振り返ってみればあのとき、2020年コロナ禍特別企画「from SNS」Part3「ジョコビッチ×ワウリンカ」
新型コロナウイルス感染拡大の影響が、世界中に広がる中、それでも選手たちは前を向いている。SNSなどを通じて“stay home”を呼び掛けながら、次々と発信されていくポジティブなメッセージ。ここではその一部をお届けしていこう。(2020年7月号掲載記事)
Novak Djokovic × Stan Wawrinka
ノバク・ジョコビッチ(セルビア)× スタン・ワウリンカ(スイス)
ジョコビッチが2020年4月18日に行ったインスタグラム生配信(@djokernole)にはワウリンカが登場。スタンの“クレイジー・パンツ”の話題から始まった会話は、コロナ後、テニスの未来にまで及んでいった。抜粋してお届けしよう。
◇ ◇
あのショーツの秘密
ジョコビッチ スタニマル!
ワウリンカ 何が起きてるんだ?
ジョコビッチ 君こそどうしたんだ? 寝起きか?
ワウリンカ いや、そんなことはない(でも髪はボサボサ)。君が時間を守るなんて初めてじゃないか?
ジョコビッチ 次のステップは練習の時間を守ることだよ(大爆笑)。
ワウリンカ それが君にできるのか、わからないけどね。
ジョコビッチ 少なくとも、トライしているよ。君が一番よく憶えているのは2013年オーストラリアン・オープンのラウンド16だろうけどね。僕がファイナルセットを12-10で制した試合だ。
ワウリンカ それはよく憶えてないな(笑)。
ジョコビッチ ロラン・ギャロスだと2015年に決勝を戦ったけど、何が起きたか僕はあまり憶えてない。憶えている?
ワウリンカ 僕と対戦したと思うよ。
ジョコビッチ そうか! 君があのクレイジーなショーツを履いていたおかしな奴か!
ワウリンカ おっと、言い方に気をつけたほうがいいぜ。なぜなら、見ろ! ここにそれがあるからだ!(ヨネックスのショーツの布で作ったキーホルダーを見せる)
ジョコビッチ いや、マジか! (笑)このショーツはいったい誰のアイディアだったんだ?
ワウリンカ 初めてそのショーツを見て、履いたのは2014年に東京でツアーがあったときなんだ。僕はヨネックスが用意してくれたウェアを着るだけなんだ。
ジョコビッチ 独自のデザインをお願いしたりしてないの?
ワウリンカ それはないよ。でも、あのデザイン以降は色やデザインについて、もっと自分の意見を言うようにはなったよ。
ジョコビッチ そりゃそうだよね! そのあとのデザインの変化を見れば、想像できるよ。でも、あのショーツで君は世界でも最高のトロフィーのひとつを獲得したんだから、もっと履くべきなのに。
ワウリンカ ほらね。試合のことよりもショーツのことばかり憶えてるだろ? それが問題なんだ。
2015年のロラン・ギャロス決勝でワウリンカはジョコビッチを下したが、斬新なデザインのショーツでも話題をさらっていた(写真◎小山真司)
ロジャー&ラファへの思い
ワウリンカ 何度も聞かれたかもしれないけど、特にロジャーと対戦すると観衆が自分の敵になってしまう。そういう状況にはどのように対応しているんだい?
ジョコビッチ スタジアムのほとんどの人が対戦相手を応援している状況は、当然簡単じゃない。対戦相手を応援していたとしても、自分に対するリスペクトがあれば問題ない。でもリスペクトがないと感じれば感情的になることもある。まだキャリアが浅かったころは、ロジャーやラファと対戦するのが正直きつかった。当然、観客は相手を応援する。そのとき、僕は「フェアじゃない」と感じたものだ。昨年のウインブルドン決勝のロジャー戦について話そう。自分が経験したビッグマッチのうちの一つだ。面白い状況だった。観衆はほとんど彼を応援していた。コート上でもコート外でもね。
ワウリンカ なぜ、そういう風に感じたんだ?
ジョコビッチ 難しいな、いろいろあるよ。確かなのは、ロジャーは歴代最高の選手で、一番人気のある選手だ。彼がプレーする限り、ほとんどの観客は彼のサイドにつくものだ。似た状況はラファとの対戦についても言える。ただ、ロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルの偉大なところでもあるんだけど、テニス選手としてだけでなく、人間的にもカリスマ性があり、ナイスガイで偉大なチャンピオンだ。彼らと同じ時代に生きるのはラッキーでもあり、アンラッキーでもあるかもしれないが、うーーーん、どうだろう? 君の意見はどうだい?
ワウリンカ おお、このタイミングで無茶ぶりだな(笑)。僕は君の言ったことに同意するよ。彼らは素晴らしいチャンピオンだ、君と同じようにね。でも、例えば映画で3人のヒーローは必要ない。1人は悪役になるしかない。言っている意味、わかるかい?
ジョコビッチ もちろん。
ワウリンカ これは君のことをリスペクトしているから言えるんだ。君ら3人が若い頃、徐々に3人ともその方向づけがされていった。それが今につながっている。それが僕の意見だな。
ジョコビッチ 君の意見は完全に正しいと思うよ。2人とのライバル関係の始まりは、僕は自信満々の若手で、ロジャーもラファも尊敬しているけど、彼らに勝つことができると信じていた。でもみんなは“ラファやロジャーにチャレンジする若造”という感じで見ていたんじゃないかな。そこで僕は“自分対世界全体”という風に感じてしまった。今はそうは思ってないけど、最初の3~5年は全世界に自分の実力を証明しないといけない、戦わなければいけないと思っていたんだ。でも、今はいろいろ経験して、対処法がわかって、以前とは違う感じ方になっている。
テニスの未来
「コロナ後はどうなるか予想ができない。まず“いつ”がコロナ後なのか」(ワウリンカ)
「テニス界の底辺を支える選手たちを援助する新たなシステムが必要だ」(ジョコビッチ)
ジョコビッチ 視聴者からの質問。10年後のテニスはどういう風になっていると思う?
ワウリンカ いい質問だな。
ジョコビッチ 確かに。まずスタン、君が答えて。コロナ後のテニスがどうなるか、語ってみてくれよ。
ワウリンカ 正直言って、コロナ後はどうなるか、まったく予想ができない。クエスチョンマークだらけだ。まず“いつ”がコロナ後なのか?
ジョコビッチ この惑星でわかる人はいないだろう。
ワウリンカ そうだ。テニスの問題は、世界中からひとつの大会に選手が集まってプレーすることだ。だから難しい。無観客で開催したとしても、グランドスラムなら2、3000の人が大会運営のために働かなければならない。どう開催できるのか、多くの疑問が浮かび上がる。いつツアーが再開できるのかは、さらに難しい問題になる。
ジョコビッチ 選手は近い未来のことを知りたいものだ。近い未来の予定が必要だし、それを見て自分たちで計画を立てなければならない。どこで、どの大会に出るかとね。テニスがグローバルなスポーツであるという点はほかのスポーツに比べて不利に働く面もある。例えば、ヨーロッパ、アメリカなど1カ所に長く滞在して大会を行うようなコンセプトに変わる可能性もある。僕はそうならないことを願っているよ。テニスは誰にでも世界中を旅しながら戦うチャンスがあるスポーツなんだ。もし新型コロナウイルス下の状況が悪化するようなら、何か解決策を見つけなければならなくなる。ランキングが200位から700位くらい、それ以下の選手は、テニスをやめることを考えているかもしれない。
ワウリンカ そのとおりだ。すでにやめている選手もいる。僕らトップ選手が考えなければならないのは、テニス界がどうやって下位の選手を助けられるか。生活が苦しい選手が250位まで上がることは、すでにすごいことなんだ。そこでやめなければならないのは、ちょっと……。彼らを助けられるオプションが何か、ふたたびプレーできるようになるまでに考えないといけない。
ジョコビッチ 僕は2つの回答を持っているよ。まずは短い期間でのものだ。ロジャーやラファと数日前に話したんだ。未来のテニスがどうなるか、どう僕らが協力してランキングの低い選手たちを助けられるか。彼らは協会のサポートもなく、スポンサーの援助もない。完全に孤立していて、ほったらかしにされている。だから、ATP、グランドスラム、トップ選手がここで一丸となって、選手を救済するための基金を設立することができればいい。いくつか例外もあるけどATPがいま取り組んでいるよ。
テニス界を支えるベース(下位選手)の重要性に誰もが気づき始めている。250位以下の選手たちはテニスの未来を築く存在なんだ。プロで生きていこうと思っている若い世代にもメッセージを送らなければならない。今のようにパンデミックがあるタイミングでもテニスで生きていけること、ATPなどテニスの組織やトップ選手たちに頼ることができると見せなければならない。
そして、この短い期間で僕らが団結してみせたことは、長期のスパンでも続けなければならない。ただ、それはより複雑になるだろう。ITFがあり、グランドスラム、ATP、WTAがある。何らかの形でそれらすべての組織が統合して、今後のプラン、ランキングが低くてもテニス界の底辺を支える選手たちを援助する新たなシステムを作り出す必要がある。選手たちにとって、高いレベルに移行してプレーするのがより容易でなければならない。数年前、テニスのチャレンジャー大会でのルールが変更になった。あれはよくないと僕は感じている。トップレベルと、それ以外の選手の垣根をさらに大きくしてしまったからね。ただ、よりよくしようという動きがあるのはいいことだよ。
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