グルテンフリーってなんだ!? 丸山淳一コーチの「グルテンフリー」体験記


 ジョコビッチが実践する「グルテンフリー」。海外のセレブたちの間で流行したこともあり、日本でも注目が高まったのはご存知のとおりだ。果たして「グルテンフリー」はジョコビッチの強さの秘密なのか――。それを確かめるために、自ら実践したテニスコーチがいる。森田あゆみプロの専属コーチである丸山淳一氏だ。確かな効果を実感したという丸山氏の実践法と、体感した効果をお伝えしよう。(2016年5月号掲載)

解説◎丸山淳一 写真◎BBM、Getty Images

基本的に食事を変えただけで、半年で体重5kg&体脂肪率4%減!

王者の強さの秘密
その一端は食事にあり

 ノバク・ジョコビッチのコンディショニングのうまさについては、以前からとても興味がありました。技術的・フィジカル的に優れているのはもちろんですが、例えばすごくタフなロングマッチを戦った次の試合でも、疲れているはずなのに疲れを見せない。そんなシーンを何度も目の当たりにし、それがメジャー大会で安定した力を発揮できる大きな要因のひとつだと思っていたからです。

 ジョコビッチが食事で「グルテンフリー」を実践しているのは知っていました。小麦などに含まれる「グルテン」を摂取しない食事法です。ジョコビッチだけではなく、海外では実践している選手が増えており、グランドスラムでも数年前からプレーヤーズ・レストランでグルテンフリーの食事が並ぶようになっています。それだけ需要が増しているということです。

 世界ナンバーワン選手が実践し、それだけ流行しているのだから、プロのテニスコーチとしては避けて通れない、と思っていたところに、ジョコビッチが自分の食事について明かした『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)が日本語で発売されました。ただ私は、どんなことでも読んで知るだけではなく、自分で体験してみないと本当のところはわからない、と考えてしまう性格です。そこで、ジョコビッチの本を参考にしながら、自分なりにアレンジを加えて実践してみることにしました。



カットした分は別の物で
栄養バランスを整える

 私が実践したのは①小麦(グルテン)をカットする、②乳製品をカットする、③加工肉(ソーセージなど)をカットする、という3つです。

 ①の小麦カットがメインではありますが、②乳製品と③加工肉も食べるのをやめました。子供の頃から牛乳はたくさん飲んでいましたが、チーズや濃いヨーグルトなどは体質的に受けつけにくかったところ、ジョコビッチが乳製品のカットも勧めていたからです。加工肉にかんしても、ジョコビッチの栄養指導にも影響を与えたウイリアム・デイビスが、たんぱく質をとるのは自然の形に近い肉のほうがよい、と言っているのを参考にしました。

 ただ、どれも100%カットしようとするのは難しいことです。そこにこだわり過ぎてしまうと、今度は別のストレスが生まれてしまいます。そこで私は「90%カットできればよい」という形で実践していきました。

 私は元々、パンや麺類が大好きで、あまりお米は食べませんでした。しかし、小麦をカットしようとするとパンや麺類は食べられません。そこで炭水化物をしっかり摂取するために、お米をメインに食べるようになりました。どうしてもパンが食べたいときは、米粉でできたパンを買ったりしています。調べてみると、小麦アレルギーの人のためのレストランなどもあって、日本でも需要があるのだなということに気づきました。  グランドスラム会場のレストランで用意されていたグルテンフリーの食事は、正直あまりおいしくないのですが、日本のものはどれもちゃんとおいしい。やはり日本はすごいな、と思います。




フレンチ・オープンでジョコビッチは誕生日ケーキで祝われたが、そのケーキもグルテンフリーだった



 以前から食事や栄養のバランスには気をつかっていたほうだと思うのですが、この食事法を始めてからはこれまで以上に気をつけるようになりました。お米でしっかり炭水化物をとる、野菜の量を増やす、たんぱく質もしっかりとる、補食はナッツ中心の栄養バーでとる…食べるものが制限されるからこそ、「しっかりとバランスよく栄養をとるには」ということをしっかり考えるようになったのです。

 また、食べ過ぎる、余分に食べてしまう、ということも減ったと思います。こういったことを始めると、「他にも余分なものはないかな」「逆に食べるべきものはないかな」と、より健康的になるように意識が向き始めます。エネルギー・栄養はしっかりと確保しながら、総摂取カロリーは減る、という好循環につながったと思います。

健康への意識の高まりが好循環を生む

体重&体脂肪率減に加え
エネルギッシュに過ごせる

 私が現役を退いたのは31歳のときです。体重は72㎏でした。それからコーチに転身し、少しずつ体重が増えていってしまいました。その間も、週2~3回のジムでのトレーニング、週3~4回は約1時間のジョギングを続けていました。76、77㎏くらいになると運動量を増やして75㎏くらいまでは落とせるのですが、それ以上は減りませんでした。

 昨年の8月頃に、体重が77.5㎏になりました。人生で最高体重です。78㎏になってしまったらすぐに80㎏になってしまう。なんとかしなければならない、と思っていたのも、グルテンフリーを実践してみようと思った動機のひとつです。そして、運動量は変わらず、食事を変えただけで、半年で体重は5㎏、体脂肪率は4%減らすことができたのです。

 実際に始めてみると、最初の2週間くらいで寝起きがよくなったことに気づきました。朝、目が覚めて、もっと寝たいと思わなくなった。倦怠感がなく、一日中エネルギッシュに過ごせるようになりました。もちろん体重が減って体が軽くなり、キレが増しました。

 それから驚いたのが、体の柔軟性が増したことです。40代の頃よりも、51歳を目前にした今のほうが、明らかに体は柔らかくなっています。

 ジョコビッチも「柔軟性が増す」ということは書いていたのですが、さすがに「本当かな」と思っていました。ただ、確かにジョコビッチが10位前後にいた頃のテニスと、今のテニスを比較すると、柔軟性は飛躍的に増しています。球際の股関節や足首の柔らかさ、最後の一歩のストライドの広さは、今のジョコビッチの大きな武器になっています。

 これは技術的な向上だけではなくフィジカル的な要素も大きく、食事からくるものも数%はあるのかもしれません。

栄養への意識が高まる

 今回、私は①小麦(グルテン)のカット、②乳製品のカット、③加工肉(ソーセージなど)のカット、の3つを同時に実践してしまったため、果たしてどれが、どのような効果をもたらしたのかはわかりませんし、科学的に実証されているものでもありません。体感できた効果も、あくまで私自身の体験です。

 しかし、今のところ良い効果を体感することができているのは確かなことです。逆に今からこの食生活をやめる勇気のほうがなくなりつつあります。

 間違いなく言えることは、今回グルテンフリーを実践したことにより、食事や栄養のバランスへの意識がこれまで以上に高まったということです。自分に合う食べ物・合わない食べ物もわかるようになり、合わない食べ物をカットした分、ほかのもので栄養やエネルギーを補う、そのためには栄養の正しい知識がなければならない。そして正しい知識があれば、さらに健康的な食生活を送ることができる。そうした好循環を生み出すことができます。


 グルテンフリーの効果は定かではないが、ジョコビッチの大きな武器となっている柔軟性が年を追うごとにましているのは確かだ

◇   ◇    

解説◎高橋文子栄養士
意識の高まりと適度な遊び心が より良い効果=好循環を生んだ

 半年間で体重5㎏、体脂肪率4%減! 数字で出た結果だけではなく、寝起きがよくなった、倦怠感がなく一日中エネルギッシュ、体が軽くなりキレが増した、柔軟性が増した、という実感に驚きました。

 丸山コーチは、単にグルテンフリーの食事をしただけではなく、「食べ過ぎる、余分に食べてしまう、ということも減った」、「食事や栄養のバランスへの意識がこれまで以上に高まった」と話しています。それこそが、ここまでの結果が出た要因ではないでしょうか。

 グルテンフリーに限らず、例えば「ダイエットをしよう!」と一念発起したとき、健康的な食事を心がける以外にも、「一駅前で降りて、会社まで歩く」、「夜遅い時間に食べないようにする」など、別の体に良いことに意識が向くと言われています。それが、より良い効果=好循環を生むとも考えられています。

 また、「(グルテンを)90%カットできればよい」というスタンスもよかったと思います。食事は日常です。日常を変えるときは、あまりストイックになりすぎず、適度な遊び心を持って取り組んだほうがストレスも少なく、長続きします。

 丸山コーチは、「甘いものも好きだったが、そのほとんどに小麦が使われているのでやめた」と言っていました。でも、原宿においしいグルテンフリーのパンケーキ屋さんを見つけたそうです(笑)。そうしたおちゃめなところも、長続きの秘訣でしょうね。


参考
『ジョコビッチの生まれ変わる食事』著者◎ノバク・ジョコビッチ 翻訳◎タカ大丸 発行元◎扶桑社

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