ボブ・ブレットのコーチングブック(5)番外編_修造チャレンジ主催コーチ講習会を終えて
指導◎ボブ・ ブレット
主催◎修造チャレンジ 共催◎日本テニス協会
取材・文◎テニスマガジン編集部 写真◎井出秀人、川口邦洋、菅原 淳、小山真司
「コーチ講習会」で日本のコーチからボブ・ブレット(以下、敬意を込めてボブ)にこんな質問が出た。
「最近の子供たちは優等生が多いのだが、夢がない。たぶんボブさんが教えたらその子供たちも変わると思うが、うまく教える秘訣はあるか」
それに対してボブはこう答えた。
「あなたが言っていることはよくわかるが、しかし重要なのはモティベーションを与えるのはあなたたちコーチの役目ではないか。時代が変わったとかほかの要因を非難する前に、まずは自分を非難するべきだ。コーチが率先してものごとをやれば、子供はそれを見て必ず何かを感じる。若い頃のあなたは、教える力はまだなかったかもしれないが、モティベーションでそれを補おうというエネルギーがあったはずだ。そのエネルギーがあればたとえコーチが25歳だろうと、50歳、70歳だろうと、子供は必ずそのモティベーションを感じてついてくる。まずは自分のエネルギーを子供に費やすべきではないか」
ここまでずばりと言い切れる人がほかにいるだろうか。その潔さに驚いたりもしたが、それだけのことをやっている人に言われたら、誰でもすぐに納得がいくと思った。たとえ厳しい言葉で言われても、そこには相手がよりよくなるための思いやりがあるから、聞く側は素直に受け入れられる。
ボブは「コーチと選手の間には相手を信頼し、尊敬し合う関係が必要で、そのためにはコミュニケーションが大切だ」とも話している。だから彼は必要なことは必ず言葉にする姿勢を崩さない。これは人を育てる上でとても大切なこと。悪いところを見て見ぬふりする、隠す傾向がある今の世の中において、相手と本当の信頼関係を築くための方法にはやはり言葉が必要である。
数多くのトップ選手を育てたという肩書きよりも、ボブ・ブレットはその人柄で人を惹きつけている。誰と接するときも変わらない態度と、相手をよりよくしようと一生懸命な姿勢を持っているコーチ、ボブ・ブレットにみな、応えたい、続きたい、ついていきたいと思うのだろう。その中からトップ選手は育ってきた。
今回の講習会のあと、日本のコーチたちが帰り支度をするときの明るい顔を見たとき、長い一日の疲れはどこかへ吹き飛んでしまったようだった。よい仕事をした、よい一日になった、そんな気分になれたに違いない。
あるコーチが言った。
「ボブさんの話を聞いているとテニスのすばらしさが身に染みて、頑張ろうという気持ちが湧いてくる。今の自分もまだやれる、まだまだやれる、もっとやれよ、と言われたようで、自信が持てる」
ボブが日本のコーチたちにくれたのは自信ーー松岡修造さんはその意味をこう話す。
「ボブは魔法を持っています。ボブと話していると絶対にいいコーチになれるとみなさんが思ったでしょう。でも本当は魔法なんてないんです。ボブが話したのは基本。言い換えれば、誰もが知っていることです。つまりコーチはもっと自分に自信を持たないといけません。その基本をこれから日本のコーチがどのように相手に伝えていくかが大切なんです」
編集後記
決して人のコピーではなく、自分のものにしなければいけないと、ボブの教えを15年前から体に染み込ませてきたのが修造さんだ。15年前、ふたりが出会ったとき、まさか今日のような関係になるとは予想もしていなかっただろう。気づけばボブといっしょに同じ指導の道を歩いている。協力し合い、テニス談義に花を咲かせながら。かつての「師弟」が今は「親友」のようだ。生き生きとした関係はうらやましくもあり、微笑ましくも見える。
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