フェデラー、最後のグランドスラム・タイトル [2018オーストラリアン・オープン決勝]
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2017年のオーストラリアン・オープン男子シングルス決勝は、ロジャー・フェデラー(スイス)がマリン・チリッチ(クロアチア)を下し、2年連続6度目、グランドスラム通算20回目の優勝を飾った。フェデラーは決勝までオールストレート勝ち。オールラウンドのプレーは力強く、美しく、今回も世界中のテニスファンを虜にした。表彰式であふれ出た涙の意味は深い。36歳のレジェンドプレーヤーは心の底からテニスを楽しんでいた。(2018年4月号掲載記事)
文◎武田 薫 写真◎小山真司、Getty Images
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陽気に喜びを語っていた表情が急に強張り、言葉が途切れた。ロジャー・フェデラーにとって、オーストラリアン・オープンで6度目、メジャー通算20回目の快挙を祝っていた観衆は、一瞬、何が起きたかを疑ったようだ。あふれ出る涙のワケを、スタンドとともにいぶかしがった数秒間を、テニス界はいつまでも懐かしむことだろう。
「理由はうまく説明できない。決勝まであっと言う間だったから感情が残っていたのかもしれない。スピーチで言わなければいけないことをあれこれ考えていたら突然……。でも、あんなふうに自分の感情をみんなに見てもらえてよかった。あれだけ大勢の人がいたから感傷的にもなった。誰もいなければ、ああはならなかったのだから」
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表彰式で涙ぐむフェデラーを気遣うチリッチ
涙を拭う勝者の肩を、年下の敗者が笑いながら叩いた。このふたりには、もはや涙は欠かせないエピソードになりそうだ。昨年のウインブルドン決勝では、足の故障に苛立ったマリン・チリッチが試合途中で悔し涙を流した。
フェデラーの涙は南半球の時間と切り離せないものだろう。今年のオーストラリアン・オープンは、テニスがオープン化してから50回目、グランドスラム200回目という記念碑だったが、気温40度を超す日があったにもかかわらず、大会記録を更新する人出になった。
90年代にはトップ選手が訪れようとしなかった南半球の大会が、フェデラーの出現から輝きを増してきたことを、セレモニーを見守るファンは知っていた。ともに歩んだ時間を、36歳になったフェデラーは感じたのだ。
重厚なフルセットだった。
フェデラーがセットカウント2-1でリードした第4セット、3-2リードのサービスゲームから、チリッチの反撃は始まった。フェデラーのサービスの乱れを突いて強烈なフォアハンドをベースライン深くに叩き込み、ラブゲームでブレーク。そこから一気に4ゲーム連取でセットタイに持ち込むと、ファイナルセット、相手サービスの第1ゲームで2本のブレークポイントを握る怒濤の攻めだ。
しかし、フェデラーはここを踏みこたえた。そして、逆襲に転じた。屋根を閉ざした場内に「レッツゴー・ロジャー!」の歓声が響き、その檄がチリッチに何らかの圧力をもたらしたか。ダブルフォールト2本で第2ゲームを落とし、流れはするするっと変わった。
「第4セットからはいい流れになった。素晴らしいショットが打てた。ファイナルセットの第1ゲームが分岐点だったと思うが、ほんのわずかなアウトで、もう一度、同じ状況になっても自分は同じようにプレーしていたと思う」
フェデラーが逆に2度ブレークを奪った5-1、40-0で最初のマッチポイントを迎え、セカンドサービスのリターンボールがネットにかかった……喜びを爆発させたフェデラーだが、周囲の反応に気づいた。
「あれ、マッチポイントじゃなかったのかと思った」 チャレンジによる決着は、確かにドラマ性を殺いだかもしれない。だが、それもオープン化から通算200大会目のグランドスラムに相応しい閉幕だった。大観衆、チャレンジもまた、フェデラーの時代が築き上げたテニス界の現実だ。開閉式の屋根もその時代の産物である。
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2014年USオープン以来となるグランドスラム優勝を狙ったチリッチだが、フルセットの惜敗。決勝の舞台がフェデラー得意の室内コートになったのは運がなかったか
フェデラーは第1セット、立て続けに2度ブレークに成功して、わずか24分で切り上げている。この出だしの乱れについて、チリッチは屋根が閉じられたことの変化を指摘した。
この日は暑さ指数が規定を超えたため、ナイトセッションにもかかわらず、大会は屋根を閉じ冷房を入れた。そこまでとは異なる判断は、選手というよりも観客へのサービスだっただろう。チリッチが指摘したのは、どちらに有利とか不利ではなく、30度を超す試合を続けてきたところから室温24度に変わったことへの適応の難しさだ。
チリッチの決勝までの合計試合時間は計17時間3分、一方のフェデラーは準決勝のチョン・ヒョンは途中棄権もあって10時間50分……炎天下で6時間以上も長く戦い、フェデラーがセレモニーで口にした「決勝まであっという間」は、故障からの復帰、若手の台頭が話題になった今大会の特徴でもあった。フェデラーはいまだにツアーの写し絵なのだ。そして、涙越しのふたりの関係は見た目よりも深まっている。
「チリッチのプレーに対する姿勢が好きだ。本当のプロフェッショナルだと感じることがある。勝ち負けに関係なく、コート上でいつも変わらず勝者として振る舞っている」
昨年のオフにこんなことがあった。フェデラーが家族そろってモルジブ島のリゾートで遊んでいるところに、チリッチがフィアンセを連れてやって来た。偶然だったのだが、お互いに気を遣いながらも、家族でいっしょに食事をし、2度ほどコートで打ち合ったという。まだ続きそうな栄光の道を、フェデラーは改めてこう話した。
「練習が好きで旅行も苦ではない。大会数を制限し、そのためにはチームの助けが重要だし、何よりも妻のサポートは欠かせないものだ。何枚ものパズルが組み合わされて現在がある」
おそらく、モルジブのプールサイドでチリッチにもその話をしただろう。そういえば、昨年の決勝の相手だったラファエル・ナダルとも、オフにマヨルカ島でいっしょに過ごしている。36歳、違いのわかるこの男は、時間の使い方を知っているのだ。
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アンディ・マレーに次ぐイギリスの2番手、カイル・エドマンドがノーシードから怒濤の快進撃で4強入り
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