“圧”をかける①「ジョコビッチ対チチパス」戦の勝負際、大逆転の始まり【堀内昌一のテニスの戦略と戦術がよくわかるレッスン|第139回】
テニスは「間」と「場」のスポーツと表現することができます。テニスコートの中で「間」=時間をうまく使い、「場」=スペースを確保し、あるいは埋めるスポーツです。それを対戦相手と自分が交互に考えながらプレーして、「時間」と「場所」を奪い合います。これがテニスの戦略と戦術を考えるときのベースです。さて、この連載は2021年8月より、雑誌「テニスマガジン」からWEB「テニスマガジンONLINE」へ掲載場所を移します。今回お届けするテーマは「“圧(あつ)”をかける」ーー言葉の意味は本文で解説することにします。取り上げる題材は、先のフレンチ・オープン男子シングルス決勝「ジョコビッチ対チチパス」戦のあるシーンです。
指導◎堀内昌一
ほりうち·しょういち◎1960年2月1日、東京都生まれ。亜細亜大学教授、テニス監督。選手時代に83年ユニバーシアード出場。85、86年ジャパンオープン出場も果たした。現在は、学生の育成·強化はもちろんのこと、テニス界全体の普及·強化にも尽力。日本テニス協会公認マスターコーチとして指導者養成に携わる。この連載をまとめた書籍『テニス丸ごと一冊戦略と戦術①戦術を考えるために必要な基礎知識』『同パート②サービスキープは勝つための絶対条件』『同パート③ゲームの最終局面、ポイント獲得』、また書籍『テニス丸ごと一冊サービス』とDVD『テニス丸ごとサービス』 も好評発売中
写真◎Getty Images
※以下に掲載している写真は実際の試合の写真ですが、解説内容をわかりやすくするため限られた写真の中からイメージに合うものを選択して使用しています。ご了承ください。
今回のテーマ
“圧”をかける①「ジョコビッチ対チチパス」戦の勝負際、大逆転の始まり
緊張とともに集中力も高まる試合では、凡ミスが少ない
フレンチ・オープン男子シングルス決勝「ジョコビッチ対チチパス」戦は、6-7(6) 2-6 6-3 6-2 6-4ーー2セットダウンの劣勢からジョコビッチが大逆転勝利をおさめました。この優勝はグランドスラム19回目の優勝で、このときフェデラーとナダルが持つ歴代最多優勝回数の20回にあと一つと迫りました(その後、ウインブルドンで優勝したジョコビッチは20回に到達!)。ジョコビッチはフレンチ・オープンの優勝で、異なる4つのグランドスラム大会で2回以上優勝する「ダブル・グランドスラム」を成し遂げました。一方のチチパスは、グランドスラム初の決勝進出でしたが、初優勝は叶いませんでした。
この「ジョコビッチ対チチパス」戦のような大接戦、大逆転勝利というのは、何もトップ選手に限って起こることではありません。様々なレベルの試合でも似たようなことは起こり得ます。
例えば、ある大会の出場をかけた予選の決勝、お互いにとって学生生活最後の試合、チームの勝敗がかかった団体戦の最終試合など、緊張とともに集中力も高まる試合になると、お互いが譲らず、緊迫した展開になります。お互いが失うポイントの大きさをよくわかっているので確実なプレーを選び、そうすると凡ミスが非常に少なくなるのです。
では、そのような試合で勝敗を分けるターニングポイントはどのようにやってくるのでしょうか。ジョコビッチとチチパスの試合で考えてみます。私の印象に強く残った駆け引きのシーンを紹介しますが、そこに戦術的ヒントを見つけました。
ビッグポイントで仕掛けるーービッグポイントってどのポイント?
少し余談ですが、試合の勝敗を分けるような節目となるゲームやポイントを「ビッグポイント」と呼ぶことがあります。ターニングポイントを指すことが多いです。
ある人はビッグポイントをマッチポイントだと言い、ある人はセットポイントだと言い、またある人は長いデュースを繰り返したあとのゲームにつながったポイントだと言い、多くの場合、振り返ってあるポイントを指して言います。
テニスの試合はポイントの累積で勝敗を争うもので、大半の試合は相手よりも多くポイントを取ったほうが勝者となります。しかし、一部の試合は獲得ポイントが少ないほうが勝者となる例外的なことも起こり、また獲得ポイントが同点でも勝者が決まるのがテニスです。そこで、「すべてがビッグポイントだ!」と言う人もいます。いろいろな考え方があって面白いですね。
私はジョコビッチとチチパスの試合のビッグポイント(ゲーム)は、第3セットの第4ゲームだと思っています。
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