錦織圭_世界をリードする超攻撃的テニス

PHYSICAL
「 ケガを負ったあとの早期復帰、故障明けの高いパフォーマンスに錦織とチームの成長を感じた 」
── 佐藤雅弘(JAMプランニング代表)

 錦織選手は今年6月のゲリー・ウェバー・オープンで左脇腹を痛め、10月の楽天オープンでは左臀部のケガにより、ツアー離脱を余儀なくされました。前者は、昨年も同じ大会で左ふくらはぎを痛めており、本人も相当なショックを受けたと思います。さらに後者は年に一度の凱旋試合で、応援してくれる日本のファンの前で試合を見てもらうチャンスでした。2回戦のジョアン・ソウザ(ポルトガル)戦で途中棄権した際は「(今は)あまり信じられない」と、落胆ぶりをあらわにしていました。

 どちらのケガも本人にとって非常につらいものでしたが、1月から5月にかけて休みなく戦い、リオ五輪やUSオープンでフル稼働した身体の疲労度を考えると、突発的なケガは仕方がないように思います。一年にシングルス79試合(不戦敗を除く)を戦った錦織選手ですが、これは87試合のアンディ・マレーに次いで今シーズン2番目の試合数。以前から本人も不安視するシーズン後半のケガは回避できずとも、今年の戦いぶりは海外からも「タフな選手」として受け止められたのではないでしょうか。

 錦織選手の今年一番の成長はケガを負ったあと、特に復帰までの期間と故障明けの高いパフォーマンスにあると感じました。ウインブルドンで悪化した左脇腹痛は約1ヵ月で完治の状態までもっていき、7月下旬のロジャーズ・カップ(カナダ・トロント)は準優勝、その後のリオ五輪、USオープンの躍進につなげました。楽天オープンの後も3週間の休養からスイス室内で戦列に戻り、すぐさま準優勝を飾っています。

 長期的にツアーを離れることは、選手にとって非常に怖いことです。それは錦織選手自身も09年に手術した右肘のケガでわかっているはず。ケガを負っても短期間で治してすぐに戻るーー。その覚悟があるように見えましたし、すぐさま結果を残すところはさすがとしか言いようがありません。
この早期復帰の理由は、チームスタッフの存在も大いに貢献しています。今年から理学療法士のロビー・オオハシ氏もツアーに同行する機会が増えたと聞きました。チームスタッフのサポート体制をより強固にし、フィジカル面の強化だけでなく、身体のケア、食事面で万全なサポートが受けられる環境ができているようです。

 本人もケガに対する意識が年々変わってきているように思います。2016年でプロ9年目を迎え、これまでに得たツアー生活の経験からチームスタッフと自分の身体について綿密な話し合いを続け、本人も「この痛みならプレーを続けてもOK」「これ以上はまずい」といった判断基準が明確になってきていると思います。本人しかわからない感覚的な部分をスタッフに説明し、それを共有できているかどうかで故障した際のスムーズな対処、復帰後の好成績につながるのです。今年の錦織選手を見ると、その部分がとてもうまくいったのではないかと思います。

 新シーズン開幕は目前。2016年はフィジカル面で間違いなく一定の自信を得たはずで、これはチームスタッフ全員も含めてポジティブな要素です。フィジカルは特にチームとして力が発揮されるところ。よりチームの連係を強めて、2017年もさらなる飛躍に期待したいです。

クレーシーズンは好調をキープし、粘り強く戦い抜いた。フィジカル面の向上は球際の強さにもよく表れている

フィジカル強化はチームの力も問われる。中央がロビー・オオハシ氏

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