕監修を担当して、印象に残ったフレーズ、シーンなどありますか?

「娘たちを成功に導くためのプランではありますが、リチャードさんは彼女たちの生き方を考えて、教育、勉強もしっかりさせています。エージェントが近づいてきたときの対応でも、凄く慎重でした。自分の見えている絵がしっかりあって、周りの影響に動じない、なびかない強さがあります。そこまでが計画の中に含まれていたのかどうか分からないですけど、サクセスストーリーだけでは描き切れない部分が映画の中に詰まっているのが印象的でした」

ビーナスをジュニアの大会に出させない決断をしてその後に大成功している。しかし、自分が親なら出させてあげたい気持ちが強いのでは?

「もちろん、それもありましたし、セレナが勝手に申し込んで試合に出たシーンもありましたよね? それで戦っているところを夫婦でコートのフェンス越しに見て話しているシーンも印象的でした。ビーナスがインタビューを受けていて、自信たっぷりに話しているところにリチャードさんが割って入ってきて、“自信持って話しているのに!”とリポーターに食って掛かるところもありますね。ある意味リチャードさんの描いている色に娘を染めていった部分もあると思うんですけど、テニスに限らずあれだけのアスリートを育てるのは相当な覚悟があったはず。少し悪い言葉で言えば、強い思い込みがないと、できない。親が子を守っている姿は胸に突き刺さるものがありました」


『ドリームプラン』とウイリアムズ姉妹について笑顔で語る伊達公子(写真◎小山真司)(衣装◎MIKAKO NAKAMURA/ミカコナカムラ)

現在、伊達さん自身がジュニア育成プログラムを行っているが、この映画を見て指導、育成のヒントみたいなものはありましたか?

「どんどんステージが上がっていき、年齢が上がっていって、プロの世界に入ると、選手は誰もが常に何かしらの不安を抱えて戦っていかなければいけない。そのためには、信じることが凄く大事。“信じる”と言葉にするのは簡単ですけど、それを実践するのが難しい。本人も自分を信じたいけど、信じ切れない部分がどうしても出てきてしまう。そこで周りにいる家族を含めたチームが信じてあげることが凄く大事になってくる。リチャードさんはその点でも終始娘たちを信じることに徹しているのは、凄く簡単そうで難しいと思います。その気持ちはジュニアに対して持ち続けなければいけないということを示してくれたように思います」

最後に、ビーナス、セレナとのエピソードが何かあれば、お願いします。

「それほど縁があったわけじゃないですけど、コートの中にいると勝負だけにこだわっている。トップにい続けることを求めていて、それ以外のことはそこまで求めていないように見えるかもしれない。でも、とても人間味溢れる人たちなんだというのは、今回の映画の中で、小さい頃からの姿をずっと見ていると感じられます。テニスプレーヤーは一人で戦わないといけないし、勝負にこだわって“勝つために手段を選ばず!”みたいなところはどうしても出てしまう。自分の弱い部分、見せたくない部分をいかに隠すかが、トップに行けば行くほど求められる。今はSNSもある時代なので、人間性、プライベートな部分も表に出るようになったとはいえ、そこでも見えないギャップの部分がこの映画でたくさん見られると思います」

<作品情報>
『ドリームプラン』
製作:ウィル・スミス、ティモシー・ホワイト、トレバー・ホワイト、セリーナ・ウィリアムズ、ビーナス・ウィリアムズ
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
脚本:ザック・ベイリン 撮影:ロバート・エルスウィット(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』)エンディング・テーマ:ビヨンセ「Be Alive」
出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン、トニー・ゴールドウィン、ジョン・バーンサル
字幕:松浦美奈/字幕監修:伊達公子/映倫区分:G  配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved 公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/dreamplan/ #ドリームプラン
2月23日(水・祝)より全国ロードショー

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取材◎池田晋

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