古今東西テニス史探訪(12) 長崎外国人居留地のテニス物語
■撮影された場所を探して
当時は転居して埼玉県浦和に在住していた筆者は、帰宅後、改めてグラバー園担当者にメールして「日本最初のテニスコート」説明板の内容について照会しました。しかし、説明板は2008(平成20)年に管理が変わる以前に設置されていて、以前の担当部署にも該当資料が残っていないとの回答でした。明治初期に芝生が植えられていた広場があって、その手入れにローラーが使われていたことははっきりしているけれど、ローンテニスの導入についてはわかっていないそうです。
長崎歴史文化博物館の資料閲覧室にも、メールと電話で問い合わせました。以前は県立長崎図書館に所蔵されていたグラバー家アルバムはこちらに移管されているのですが、2015年現在、「長崎でローンテニスを楽しむ人々の集合写真」の所在は確認できなくなっているとのことでした。
同館に所蔵されているグラバー家アルバムや写真の種類は多種多様で、オンラインでも公開されています。自分で探す場合は、同館のホームページのメニューで「収蔵資料」を選び、そのページの下部の「資料検索」>「全収蔵資料検索」、そして収蔵資料検索の「検索条件設定」に記入して探すようになっています。(2021年12月10日現在)
検索条件欄に「テニス」と記入して下部の「検索」をクリックすると、検索結果として9件が表示されました。そのうち「倉場富三郎氏邸写真 3/テニス場@グラバー関係写真」のサムネイルをクリックして、さらに画像を拡大してみると、「長崎でローンテニスを楽しむ人々の集合写真」の背景に写っている小屋と、その左横に立つ樹が写っていました。
アルバム「倉場富三郎邸写真@テニス場@グラバー関係写真」に保存されているテニス関連写真。【長崎歴史文化博物館所蔵】
その後、長崎歴史文化博物館に申請して入手できた「倉場富三郎氏邸写真 3/テニス場@グラバー関係写真」の画像データを拡大して見たところ、写っている人物は右から、帽子を被った洋服の男性、和服の女性、おそらく足元の犬を押さえている日本人使用人らしきハンチング帽の男性、そして左端にやはり日本人庭師らしきハンチング帽の男性でした。4人は間隔を空けてダブルスのように立っていますが、ラケットやネットは写っていませんからテニスとはまったく関係ないようです。
しかし写真の資料名や別名にあるように、場所は「倉場富三郎氏邸」、つまり長崎のグラバー邸の「テニス場」と思われました。
さらに9件のうちには、「(雲仙名勝)テニスコート(日本八景)」という白黒絵葉書があって、集合写真の小屋と似た小屋が写っていました。しかし、こちらには背景の景色となっている山が写っています。小屋の左横に立つ樹の有無もわかりません。
なお、雲仙の県営テニスコートは1913(大正2)年に開業したそうですが、それより以前の1889(明治22)年に上海の《North China Herald》紙が、「UNZEN AND ROUND ABOUT IT」などの記事で保養地としての雲仙を紹介しています。ですから集合写真は、日清戦争が終わってひとまずは落ち着いた長崎から、団体で親睦旅行に出かけた際の記念写真との可能性も否定することもできませんでした。
この時点では、「長崎でローンテニスを楽しむ人々の集合写真」の撮影場所をグラバー邸とも、雲仙とも、断定できなかったのです。
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