錦織圭_世界をリードする超攻撃的テニス

MENTAL
「 やり抜こうと覚悟を決めたウインブルドン。フィジカルと連動して、メンタルのリカバリー能力も上がった 」
── 佐藤雅幸(専修大学教授/スポーツ心理学)
今シーズンの錦織圭選手はメンタル的にも大きく飛躍したと思います。その象徴的なシーンはウインブルドンで見られました。前哨戦で左脇腹を痛めて欠場も考えられる中、出場に踏みきりました。結果は皆さんもご存知の通り、マリン・チリッチ(クロアチア)との4回戦で途中棄権に終わるわけですが、私はあそこまで戦い抜いたその執念に驚きました。
「人生の中で一番、痛みと戦ったぐらい出し尽くした」
「悪くなっても筋肉のケガ。切れるくらいはやれるかなと思っていた」
試合後の錦織選手のコメントです。その悔しさはもちろん、勝利に向かって最後の最後まで戦い抜こうとした気持ちが伝わってきます。
これまでの錦織選手なら、そうなる前に試合をやめていたかもしれません。この状態なら負けても仕方がないと、戦う前から自分に“ブレーキ”をかけていたでしょう。しかし、この試合後のコメントからは、そんな言い訳はまったく感じられません。
出場を決めた時点で、最後までやり抜こうと覚悟を決めたのだと思います。1回戦から目の前の試合に全力を尽くし、今、この瞬間に没頭して勝利を目指して戦っていました。おそらくコーチ陣、マイケル・チャンからは各試合前に「ひどいようなら、すぐに棄権しなさい」と言われていたはずです。チリッチ戦では、そのチャンが何度も両手でバツ印をつくって棄権のサインを送っていましたが、錦織選手はなかなかやめようとはしませんでした。1ヵ月後にはリオ五輪が控え、その影響も心配されました。しかし、後先のことを考えず、目の前の試合に集中していたのです。自分が今やるべきことだけに焦点を当て、要らないものがすべてそぎ落とされた精神状態だったと思います。
準優勝した2年前のUSオープンを憶えていますか。開幕の少し前、錦織選手は右足裏の拇指球付近にできた腫れ物の切開手術をしました。USオープン出場には「あまり出る気はなかった」と言っていましたが、そこをプッシュしたのがチャンでした。今回はそのチャンの棄権のサインを振りきり、自ら試合を続行したのです。勝てない時点で、ひどくなる前に棄権をするのがプロだという声も確かにあるでしょう。ただ、私は錦織選手が痛みとともに、覚悟を決めた自分自身と戦っているように見えました。
ウインブルドン後に帰国した錦織選手はトロントのマスターズ大会で準優勝、続くリオ五輪で銅メダルを獲得します。この成績はウインブルドンを欠場していたら、なかったかもしれません。ウインブルドンで最後の最後まで戦おうとした姿勢が、この成績につながったように思うのです。
リオ五輪の直後、すぐにシンシナティのマスターズ大会に移動しました。数週間後にはUSオープンが控え、さすがにシンシナティは欠場するだろうと思っていたのですが、そうではありませんでした。疲労のピークで動きが鈍く、結果は3回戦敗退。しかし、戦う決断をしてシンシナティに移動した時点で“成功”だったのです。
トッププレーヤーなら当たり前のことではないか。その通りです。でも、今まではそれがなかなかできませんでした。「きつい」「厳しい」と思っていた気持ちが、トップに定着した今は「やるぞ」「いけるぞ」というスイッチが入っている状態になりました。トッププレーヤーとしてのメンタリティが身体の中に染み込んできたのでしょう。USオープンでもベスト4に進みましたが、ウインブルドンからUSオープンまでの数ヵ月は心技体、すべての面において濃密なる成長期間だったと思います。フィジカルのリカバリー能力と連動し、メンタルのリカバリー能力も上がりました。
「自分で言うのも何ですが、4位、3位に入る能力はあると思う」
今シーズンを戦い終え、錦織選手が口にした言葉です。2年前の年末ランクは今年と同じ5位。でも当時は「少し居心地が悪い」と言っていましたから、このコメントの変化も非常に面白いです。
トップへの頂のドアに手を掛けたのが2年前なら、今年はそのドアを少し開きかけたように思います。まもなく27歳ですから、自分のテニス人生の最終章を考えたとき、何か見えてきたものがあるのかもしれません。今は心も体も「レディ」の状態。来シーズンはそのドアを全開にしてほしいと思います。

左脇腹の痛みを抱えながらの出場となった今年のウインブルドン。4回戦途中で棄権敗退に終わったが、得たものは大きかった

痛み止めの薬を飲んで試合を続行。最後まで戦う姿勢を見せた
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