ロジャー・フェデラーは35歳のとき、いかにその「強さ」を取り戻したのか?

強靭な肉体、力強いバックハンド、賢いスケジューリング、努力と才能、チームと家族とファンのこと……15のテーマでフェデラーを語る。【2017年10月号掲載記事】
文◎ポール・ファイン 写真◎小山真司、毛受亮介、Getty Images 構成◎編集部
Paul Fein
ポール・ファイン◎インタビュー記事や技術解説記事でおなじみの、テニスを取材して30年以上になるアメリカ在住のジャーナリスト。多くのトップコーチ、プレーヤーを取材し、数々の賞を獲得。執筆作品はamazon.comやBN.comで何度も1位となっている。テニスをこよなく愛し、コーチとしても上級レベルにある Paul Fein Tennis Confidential http://tennisconfidential.com
「フェデラーは明らかに10年前よりもうまくなっている」—— ジョン・マッケンロー
ロジャー・フェデラーはウインブルドン決勝でマリン・チリッチを6-3、6-1、6-4で下して格の違いを見せつけると「この2週間、ここで自分が成し遂げたすべてのことを、心から誇りに思っている。これまでのキャリアの中で〈最高のプレー〉だったんじゃないかな」と語った。
生涯19個目のグランドスラム・タイトルを36歳の誕生日の23日前に達成したのはダブルの快挙と言える。専門家たちもフェデラーの意見に同意する。「彼はキャリア最高のプレーを見せた」と評価するのは、過去にフェデラーのコーチを務めたポール・アナコーンや自身もスーパースターだったピート・サンプラスだ。ジョン・マッケンローはウインブルドン決勝の前に「フェデラーは明らかに10年前よりもうまくなっている」と評した。
ちょうど10年前、“マイティー・フェド”はウインブルドン5連覇を決めると同時に、過去4年間のグランドスラムで11度目の優勝を達成した。この頃がフェデラーの全盛期だと言われてきた。つい、最近までは……。
2012年のウインブルドン以来、グランドスラムのタイトルから遠ざかっていた期間をフェデラーは「苦難の時期」と振り返る。だが、今年に入り、オーストラリアン・オープンとウインブルドンの2つのメジャータイトルを獲得。この“ダブル”は自身2009年以来のことで、最多グランドスラム獲得の記録を「19」に伸ばした。
過去にフェデラーは「20回優勝して40歳までプレーする」とジョークを飛ばしたものだ。数年前までは誰も本気で信じなかった2つのシナリオが、今は現実味を帯びている。特に「20」という魔法の金字塔はあと一つまで近づいている。
過去に20を超えた選手は3人しかいない。マーガレット・コート(24回)、セレナ・ウイリアムズ(23回)、シュテフィ・グラフ(22回)だ。ケガさえなければ、8月28日に始まる今季最後のグランドスラムとなるUSオープンでも、優勝候補の筆頭として臨むだろう。
この年齢を感じさせないレジェンドは、いかにして、高い運動能力(手と目のハンド・アイ・コーディネーション、スピード、パワー、スタミナ、アジリティ)を必要とするスポーツで、トップの地位に返り咲くことができたのだろうか。しかも、多くのチャンピオンは10代後半や20代前半で優勝を成し遂げている。ここにこの興味をそそられる疑問の答えを並べていく。
テーマ 01|テニス愛
「今、最高のときを過ごしている。本当に素晴らしい時間だ」と、フェデラーはESPNマガジンのインタビューに答えた。「自分が出場したい大会にだけ参加することができ、そのプロセスをとても楽しめている。大会に出場してプレーすることも大好きなんだ。トレーニングしている時間も本当に楽しい。トレーニングを休み、休暇をとっているときも、その瞬間、瞬間を楽しんでいる」
もし自分がロジャー・フェデラーだったとしたら、人生で楽しくないことなどないはずだ。何と言っても、プロのアスリートとして驚愕すべきことに、36歳(8月8日が誕生日)になってもまだキャリアの絶頂期にいるのだから。
「私が今まで見た選手の中で、彼ほどテニスを愛し、楽しんでいる選手はいない」とフェデラーを表現するのは、1980年のオーストラリア・デビスカップ優勝メンバーの一人であり、フェデラー、アンドレ・アガシ、そして現在はシモナ・ハレプのコーチを務めるダレン・ケーヒルだ。

「私が今まで見た選手の中で、彼ほどテニスを愛し、楽しんでいる選手はいない」——— ダレン・ケーヒル

ウインブルドン決勝の舞台に現れたフェデラーの家族、2組の双子の子供たち

ウインブルドン優勝を祝うパーティへ出席したフェデラーと妻ミルカ
テーマ 02|家族のサポート
フェデラーはセンターコートで多くの喜びの涙を流してきたが、今回ウインブルドンでの涙には、自分でも驚いたようだった。
「あんな気持ちになったのは初めてのことだった。ふたたびウインブルドンで優勝し、偉大な記録を塗り替え、その喜びをいっしょに分かち合える家族がいたからさ。娘たち(マイラ、シャーリーンともに8歳)だけでなく、息子たち(3歳の双子の兄弟、レオとレニー)も来られた。だから本当にうれしかった。あの場所に立つためにどれほど気合いが入っていたのかも、あの瞬間に自分で気づいた。いろいろなことが重なって、あのようになったんだよ」
家族を何よりも大切にするフェデラーはウインブルドンで、あと何年トッププロとしてキャリアを続けるのかと聞かれ、「妻のミルカと、家族について、子供たちについて相談することになる。“みんなはツアーに出てハッピーなのか?”とね。現状は素晴らしいことに、何の問題もなく、すべてうまくいっているよ」と答えた。
彼女がフェデラー家の中で大きな権力を握っており、フェデラーのキャリアがいつまで続くのかを決められるのだ。
「彼女がいなければ、到底ここまでやってこられなかった。彼女が“もうこれ以上旅行をしたくない”と言ったら、“OK、じゃあ僕は引退しよう”と即答するだろう。それほどシンプルなんだ。彼女が僕のキャリアのカギを握っている。子供4人を連れて旅行に出るのはたいへんだけど、彼女は今それを楽しんでくれている。
もちろん、すべての大会に来てくれるわけじゃない。今季はシュツットガルトとハレにはひとりで行ったよ。今はここ(ウインブルドン)で全員が揃い、素晴らしい時間を過ごしている。彼女のサポートは計り知れないよ。彼女は最高さ!」

19度目のグランドスラム優勝を家族の前で成し遂げたフェデラーの目には涙が光った
テーマ 03|ファンのサポート
「観客が勝敗を分ける存在だと思わない人がいるならば、その人はまだテニスを十分に観戦する経験が足りないのだろう」と指摘するのは、80年代のスーパースター、ジョン・マッケンローだ。デビスカップを敵地で戦う以外は、世界中どこへ行っても大きなホームアドバンテージがあることを想像してみてほしい。それが当てはまるのは世界でただひとり、フェデラーだけなのだ。ATPワールドツアー.comで14年連続でファン投票1位になったその人気はとてつもないものである。
まったくの静寂に包まれるシーンもあれば、観客が大きな声で選手を応援することもあるスポーツで、ほとんどの大会で99%のファンがフェデラーを応援しているようだ。フェデラーのプレーにうっとりするファンは、「見たか! 今のショット!」というようなプレーで、さらにエネルギーを増幅させ、応援のテンションを上げている。
彼の試合中や練習中にはこんな看板が掲げられている。
「静粛に! 今、天才がプレー中だから!」

「14年連続でファン投票1位の人気者には、世界中どこへ行っても大きなアドバンテージがある」 ——— ポール・ファイン
テーマ 04|ケガの少ない強靭な肉体
ウインブルドンでは、フェデラーは20歳そこそこの新人選手のようにコート内を走り回っていた。その間、ノバク・ジョコビッチは肘の故障で棄権。アンディ・マレーは腰の痛みで苦しんだ。あまりケガをしないことで有名なラファエル・ナダルでさえも「痛みがないときはほとんどない」と告白した。フェデラーは生まれ持った頑丈な肉体なのか、あるいは軽やかな動きが体への負担を和らげているのか、1998年にツアーで初めて勝利を挙げたときから、重大なケガに悩まされたことがない。
しかし、フェデラーの幸運は2016年2月3日に終わる。左膝に、キャリアで初めてとなる手術を受けたのだ。この離脱によってグランドスラム連続出場が「65」でストップした(ジュニアを含めると「73」)。2016年のウインブルドン準決勝でミロシュ・ラオニッチに敗れた試合で転倒したとき、治ったばかりの膝を悪化させ、腰を痛めた。しかし、どちらのケガも6ヵ月の長期休暇の間に回復した。
アスリートがキャリアの終盤になって最初に衰えを感じるのは、一般的に足と目だと言われている。だが、フェデラーはただの一般的なアスリートではない。「36歳になって、あれだけ動けるのは信じられない」と今年のウインブルドン準々決勝のラオニッチ戦を見たマッケンローは驚きを隠さなかった。
的確にボールをとらえ、ほとんどミスヒットすることがない。フェデラーの目はかつてないほど鋭く光っている。さらに、彼はほかのどの選手よりもボールに集中し、長く見続けることができるのだ。

「アスリートが最初に衰えを感じるのは、一般的に足と目だと言われている。だが、フェデラーは信じられないほど動けて、ボールに集中している」 ——— ポール・ファイン
テーマ 05|賢いスケジューリング
昨年、フェデラーは膝と腰を完治させるために、6ヵ月の休養をとるという英断を下した。今年も慎重に考え、クレーコート・シーズンを丸々スキップした。批判なんてクソ食らえだ!
彼はフレンチ・オープンやマスターズ・シリーズで大暴れするラファを自分が阻止することはできないとわかっていた。クレーコートでの激しいラリーで自分が消耗し、ケガのリスクが高まることも予想していた。
2ヵ月のクレー・シーズンを飛ばすことの唯一のマイナスは実戦感覚が鈍ってしまうことだと思われた。しかし、そんな心配は彼のグラスコートでの圧倒的なスキルと積み重ねてきた莫大な経験により、杞憂に終わった。
短いインターバルを組み込む賢いスケジューリングはフェデラーにとって何も新しいことではない。セレナ&ビーナス・ウイリアムズを除き、彼ほど多くの休みをとる選手はいない。シーズン中も充電するために3、4週間の休暇をとるのが彼のやり方だ。
この日程調整とフィジカル・トレーニングの的確な計画によって、フェデラーはグランドスラムでコンディションを最高の状態に仕上げている。体に疲労が蓄積することなく、選手生命を伸ばしているのだ。
ケーヒルが言ったようにフェデラーは「よい判断を下して素晴らしいキャリアを築いた」のだ。

「的確な日程調整とフィジカル・トレーニングの計画によって、フェデラーは体に疲労を蓄積させず、選手生命を伸ばしている」 ——— ポール・ファイン
テーマ 06|新たにカスタマイズされたラケット
2014年のオーストラリアン・オープンでフェデラーは、ラケットをウイルソンの90インチフレームから現在の『プロスタッフ RF97オートグラフ』に変更した。それから多少時間はかかったが、このラケットのよさを最大限に生かせるようになった。
「以前のラケットではよくバックハンドを打ち損ねた」と2017年のインディアンウェルズでフェデラーは振り返った。スイートスポットが広がり、より大きなパワーを発揮できるラケットでフェデラーは大きく変化し、高いバウンドのサービスをより安定して返せるようになった。そして、より勇敢にミスを恐れることなく、バックハンドを振りきれている。
「あのラケットがなければ、ロジャーは今年のオーストラリアン・オープンで優勝できなかっただろう」と自信満々に話すのは、元世界ナンバーワンのジム・クーリエだ。

「あのラケットがなければ、ロジャーは今年のオーストラリアン・オープンで優勝できなかっただろう」 ——— ジム・クーリエ
テーマ 07|衰えることのない向上心
2005年にフェデラーは「まだまだ自分には伸びしろがある」と語った。満足感ではなく、かなり明快で正直な自己批判が出てきたのは、ウインブルドン3連覇を決めたときだった。これが5つ目のグランドスラムで、大会の決勝戦では21連勝、芝の上では32連勝を記録したときだった。
「彼の、より戦術的な選手への進化は素晴らしいもの」と高く評価するのはESPNの解説を務めるパム・シュライバー。「彼はキャリアの序盤は才能にあふれていたので、戦術はさほど必要としなかった。しかし、ここ数年になってようやく素晴らしいアスリート(歴代でも最高のアスリートのうちのひとり)であると同時に戦術家になる必要があると気づいたようだ。さらに、ルビチッチは彼と完璧に合うコーチだと思う」。

「キャリアの序盤は才能でプレーしていた。しかし、ここ数年は素晴らしいアスリートとして、戦術家として進化した」 ——— パム・シュライバー

2016年1月からコーチとして迎えたルビチッチとの関係は良好で、フェデラーのレベルアップに大きく貢献している

フェデラーの傍(左)にはいつもスイス代表監督であり、2007年からフェデラーのコーチを務めるセベリン・ルティの姿がある
テーマ 08|ルビチッチ効果
2016年1月、ステファン・エドバーグに代わり、元世界3位のイワン・ルビチッチがフェデラーのコーチに就任した。「6ヵ月の離脱があったから、彼らにとってストレスのたまる時期もあったが、それでもいい仕事をしているよ」と2017年のマイアミ・オープン決勝でフェデラーがナダルを倒したあと、ケーヒルは振り返った。
「2017年にフェデラーは生まれ変わって帰ってきた。バックハンドは強力になり、より効果的なサービスで主導権を握るようになった。これほど自信を持ってプレーする姿は長いこと見られなかった」とケーヒルは続ける。
急に組むことになったルビチッチの元でフェデラーはバックハンドを劇的に改善した。昨年まで天敵だったナダルに対し、今年は3戦全勝していることでその効果は証明されている。今季のフェデラーはバックハンドのスライスをほとんど打たなくなった。サービスリターンやラオニッチのようなビッグサーバー相手、あるいは相手を惑わすチェンジ・オブ・ペースで使う程度である。
こんなデータも新たなバックハンドの効果を裏付けている。2013年に比べて今年はハードコートで、バックハンドを平均で約45㎝も深く打っているのだ。さらに、リターン時のかなり積極的なポジショニングも戦術面で大きな要素に挙げられる。3月にインディアンウェルズで優勝したとき、ベースラインの約91㎝も内側にポジションをとっていた。これは2012年に同大会を制したときに比べると約180㎝も前に立っていることになる!

「2017年にフェデラーは生まれ変わって帰ってきた。バックハンドは 強力になり、より効果的なサービスで主導権を握るようになった。これほど自信を持ってプレーする姿は長いこと見られなかった」 ——— ダレン・ケーヒル
テーマ 09|自 信
「フェデラーの最大の特徴はナダルのそれとまったく同じである。ただし、2人はまったく異なる性格だけどね」と語るのは、フェデラーとピート・サンプラスのコーチを務めたポール・アナコーンだ。
「彼はよくも悪くも、その瞬間の感情に流されない。信じられないほど記憶が短いんだ。一瞬前に何が起こったかは関係ない。ロジャーは信じられないようなすごいショットを打つし、ミスもする。でも、それを気にも留めない。彼は感情を揺さぶられることなく、ただ淡々と次のポイントをプレーする」
このような記憶が短く、すぐに次へ進むことができる能力は、力の劣る選手に対する酷い敗戦や、歴史的な試合での胸が張り裂けるような敗北にもつながる。2015年USオープン決勝でノバク・ジョコビッチに敗れたことや2008年ウインブルドン決勝でナダルに敗れた試合によって、彼は荒れたりすることなく、よりよいプレーができるようにとインスパイアされるのだ。
「僕はいつもポジティブだ。もっとも難しい瞬間も、この性格のおかげで助けられていると思う」とフェデラーは自己分析した。

「彼は信じられないほど記憶が短いんだ。一瞬前に何が起こったかは関係なく、次のポイントをプレーする」 ——— ポール・アナコーン
テーマ 10|唯一無比のチーム
「“今年2つのグランドスラムを勝ち獲るよ”なんて言ったら笑われただろうね。自分でも2度も優勝できるとは信じられなかった」とフェデラーは言う。
「でも、チームのスタッフみんなに、僕がふたたびメジャータイトルを獲れるだろうかと聞いてはみたよ。重要なのは僕のチームが信じているということ。チームを動かすのは僕だけではない。チームが多くの時間、僕を支えてくれることが必要なんだ。
自分自身を疑っているとき、彼らは僕を安心させようとしてくれる。あまりにも調子がよすぎるときは、地に足を着けるように、自分がいるべき場所をきちんと教えてくれる。彼らの答えはいつもいっしょさ。“100%コンディションが整って、しっかり準備もでき、プレーする意欲にあふれていれば、何だってできる!”と言ってくれた」
ルビチッチ以外に、フェデラーには、スイス代表監督であり、2007年以来フェデラーのコーチを務めるセベリン・ルティ、フィジカルトレーナーのピエール・パガニーニ、セラピストのダニエル・トロクスラーにも敬意を表している。「特にルティの貢献度はかなり大きい」とケーヒルは言う。「彼は何年もフェデラーに対して手堅い存在として寄り添い、かつ素晴らしい影響を与えてきた」。

「チームの答えはいつもいっしょさ。“100%コンディションが整って、しっかり準備もでき、プレーする意欲にあふれていれば、何だってできる!”と言ってくれる」 ——— ロジャー・フェデラー

フェデラーのバックハンドは強力で自信に満ち溢れている。チェンジ・オブ・ペースで使う以外、ほとんどスライスを打たなくなった
テーマ 11|ビッグポイント
マルチナ・ナブラチロワは、「テニスはビッグポイントでいいプレーができるかどうかが問われるスポーツ」だと言う。
今年、フェデラーほどビッグポイントに強い選手はほかに見当たらない。ATPが公表するプレッシャー下での勝利ランキング(アンダー・プレッシャー・レイティングⒸ)でもフェデラーは258.9ポイントでトップとなっている。
このデータは4つの要素から割り出される。(1)ブレークポイントでブレークした確率、(2)ブレークポイントをしのいだ確率、(3)タイブレークに勝った確率、(4)最終セットに勝った確率。フェデラーは今季タイブレークで16勝5敗、グランドスラムのタイブレークは6勝1敗。グランドスラム(5セットマッチ)での最終セット、マスターズ1000(3セットマッチ)の最終セットは5勝0敗だ。キャリアを通してブレークポイント獲得率は、驚くことに非常に低いパーセンテージだが、今年に入ってからこの点は向上しており、40.9%まで上げている。

「今年のフェデラーほどビッグポイントに強い選手はほかに見当たらない」 ——— ポール・ファイン


今年のフェデラーはとにかくビッグポイントに強いところを見せている
テーマ 12|ほかのチャンピオンたちに認められること
過去、現在の偉大な選手たちから常々受ける、高くそびえ、エゴをおだてるような言葉は過小評価してはならない。
長くライバル関係にあるジョコビッチは「完璧なプレーなど永遠にできないものだと思うが、フェデラーならできるかもしれない」と最高級の賛辞を与えた。セレナは「彼は歴代最高の男性アスリート」と称賛し、サンプラスは「もっとも偉大な選手は誰かって? フェデラーだよ。ナダルが何度か彼を倒したじゃないか、と批評家は言うかもしれない。それでも僕の中では彼が歴代ナンバーワンだ」。
マッツ・ビランデルは面白い表現を使った。
「あのように華麗にプレーするのはどんな感覚なのか知るために、一度彼のシューズの中に入ってみたいものだ」
これらのフェデラーを称える言葉はほんの一部のもの。このほかにもメディア、コーチ、ライバル選手、ほかのスポーツ選手など、多くが彼を絶賛している。

「完璧なプレーなど永遠にできないものだと思うが、フェデラーならできるかもしれない」——— ノバク・ジョコビッチ
テーマ 13|幸 運
スーパースターも、時には運が必要だ。フェデラーの幸運は今年のオーストラリアン・オープンで始まった。プレクシクッション・アクリルのサーフェスは球足が速く、ボールが軽かったと多くの選手の意見が一致していた。どちらの要素もフェデラーの攻撃的なスタイルをより一層際立たせる。もうひとつ加えると、ナダルとの5セットにもつれた決勝の前に、ナダルよりも一日多く休養があったことだ。
しかし、フェデラーにとってもっともラッキーだったのは、アンディ・マレーとジョコビッチの両者が劇的な不調に陥ったことだろう。彼らは2016年シーズンを終えたとき、3位のラオニッチと大差をつけて、トップ2を独走していた。その頃、フェデラーとナダルは長期にわたり離脱し、16位と9位に甘んじていた。
現在、マレーは何とか1位を死守しているが、ナダルがすぐそこまで迫っている。あまりに受け身にプレーすることが多い30歳のイギリス人は、今年に入ってトップ8の選手に一度も勝っておらず、今年唯一のタイトルは5ヵ月前のドバイだけ。
ジョコビッチに至っては、ATP250のドーハとイーストボーンで優勝しただけで、ウインブルドンの準々決勝では右肘の故障で棄権を余儀なくされた。「プレーすればするほど悪くなる一方だ」と発言した後、7月26日にジョコビッチは右肘のケガのため、残りのシーズンを欠場すると発表した。

「スーパースターには運がある。攻撃的なスタイルを際立たせるオーストラリアン・オープンでのサーフェス。ナダルとの決勝前に、ナダルより一日多い休み。マレーとジョコビッチの不調」——— ポール・ファイン

オーストラリアン・オープン表彰式で、優勝したフェデラーと準優勝のナダル、そして中央には年間グランドスラムを2度達成しているロッド・レーバー
テーマ 14|努力と才能
ウインブルドン決勝を終えたフェデラーは「自分はすごく才能に恵まれているとは思う。でも、そのためには努力もした。才能だけでは限界があるんだ」と言った。この哲学は過去のチャンピオンたちにも当てはまる。ロッド・レーバー、マーガレット・コート、ナブラチロワ、現在ライバル関係にあるナダルやジョコビッチ、ほかのスポーツのスーパースターではマイケル・ジョーダン、クリスチアーノ・ロナウド、モハメド・アリ。
フェデラーはとてつもなく高温なドバイで厳しいトレーニングを行うことでも知られている。彼はドバイが2番目の家だと常々言っている。
発明家のトーマス・エジソンの言葉。「天才は1%のひらめきと99%の努力」。
才能あふれるフェデラーでさえも、何年も努力を続けてきたから今があるのだ。

「自分はすごく才能に恵まれているとは思う。でも、そのためには努力もした。才能だけでは限界があるんだ」——— ロジャー・フェデラー
テーマ 15|勝つことの喜び
今季、フェデラーはトップ10選手に対して9勝0敗。トマーシュ・ベルディヒ、錦織圭、スタン・ワウリンカ、ナダルをメルボルンで倒し、インディアンウェルズでナダルとワウリンカ、マイアミでナダル、ウインブルドンではラオニッチとチリッチに勝利した。
今年31勝2敗で勝率93.9%と凄まじい数字を残している。7大会に出場して5大会で優勝。そのうち4つはオーストラリアン・オープン、ウインブルドン、インディアンウェルズ、マイアミとビッグイベントばかりだ。
「人生最高のことを達成したとき、それをやめたくなくなるものだ。私にとってはそれがテニスだ」とフェデラーは過去に言ったことがある。
8月に、アメリカのハードコート・シリーズで“ロジャーの復活”は再開され、そのクライマックスはUSオープンでやってくる。シーズン最後のグランドスラムを彼は5回制している。しかし、最後に勝ち獲ったのは2008年のこと。36歳でその偉業を達成するのは困難だろう。ただ、彼は今年1月にオーストラリアで勝ったとき、ハードコートで優勝したのは2010年以来のことだったのだ。
6度目のUSオープン優勝は多くの記録を生む。まず、オープン化以降の優勝記録ではサンプラス、ジミー・コナーズの5回を上回り、単独1位となる。6度目の年間ランキング1位はサンプラスに並ぶ最高記録。アンドレ・アガシの年間1位の最年長記録も上回る。そして、1シーズンに3つのグランドスラムを獲れば、それは2007年以来のこととなる。
最高のシーズンを送っているフェデラーは、さらに大きなことを成し遂げるのだろうか? 「今年3つもグランドスラムを獲る? 冗談だろ?」とCNNのインタビューにフェデラーは答えた。
「コンディションがよければ、USオープンでいい成績を残せるかもしれない。でも優勝となると……。どこかで現実を見なければならないと思う。もう私は25歳ではないんだ。一年で3回もグランドスラムで勝つ自信はない。2つ勝っただけでも、とんでもないことだし、かなり満足しているよ」
彼の発言を鵜呑みにしてはいけない。偉大なチャンピオンは満足することなどありえないのだ。彼らはいつでも勝利に飢えている。そしてフェデラーは史上最高のチャンピオンなのだ。

「偉大なチャンピオンは満足することなどないのだ。彼らはいつでも勝利に飢えている。だからフェデラーも勝利に飢えている」——— ポール・ファイン


今年最後のグランドスラム、USオープンでフェデラーが優勝する可能性は?「ある!」
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