ボブ・ブレットのコーチングブック(1)コーチングの骨組み「Keep it simple」

修造チャレンジ・トップジュニアキャンプを指導するため来日した世界のトップコーチ、ボブ・ブレットによるコーチ講習会が開催された。「世界的なプレーヤーを育てたい気持ちがある人」を対象に公募した結果、100人以上の希望者の中から約30名が参加。その模様を複数に分けてお届けする。ボブ・ブレットのコーチングブック(1)はオンコートレッスンより抜粋、テーマは「コーチングの骨組み」。(テニスマガジン2002年3月号掲載)

指導◎ボブ・ ブレット 通訳◎松岡修造、櫻井準人
主催◎修造チャレンジ 共催◎日本テニス協会
取材・文◎テニスマガジン編集部 写真◎井出秀人、川口邦洋、菅原 淳、小山真司 

コーチ講習会スケジュール(2001年11月19日)

09時00分 集合
09時30分 会議室にてレクチャー
12時00分 昼食
13時00分 オンコート講習&トレーニング講習
18時15分 夕食
19時00分 ミーティング(質疑応答、ディスカッション)
21時00分 終了


写真解説

●会議室にてレクチャー
(写真右上)日本のコーチに大きな拍手で迎えられたボブ・ブレット(以下、敬意を込めて「ボブ」と表記)。左は櫻井準人コーチ(ボブの師であるハリー・ホップマンのキャンプで8年間コーチングにあたってきた人。今回はボブの通訳を務めた)
(写真下)この「コーチ講習会」は「世界的なプレーヤーを育てたい気持ちがある人」ということで公募。その結果、100人以上の希望者があった中から約30名が参加した。午後の部は、オンコート(ボブ&松岡修造が担当)とジム(マーティン・キルドフがフィットネスを担当)に分かれ、時間交代で少人数制(15名+15名)で進められた。

●オンコート講習
(写真左上)よりよいプレーヤーを育てるためのアイディアを出し合う実戦形式のレッスンが行われた。「ものごとを複雑にとらえすぎず、できるだけシンプルに考える。そうすれば本質は見えてくる」と語りかけた。

テーマは「Keep it simple(コーチングの骨組み)

「よりよいコーチになるために必要なのは好奇心だ。好奇心があればよいアイディアがたくさん出る。アイディアが出ればますます好奇心が膨らむ。ひとつのショットについて、よりよくするために頭の中からアイディアを出してみよう」


オンコート講習は
モデルを実践形式で指導
全員でディスカッション

最初にお話ししておきたい。各ショットでもっとも大切なのは「インパクト」だ。そのインパクトに関連して「フォロースルー」があり、そこに「グリップ」が密接に関係する。

どのプレーヤーを見ても共通しているのは、インパクトまでの時間をクリエイトしているということ。その時間があればボールに集中でき、ミスが出ない。この点をしっかり押さえておけば、答えは必ずよい方向へ出るので覚えておいてほしい。

レッスンはモデルに対し、コーチとして修正を加えるという方法で進めていこう。その内容についてディスカッションして、よりよいコーチになるためのトレーニングとする。

教える選手(=生徒)については、まず将来のビジョンを持つことが先決だ。「どうすればもうひとつレベルが上げられるか」「レベルを上げたらどういうゴールがあるのか」を理解しておかなければレッスンは始まらない。

私は日本に来るにあたって、この講習会にどういうゴールが必要かを考えたし、考え続けている。これが正しいと思って考えるのをやめてしまっては、よいコーチにはなれない。

日本には高橋尚子といういいランナーがいるが、彼女にコーチが「世界は無理だ」と限界をつくっていたら、あのような活躍はなかったと思う。選手に自信を持たせるように、ステップアップを考えるのがコーチの仕事だ。コーチ自身が選手の可能性を信じて、どうか自信を持たせてげてほしい。

課題1 ビッグ・フォアを打つ


状況説明◎オンコート・レッスンでは、モデルが打つショットをビッグ・ショットにするにはどうすればいいか、全員でディスカッションし、コーチングをトレーニングするという内容で行われた。その中から興味深い部分を抜粋する。進行はすべてボブが行う。

   ◇   ◇   ◇

日本人は、なぜビッグ・フォアハンドを持っていないのか?

コーチ
「安定を求めすぎるから」「体のサイズが小さい。外的要因がある」

朝の講義で私はみなさんに『コーチングの骨組み』と題し、どんなビジョンを持ってやったらいいかお話しした(「コーチングブック(2)コーチングは芸術である」参照)。ビッグ・フォアを打っためには何をしたらいいだろうか?

コーチ
「選手とコーチがビッグ・フォアのビジョンを持つことだ」

どんなふうに打てばビッグ・フォアは生まれると思うか?

コーチ
「高い打点でとらえてボールを打ち抜く」

グレート・フォアを打つアンドレ・アガシのインパクトでは何が起こっているだろう。

コーチ
「ラケットの加速」「体重が乗っていて、重いボールを打っている」

では、もしもアガシが軽いラケットを使っていたらどうなるだろう。重いラケットはボールを打ち出すタイミングさえ逃さなければ、ラケットが加速する。しかし、彼が軽いラケットを使っていたらどうだろう。

コーチ
「ボールが少し短くなり、伸びがなくなると思う」「エネルギーがないため相手を追い詰められないと思う」

このようにディスカッションしていけば、ビッグ・フォアを打つために必要なことが見えてくる。もっとも大事なことはインパクトからのラケットの加速である。

会話の中でさまざまなディテール(細部/detail)が出たが、その中から答えは浮かんできた。コーチの仕事として、(選手に)質問されたら答えを持たなければならない。だからデイテールを知らなければならない。そして、それは整理して自分の中に置くものである。


「どんなに頭の中のアイディアがよくても、紙に書いて築き上げてみないと見えてこないことがある。たとえ細かいところまで考えたとしても書き出すことで不足点が見つかる」とボブ。コーチたちが口々に挙げた「ビッグ・ショットを打つためにもっとも大切なポイント」をホワイトボードに書き出して整理した。



ボブはフォアハンドの打点を教えるとき、写真左のような位置に立って選手の体に触れ、「何が大切か」を教える。この位置に立つと選手が自然に打点を前にできる。このときのアドバイスは「ポジションが後ろすぎるのでもう少し前でプレーするように」ということと、「(イメージとして)インパクトから加速する」というふたつだけ。それまで後ろのポジションで、リストを無理に返してボールを飛ばしていたモデルだが、それからはインパクトの時間が前に長くなり、一目瞭然みるみるよくなっていった。

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