コーチのマリアン・バイダが語る強さの理由「覚醒したDJOKER〜ノバク・ジョコビッチ」
「彼が18歳のときに出会ったんだ。敏捷性があり、走り方が素晴らしかった」(マリアン・バイダ)
サービス&フォアハンド、すべてが改善されてきた
ーー昨年12月のデビスカップ(優勝)でも素晴らしいプレーぶりが、今シーズンの活躍に、どれくらいスプリングボードとして役立っていますか?
「ああ、あれは大事な大会だった。デビスカップ決勝が彼の心意気を持ち上げたと心から信じている。どの国においても、デビスカップは重要な大会だからね。彼の自信を高揚させ、疑いなく彼にとって大きな意味を持っていた。昨年はシーズンを通して、彼の(主な)焦点は、ただセルビア代表としてデビスカップに優勝することだった。あの勝利は、ノバクにとって、2008年のオーストラリアン・オープン優勝よりも重要だったと言えよう」
ーー昨年のジョコビッチは、サービスエースの数よりもダブルフォールトの数が多く、それはトップ50の中では唯一人のプレーヤーでしたが、今年のオーストラリアン・オープンの最後の3試合では、トータルで22本のエースを打ったのに、ダブルフォールトはたったの6本でした。そしてまたファーストサービスの平均時速は印象的な119マイル(時速約192㎞)でした。なぜ、彼のサービスは今年、大幅に改善されたのでしょうか?
「これまでとはまったく異なるテクニックを練習したからだろう。今年のサービスは昨年とは完璧に異なる。つまり昨年のサービスは効果的ではなく、技術的にも正しくなかったから、生体学的に、全体的な概念を変えたんだ。昨年から、それをかなりの時間を割いて練習し、そうして新しいサービスを使い始めた。より多くのパワーと正確さを与えてくれるサービスにね。2007年から2009年まで、彼の腕は野球の投球のようにバックスイングの最後に適度に曲がっており、今年もそれと同じなんだ。その方法は正しい。だが昨年、彼の腕はクリケットの投手のように真っ直ぐ伸びていた(下記連続写真参照)。
そして、もうひとつの大きな相違は2007年から2009年と再び今年、ラケットヘッドのスピードが増し、前方と上方へ押す力が強くなったこと。それにより彼は+8〜10㎝、コートから離れてジャンプすることになった。こういったことのすべてが、彼のファーストサービスとセカンドサービスの両方に、より多くのパワー、正確性、そして安定性を与えたのだろう」
2010年フレンチ・オープン
2011年オーストラリアン・オープン----昨年とは明らかに変わったジョコビッチのサービス。多くの選手やコーチが指摘したように、やはり昨年のサービスには問題が少なくなかった。不振の要因でもあり、その改善が今季の躍進につながっている
ーーフォアハンドは、以前は主にラリーショットでしたが、今では大きな武器になっています。フォアハンドでは、これまでとどんな違いがありますか?
「技術的にはバランスがかなり改善されてきている。ボールをより強く打ち抜き、足はより安定している。バランスをうまく使うようになり、ボールを攻撃するために前方に出るようにしている。彼は体をねじらないし、後方に傾けない。その結果、今では彼のフォアハンドはよりパワフルになり、そのために深さが増し、正確性も増している」
ーージョコビッチは現在のテニス界で最高のバックハンドを持っていると思いますか? そして何がそれほど効果的にしていますか?
「まず第一に、彼のバックハンドは昔からとてもナチュラルだった。テニスを覚え始めた頃に、いい指導者に恵まれたのだろう。最初の指導者はエレナ・ゲンチッチという名前の女性だったがね。ダブルハンドのバックハンドは左手がうまくサポートしてくれるので、かなり効果的であり、疑いもなく、片手よりも両手でプレーする方が強力である。両手打ちのバックハンドを用いれば、アングルショットを打つことができるし、ボールをブロックするなどして、パワフルなショットも上手くリターンすることができる。両手打ちバックハンドでは最後の瞬間に巧みにボールを扱うことができ、それでいてなおいいショットを打つことができる。
それに片手打ちのプレーヤーは両手打ちができないが、両手打ちのプレーヤーは常に片手のスライスのバックハンドを習得することができる。彼はかなりの自信があり、バックハンドではポイントを失うことはない。そしてたとえフラットのショットを打つとしても、バックハンドではエラーをしない。見事なものだよ。そして彼は速度の速いショットにも遅いショットにも、低いショットにも高いショットにも、フラットなショットにも、トップスピンのかかったショットにも、すべてうまく合わせることができる。彼のバックハンドのフィーリングやテクニックはユニークであり、それを教えることはできない」
オーストラリアン・オープン優勝後のロッカールームで喜びを分かち合うジョコビッチ陣営。左から2人目がコーチのバイダ
ーーバックハンドのフットワークはいかがですか?
「ノバクは素晴らしいフットワークを持っており、それは彼の頼もしいバックハンドを生み出すもうひとつの理由である。たいへん柔軟性があり、敏捷である。僕は彼が18歳のときに会ったのだけど、そのときすでに彼は敏捷性があるだけでなく、素晴らしい走り方をしていた。それは彼にとってすでに大きな優位点だったね。彼は45度の角度で右(前)足を置くが、そのことでは、フィットネスコーチと僕は多くの時間を割いて一緒に練習した。最初、ノバクはそのバランスとフットワークを持っていなかったので、僕らはそのことを様々な角度から練習したんだ」
ーーダウン・ザ・ラインのバックハンドは彼の十八番であり、ロジャー・フェデラー、ピート・サンプラス、レイトン・ヒューイット、ラファエル・ナダルといった多くのトッププレーヤーは持ち合わせていないパワフルな武器です。どうしてそんなに絵に描いたように見事なのですか? そしてこのショットはジョコビッチの兵器庫においてどれくらい重要でしょうか?
「それはたいへん優れたショットだ。そしてまさに最後の瞬間にコートをオープンにするもっとも効果的なショットのひとつだ。彼はこれをダブルハンドのバックハンドで誰よりも巧みにする。たとえ対戦相手が彼のゲームをよく知っていたとしても、彼のダウン・ザ・ラインのバックハンドはとても効果的だ。なぜなら、そのあと彼はフォアハンドで攻撃できるからね。この武器が今年の彼を無敵にしてきた。他のプレーヤーは彼のゲームを学んでいて、今ではかなり彼のことをよく知るようになったが、それでもなお彼はバックハンドでダウン・ザ・ラインに打ってポイントを得ることができる。なぜなら、それに届いて返球するのはとても難しいからだ。それはジミー・コナーズの偉大なるバックハンドに似ている」
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