ジョコビッチはフェデラーのカムバックを「驚くべき」と評し、ラオニッチは「印象的」と表現した。

「ときに、運に恵まれることも必要だ」とフェデラーはコメントした。「なぜってあれらの7本のマッチポイントでは、ことをコントロール下に置くことはできない。彼がビッグショットを打ち込んでこないよう祈らなければならなかったよ」。

　そのセットを取って勝負を第5セットにもち込むためのフェデラー自身の2度目のチャンスで、サングレンはベースライン近くに着地するボールを放った。フェデラーはアウトだと思ったようだが――決して出なかったコールを待って、彼は線審のほうに顔を向けた――それでも守備的なやり方でそのボールを軽くはたき返し、次のサングレンのスマッシュはアウトとなった。

　フェデラーは頭の上で右の人差し指を動かし、そこから正しい軌道に乗った。彼は敗戦に向けて落ち込んでいくように見えていたときから約1時間が経った頃、試合を時速191kmのサービスのウィナーで締めくくった。

「ぎりぎりまで追い詰められた瞬間に、彼のレベルが上がったように思えた」とサングレンは悔しさを滲ませた。「彼は僕に、何もくれなかった」。

　ジョコビッチが対戦相手に感じさせるのが、まさにそれだ。

　ナイトセッションで行われたジョコビッチ対ラオニッチのカギとなる瞬間は、早い段階で訪れた。ラオニッチはこの試合に先立ちプレーした59回のサービスゲームのすべてを取っていたが、その連取はジョコビッチ戦の5-4の時点で終わりとなった。ジョコビッチにとってこの試合9度目のブレークポイントで、ラオニッチは19本のラリーの末にフォハンドをミスして第1セットを手渡してしまったのだ。

　その瞬間ジョコビッチは叫び声を上げ、拳を突き上げた。さらにラオニッチの2回サービスゲーム後、ジョコビッチはふたたびブレークを果たし、それだけで彼が第2セットを取るには十分だった。そしてほどなくして、彼は記録更新となる8度目のオーストラリアン・オープン優勝まであと2勝と迫った。

　オーストラリアン・オープンで6度優勝した実績を持つフェデラーは、ここで54位以下の選手に負けたことは一度もなかった。しかしATPツアーレベルの試合が500に満たないサングレンが素晴らしいプレーをし、サービスエースの数では27本対5本、ウィナー数の合計でも73対44と元王者を凌いだ。彼にはただ、重要な7ポイントを取る力だけが欠けていたのだ。

　彼はそのマッチポイントを例外に、必要としていたすべてのポイントを取り、獲得ポイント総数では161対160とフェデラーの上を行きさえしていた。

「彼は決してあきらめない」とジョコビッチはフェデラーについて語った。「もっとも重要な瞬間に彼は集中し、ベストのテニスをプレーするんだ」。

　百戦錬磨のフェデラーは、サングレンが味わった傷みを知っている。昨年7月にフェデラーはウインブルドン決勝でいくつかのマッチポイントをものにすることができず、ジョコビッチに敗れていたのだ。

「こういった敗戦は心に突き刺さる」とフェデラーは相手を気遣った。「でも今日、僕は信じられないほどラッキーだった」。

（APライター◎ハワード・フェンドリック／構成◎テニスマガジン）

※写真はロジャー・フェデラー（スイス）（撮影◎毛受亮介 / RYOSUKE MENJU）

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