テニマガ・テニス部の試打の鉄則「五箇条」
テニスプレーヤーにとってラケットは、もっとも重要な相棒と言えます。その相棒を探すにあたり「試打」は価値ある情報源です。試し打ちは、自分との相性を探り、可能性を感じるための体感行為ですが、ただむやみに打てばいいというものでもありません。試打の目的を明確化し、どんなことをわかっていないといけないか……せっかくの試打で、自分にとってふさわしい相棒と出合うコツを、テニマガ・テニス部の部活『春の大お試し会』企画を通して、知ってください!(テニスマガジン2018年7月号掲載記事より。実際の試打、試履内容は省略し、読みやすくまとめ直しています)
構成◎松尾高司(KAI project)
1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー
写真◎井出秀人、BBM
開催日時◎2018年5月6日(日)
第1回◎10:00〜12:00
第2回◎13:00〜15:00
参加ブランド◎ラケット:バボラ、ダンロップスリクソン、ヘッド、ミズノ、ブリヂストン、テクニファイバー、プリンス、ヨネックス、シューズ:アディダス、バボラ、スリクソン
会場協力◎フェローズスポーツ(千葉・浦安)
「ただ打つ」だけの試打なら
やらないほうがいい!
試打ラケットは「テニスショップが無料で貸してくれるラケット」という印象があり、気軽に借りて打つ人が多いはず。
でも「ただ打つだけ」では、本当に自分が探すラケットと出合うのはきわめて難しいことを知ってほしい。
『テニマガ・テニス部』が開催した「春の大お試し会」に集まった参加者は、真剣に「自分の相棒になりそうなラケット」を探していた。そこに集まった8ブランド・83本のラケットの中には、一度も使ったことがないものもあり、わざわざショップで借りるほどでもないと思っていたけれど、思わぬ出合いがあるかもしれなかった。
試打という作業には、大きな落とし穴が待っている。それをちゃんと知って試さないと、「自分ではこれがベストマッチ」と思い込んでも、実際は「ただの独りよがり」に終わってしまう。
思い込みは、知らないことよりも恐ろしい。そんな試打の仕方をしていると、永遠に「真のパートナー」と巡り会うことはできなくなる。
ここでは、多くのプレーヤーが考えたことのなかった『試打の鉄則』を指南しよう。これを読めば、あなたはこれまでの試打の仕方に対する考え方を、根本的に変える必要があることを知るはずだ。
試打という「重要な情報源」を的確に処理し、効果的に運用するノウハウを、ぜひ身につけてほしい。
まえがき
試打の前に知っておけば
充実した試打をできる
ラケットの試打をするときは、誰しも「今の自分と、よりマッチするラケットと出合うかもしれない」という期待を持ってラケットを振るもの。ただ漫然と「ちょっと打ってみよう」というくらいでは、本当の出合いは期待薄となる。
だから、それなりの準備をしてから試打に臨んでほしい。
真剣に新しい相棒との出合いを望んでいるならば、試打をする前に、「今の自分を客観的に見る」ということを、必ず行ってほしい。
そして「試打」というものが、どういうものであるかを理解しておくことが、とても重要なのだ。それを知っていないと、ボールを打っている間も、どこに着眼したらいいかがわからず、ただただ「自分の好み」しか判断できなくなる。
どんな世界にあっても、道具というものは「結果を生むために使われるもの」である。それが「自分に適していること」「よい結果を引き出すことができるもの」という目的のために、道具は選ばれなければならない。
そこにさえ気づけば、これまで自分がいかに漫然とラケットを振って、ボールを引っ叩いてきただけかを知ることができるだろう。
優秀な職人にとって、道具選びというのが欠くべからざる素養の一つであることは理解できようが、我々素人にとっても、道具次第で楽しくなったり、強くなったりすることができることを知ってほしい。
ベテランプレーヤーのテニスは、大きく分けて2つある。一つは「ゲームを楽しむ」「勝負に執着する」タイプで、大多数がそうであろう。彼らが選ぶべきラケットは、自分の長所を生かし、短所をカバーしてくれるもの。トータルなバランスが重要だ。
しかしながら少数とはいっても確実に存在するのが「打つこと自体に快感を覚える」タイプ。こうしたプレーヤーにとって、勝敗などはどうでもいい。一日のうち、改心のショットを一発打てれば大満足。できればその瞬間に帰ってしまいたいくらいの気分である。彼らがラケットに求めるのは、打球感であり、破壊力である。
このように、自分がどちらのタイプかによって、選ぶべき基準が変わり、その結果も違ってくるから、試打する前に、自分はどちらであるかを振り返り、自分にマッチするラケットがどんなものなのかをしっかりイメージしておくべきなのである。
「熟練したプレーヤーほど、ラケットの違いがわからなくなる」というジレンマがある。熟練者であればあるほど、打球行為における調整能力が高い。最初に打った1〜2球の打球結果で、そのラケットの打球性能を把握してしまい、それ以降からは「無意識のうちに」調整してしまうのだ。そして困ったことに本人は、調整して打ち方を変えている自分にまったく気がつかない。だからどんなラケットを使っても打球結果は常に同じで、「ラケットの違いがわからない」ということになるのだ。
しかし、自分ではわからなくても、ラケットを持ち替えれば必ず「フォームの変化」に表れる。1球目で「飛びすぎる」と感じれば、スイング幅が小さくなり、無意識にパワーを抑えるフォームになっているはず。だから、試打では、自分の打ち方に窮屈感がないかを意識することが大切なのである。どうしてもわからない場合は、ビデオに撮影して客観的に観察するのがいい。
あくまで「勝ちたいプレーヤー」の場合だが、自分にとって最適なラケットというのは「自分のパフォーマンスを引き出し、弱点をカバーしてくれるラケット」であることは『鉄則その一』で話した。つまり重要なのは「結果」であり、「打球満足感」ではない。
ということは、自分の打球フォームに無理がなく、放った打球が相手にとってプレッシャーを与えるラケットが、あなたにとってベストなラケットなのだ。自分が「好きか嫌いか」と、自分に「最適かどうか」は、必ずしも一致しないのだ。
これはファッションスタイルや化粧を例にとると理解しやすいだろう。一般の方は、自分が好きなものが自分に似合っていると思い込んで、着る服を選ぶのが普通。しかし芸能人や著名人は、
「他人から見て『素敵』と思われる」服装を選ぶ。そのためにスタイリストという職業があるのだ。
打球結果に注目してラケットを選ぶということは、自分が自身のスタイリストになるべきであるということと同義なのだ。
ここまで「自分にマッチしたラケットとは、好みではなく『結果』だ」と繰り返してきたが、特に試打会などでは、現場で打球結果について分析するのは難しいだろう。球出ししてもらって判断するという方法もあるが、できれば「生きたボール」を打ち合えるラリーで打球効果を見たい。
パートナーといっしょに参加すれば、自分の打球を客観的に判断してくれて、その結果をすぐに伝えてくれるだろうが、一人での参加となると、自分ですべて判断しなければならない。
そういうときは、ラリーする相手と早く仲良くなってしまうのがいい。そして「すみませんが、どのラケットのときに一番イヤだったか教えてもらえませんか?」とお願いしてみよう。できれば、ラリーは常にその方とやるのがいい。試打環境を統一して、変化する要素をラケットだけを替えて試せば、比較しやすいからだ。
「試打は無料」に慣れていると、「有料試打」に抵抗感があるかもしれないが、試打は重要な情報源であり、そもそもタダというのがおかしいような気がする。
ショップ貸出しの「試打ラケット」には気をつけなければならない。例えばポリエステル系のストリングを使っているプレーヤーが、Aというラケットを使ったら柔らかすぎてダメだった……と感じる。だが、そのラケットに張ってあったのはマルチフィラメントの中でも柔らかいと評判の機種。しかも、いつ張り替えたのかわからないボヨボヨ状態。それではラケットフレーム自体の評価とはなり得ない。専門店の中には、有益な試打をしてもらうため、試打プレーヤーの使用環境に合わせてストリングを張り替えてくれる店がある。もちろん有料だが、実はベスト相棒と出合っているのに「気づかずにすれ違ってしまう」より、はるかに意味のある試打となる。多少の出費は、意義ある試打の必要経費と考えて、真剣に試打と向き合ってほしい。
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