「まだ見ぬ17歳の地図」錦織圭インタビュー2006年末

 母親の恵理さんは彼のそんな精神的な強さを「切り替えのうまさ」と表現する。本人は「あんまり何も考えていない」と笑うが、その切り替えは、錦織のテニスそのものを表していると言ってもいいかもしれない。劣勢を撥ね返す切り替え、ラリーのリズムを急激に変えることのできる切り替え。

 一方、父親の清志さんは息子について「とにかく自分で主導権を握りたい性格」と話してくれた。マイペースに質問に答える彼からは、そんな激しさを見ることはできないが、家ではいつも彼が小さな“独裁者”だったと笑う。

「だから、テニスでもそうでしょう。相手のペースでプレーするのが嫌なんです」。強力なフォアハンドを相手コートに叩き込んだ次には、まるで対戦相手を嘲笑うかのように絶妙なドロップショット。そんなコート上の表現は、おっとりとした外見に包まれた、もうひとつの彼の本質を見せているのかもしれない。

 両親が話すふたつの強さ——それこそ、これまでの日本選手がもち得なかった強さなのではないか。だからこそ、多くの関係者がそのテニスに魅了されるのだろう。そして、それだけに、周囲からの期待やさまざまなアドバイスに翻弄され、押し潰されないかと心配にもなるが、きっと彼なりの方法でそれらを消化している。うまく取捨選択しながら、最終的には自分の正しいと思った方法を選び取る強さで。

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