古今東西テニス史探訪(12) 長崎外国人居留地のテニス物語
■グラバーは長崎・東京を往復
グラバーの長女・ハナが生まれたのは、1876(明治9)年8月でした。成長期を東京で過ごしたという説もありますが、筆者は長崎の活水学院で学んでいたと考えています。
活水学院の学籍記録で確かめることはできませんでしたが、その根拠は以下の通りです。
(1)1880-1882(明治13-15)年、東山手新校舎に移転するまでの準備期間中、ミッションスクール活水学院は旧オルト邸を教場および宣教師住宅としていた。隣接地に住む幼児期のハナが旧オルト邸に通い、その後も近隣の東山手に移転した新校舎で学んだ可能性は高い。
(2)『KWASSUI 活水75年の歩み』中、1884(明治17)年の職員生徒の写真「10. Teachers and Students (1884)」にハナと思われる生徒が写っている。
(3)内藤初穂・著『トーマス・B・グラバー始末』第425ページに、1890(明治23)年に「活水学院卒業のハナが横浜丸で横浜に到着」と記してある。
ハナの成長期には、高島炭鉱を経営するグラバー商会の資金繰りが難航していました。その後、紆余曲折を経て経営は三菱の岩崎弥太郎の手に移ります。グラバーは側面サポートすることになり、三菱の顧問に就任しました。1884(明治17)年には、東京芝公園に別邸の借地権を取得して長男の富三郎を東京に呼び寄せ、学習院に入学させました。
またグラバー自身は、日本と外国の名士が交流する東京倶楽部会員になり、鹿鳴館の名誉書記に就任しています。鹿鳴館は、幕末の不平等条約改正を目指して日本政府が設けた内外人の社交施設でした。
その後、学習院の途中から米国に留学していた富三郎は1892(明治25)年に帰国して、長崎のホーム・リンガー商会に入社します。
翌1893(明治26)年3月には芝公園の別邸が全焼してはいますが、グラバーは焼け跡に新築工事を進めさせています。11月、鹿鳴館で行われた天長節夜会にはハナを伴って参列しました。
しかし直後の12月、グラバーは妻のツル、そしてハナ、養女のワカとともに長崎へ向かいました。英国からはグラバーの妹・マーサも永住するつもりで来崎していますから、久しぶりに家族が長崎で揃ったことになります。
1894(明治27)年7月には、懸案の不平等条約改正の第一歩となる日英通商航海条約が成立します。そして直後に始まった清との戦争に日本が勝利し、翌1895(明治28)年4月に講和条約が調印されました。
慌ただしい歴史の動きの中、グラバー家では1894(明治27)年に、ハナがホーム・リンガー商会のウォルター・ゴードン・ベネット(Walter Gordon Bennett)と婚約します。そして1897(明治30)年1月26日に長崎で結婚式を挙げ、ベネットの任地となった仁川(韓国)に向かいました。
「長崎でローンテニスを楽しむ人々の集合写真」は、この時期に撮られたのでしょう。
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