身体を動かす前の“3つの刺激” 「③動かす」【中村豊トレーナーのテニスアスリート革命|第67回】
日々の生活で、特に今はコロナ禍の生活で私たちはストレスを感じています。それが心身に何かしらの
歪みを生じさせているかもしれません。そこで普段私が行っている身体を労るメニューを紹介しましょう。
指導◎中村 豊
なかむら・ゆたか◎東京都出身。桐光学園高校卒業後、米国にテニス留学。 チャップマン大学でスポーツサイエンスを専攻し、トレーナーの道へ。過去には錦織圭、マリア・シャラポワを指導。2018年10月からIMGアカデミーのテニス・ストレングス&コンディショニング部門総括を務め、盛田正明テニスファンドの顧問ならびに選手育成に携わっていた。2020年6月から大坂なおみの専属トレーナーとなる
写真◎中村豊 構成◎編集部
みなさんに、私が現在、継続して行っている『身体を動かす前の3つの刺激』を紹介します。
① ほぐす|Massage
② 伸ばす|Stretch
③ 動かす|Stabilize ?
これまでに紹介したトレーニングは、まずセルフマッサージ(フォールローラー)によって筋膜をていねいにほぐすことでした(①)。筋膜とは、筋肉を包み込んでいる膜のことをいいます。 筋膜は、筋繊維一本一本の中にまで入り込んでいますが、全身に張りめぐらされており、第二の骨格とも呼ばれるほど非常に重要な組織です。そのあとは、伸ばすことによって(②)可動域を取り戻し、左右差の歪みをとります。
そして、その状態から徐々に身体を動かしていきます(③)。ここでの動作は「安定」を求めます。
人間のムーブメントというのは、巧妙かつ精密に構成されています。ロボットが動く姿を想像していただけると理解が早いでしょう。ロボットが動く姿というのは依然として“ロボットのよう”であり、人間のような動きの柔らかさ、滑らかさがありません。高度な機械工学、科学を用いても、まだまだ機械的な動作です。
ロボットの一つひとつの部位(単関節)は高性能に作られているのに人間のムーブメントにおよばないというのは、人間が多関節運動をしているためです。私たちには複雑な動きの連動、連鎖反応を用いて、機能する、対応ができる仕組みがあります。
日常生活の中でも私たちは多様な動作を自然と、無意識に繰り返しています。例えばコップに注がれたいっぱいのお水を、コップから溢れないように口に運んだり、あるいは、傾斜のある坂道を斜めに歩いてもお水をこぼさなかったり。さらにアスリートになれば、テニスのサービスを打つときにキレのあるスライス回転をかけたり、ネット側にドロップショットを打ったり、そうしたことを行うことができる手の感覚があります。それはまさにアート(芸術)を表現することに近い運動感覚です。
その機能を改善したり、向上させるときに、「③動かす(安定)」ことが大切な要素となります。
力を出力するときに大切なことは「多関節運動」であるということ、それと「呼吸法」です。ここに私たちの身体においてもっとも重要な部位である股関節を中心としたエクササイズを紹介します。
エクササイズ名|Tバランス
目的◎股関節の伸展と屈曲、骨盤・膝関節・足関節の安定の獲得
股関節は人間が行う様々な動作の中心的存在であり、もっとも出力が高い部位とも言われています。その臀筋群に対する刺激は欠かせず、そこでその部位を中心に動かし、刺激を加えていきます。
1|片足(右足)で立ち、両手を腰に添えます。できれば裸足で、軽く膝関節(15%)を曲げた状態を保ちます。両肘を脇に絞り、さらに肩甲骨を絞って、胸を張る気持ちで上肢を固定します。その状態を保ち、ゆっくりと息を吸い込みます(1、2、3とカウント)。
2|1の状態を保ち、ゆっくりと息を吐きながら(1、2、3とカウント)、上肢を倒していきます。裸足であれば、支持足である足指5本がそれぞれが作動している状態が実感できます。
3|上体が地面に対して水平となる状態を保ったポジションで、ゆっくりと息を吸い(1、2、3とカウント)、息を吐きます(1、2、3とカウント)。ここでの注意点は、骨盤の位置が地面に対して水平・平行で、可能な限り左右差がない状態を保つことです。両手を骨盤に添えているので同関節の位置は意識しやすいと思います。最初はバランスをとるのが難しいと思いますので、イスか壁などに手を添えながら行うとよいでしょう。
4|その後はゆっくりと1の状態まで持っていきます。正確に行えば、1回につき15秒ほどかかります。
5|1から4を5回から10回繰り返します。
注意点◎大事なことは左右差の改善です。テニスコート内での動きに関しては、右利きの選手であればサービスとフォアハンドの動作が右から左への回旋が中心となり、反対回りの回旋運動と、かなりの差が生まれます。みなさんの日常生活においても足を組むときに癖があると思います。立位のときも重心を左右どちらかに置くのではないでしょうか。スポーツをするときも、日常生活での癖が少しずつ蓄積されて出てしまうもので、歪みが生じることによって関節への重み・痛みに繋がっていってしまいます。
ですから、左右差を認知しながら事を進めることで改善もしくは向上させてください。例えば上手な方は5回、バランスをとるのが難しい方は10回など、かける時間と回数を工夫しましょう。
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