パット・キャッシュのサービスレッスン「肘の曲げ過ぎ問題について」

1987年のウインブルドン・チャンピオンで、87、88年のオーストラリアン・オープン準優勝者でもあるパット・キャッシュ(オーストラリア)は、すべてのレベルのプレーヤーにとって正しいテクニックのマスターが、これまでになく重要になってきていると言う。このレッスン記事はインタビュー形式で行い、キャッシュがサービスのあらゆる要素について詳細に解説してくれる。世界屈指のサービスを武器にするプレーヤーたちのこと、その一方で、トッププレーヤーであってもサービスに大きな課題を抱えているプレーヤーたちのことなど、その話は非常に興味深い。複数回にわたってお届けする今回は「サービスの肘の曲げ過ぎ問題について」。(テニスマガジン2013年12月号掲載記事)

Everything You Need To Know About The Serve
いま知っておくべきサービスのすべて

今回のテーマ「肘の曲げ過ぎ問題について」

解説 / Pat Cash(パット・キャッシュ)◎1965年5月27日生まれの48歳。オーストラリア・メルボルン出身。1987年ウインブルドン優勝者。自己最高ランキングはシングルス4位、ダブルス6位

インタビュー / Paul Fein(ポール・ファイン)◎インタビュー記事や技術解説記事でおなじみの、テニスを取材して30年以上になるアメリカ在住のジャーナリスト。多くのトップコーチ、プレーヤーを取材し、数々の賞を獲得。執筆作品はAmazon.comやBN.comで何度も1位となっている。テニスをこよなく愛し、コーチとしても上級レベルにある

翻訳◎木村かや子 写真◎小山真司、菅原淳、川口洋邦

Topic1|腰の回転と体重移動

女子選手は「腰の回転不足」と 「体重移動のタイミング」に 課題がある

Q  有名なカリフォルニアのコーチ、ジャック・ブラウディは、セレナ・ウイリアムズと他の数人を除いて、女子選手たちのサービスは力不足のせいではなく、欠陥のあるテクニックのせいでパワーを欠いていると言っています。 ブラウディが欠陥と指摘している点は、①腰はネットに対して45度の角度までひねられるべきなのに、腰が回転していないこと、②両肩を結ぶ線が地面に対して傾いておらず、ほぼ水平になっていること、③膝が十分に曲がっていないこと、などが含まれると言っています。その結果、流れるようなモーションを行うことができていない、打点に向かうエネルギーが不十分で、彼女たちの頭と目はインパクト時にボールをとらえられておらず、その体はバランスを崩してしまっていると言います。あなたは、この分析に同意しますか?

A  その発言はほとんどすべてにおいて正しいと思うよ。でも、“お粗末なサービス”の理由は、必ずしも腰の回転(ローテーション)から始まっているわけではないと私は思う。まずいサービスの理由は、腰の回転と同じくらい、あるいはそれ以上に、体重移動のタイミングと結びついている。 セレナやサマンサ・ストーサー、サビーネ・リシツキのようなサービスに秀でた選手たちは、うまく体重を前方に移動している。キルステン・フリプケンスのような小柄な選手でさえ、体重移動の絶妙なタイミングをつかみ、その結果、腰が正しく移動することにより、いいサービスを生み出すことができている。

しかし、意識を集中させるべき肝心な点は、トスでボールが手から離れるときに、ボディウエイト(体重)が前方に移動しつつあるようでなければいけないという点だ。セレナの体重は幾分後ろの足にのっているが、それから非常に迅速に前方に移動している。

体重が後ろの足にかかっていたら、トスを非常に高く上げない限り、力強い振り出しのポジションに入ることはできないんだ。それが、リシツキのサービスで、彼女は体重移動の遅れを埋め合わせるためにトスを高く上げている。トスを高く上げれば、体重を前方に移動させるのに十分な時間を持つことができるからね。


↑アグネツカ・ラドバンスカは ラケットを持つ腕がボディを 先導しているため理想的とは言えない

ラケットを持つ腕がボディを先導しようとしていることがわかる。体重移動と腰の回転のタイミングが合っていない、両肩を結ぶ線が地面に対して傾いておらず、ほぼ水平。だからパワーが出ない。



↑セレナ・ウイリアムズは 「前足への体重移動」と 「腰の回転」のタイミングが 合っている

トスでボールが手から離れるときに、ボディウエイト(体重)が前方に移動しつつあるようでなければいけないという点。セレナの体重は幾分後ろの足にのっているが、それから非常に迅速に前方に移動している。

「トスでボールが手から離れるときに 体重が前方へ移動しつつあること、同時に腰の回転が動きを先導し、 ラケットを持つ腕を誘導することが重要だ」



Q トスは高い方が体重移動しやすいということですか?

A いいや、違うんだ。トスを高く上げて時間をつくる方法は私が積極的に薦めたい方法ではないよ。リシツキにはうまく機能しているようだが、一方で、今年のウインブルドン決勝で目にしたように、彼女はときどきサービスが悲惨な状態になる日がある。なぜならトスが高いということは、時間があるために余計なことが起きる可能性が高く(風の影響やメンタルの影響、ボールコンタクトが難しくなるなど)、そういうリスクも生むんだよ。

ここで理解すべき大切な点は、ボディが動きを先導し、ラケットを持つ腕を引っ張る(誘導する)形となること―ラケットを持つ腕が体を引っ張り先導するのではないということだよ。 すなわち体重は、前足にかなり迅速に移動しなければならない。そうすることで体重が前方に引き寄せられ、それに導かれる形で腕がしなりとスナップを生み出しながら、ボディのあとを追うことが可能になる。


↑サビーネ・リシツキは 体重移動と腰の回転はよいが トスが高すぎる

前足への体重移動の遅れをカバーするため、トスを高くして時間を稼いでいる。腰の回転もあり、よいサービスだが、しかし一方でトスが高いと内的、外的影響を受けやすく、サービスが乱れる原因となりやすいのであまりすすめられない。

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