「トップ選手のバランスに学べ!」バランス指導のスペシャリスト、マーティ・スミス PART4【サービス】

写真◎Getty Images



Q チチパスはサービスを打つときにバランスを崩しているように見えます……

A 体重が両足に均等にかかっているため、打点が不正確なバランスになります。

——すべてのエリートプレーヤーが完璧なバランスを持っているわけではありません。ステファノス・チチパスは世界6位ですが、サービスのときにバランスが崩れているように見えます。彼はなぜ、どのようにバランスを崩しているのですか? サービス時のバランスを良くするために彼はどうすればよいのでしょうか?

スミス チチパスのサービスは打球を見ると素晴らしいのですが、身長193㎝の選手ならもっとよくなるはずです。彼の問題は“トロフィーポジション”の姿勢が良くないことにあります。


チチパスのトロフィーポジション



 トロフィーポジションでは、左腰を傾け体重を左足(前足)にかけることが理想です(フェデラーのサービス参照)。正しいトロフィーポジションというのは、パワフルで安定感のあるサービスを打つために必要な2つの動きを支えてくれます。ひとつは肩を回転させる動きで、もうひとつがボールを打つために前方に伸び上がる動きです。


フェデラーのトロフィーポジション

 チチパスの場合は左腰が前傾しておらず、体重も前の足に乗りきっていません(下記参照、CHECK1)。そのため肩が正しく回転せず、水平方向に回ってしまい、スイング中に身体がネットのほうに正対するのが早すぎるのです(CHECK4&5) 。この間違った肩の動きとなっている影響で、彼はトスを左に寄った位置に上げて、打ったあとに着地する地点もネット方向に押し出す代わりに、左へずれてしまっています(CHECK5)。

 しかしながら、これが彼のサービスにおける間違ったトロフィーポジションによる最大の問題ではありません。トロフィーポジションのときに体重が両足に均等にかかっていることで、ボールを打つために上に伸びるものの、前方向に伸び上がる動きにならないのです(CHECK2&3)。ボールをコンタクトする瞬間に、彼の身体は地面に対してほぼ垂直になってしまいます。





 理想は“ピサの斜塔”のように少し前へ傾くことなのです(フェデラー参照)。サービスを打つ瞬間はニュートラルなバランスではなく、前方向に傾いたバランスが理想です。ボクサーが両足に均等に体重を乗せた状態で重いパンチを打てますか? ボクサーはより大きなパワーを発揮するために前方に体重を乗せるものです。チチパスはコンタクトポイントでの不正確なバランスのために、大きなパワーロスを起こしています。


左腰を傾け左足に体重をのせると、そのあと肩を回転させる動き、ボールを打つために前方に伸び上がる動きにつながる

サービスを打つ瞬間は前方向に傾いたバランスが理想

 コーチとしては、要因と効果を知らなければなりません。チチパスに「トスをもっと右前方に上げるように指導する」ことでは、コンタクトポイントのニュートラルなバランスや左に流れるフォロースルーは修正されません。彼は左腰を前傾させる(左腰が傾くように体重を乗せる)ことを学び、トロフィーポジションのときに体重がもっと前足にかかるようにしないと、この問題は解決できないのです。

 しかし皮肉なことに、彼はコンタクトポイントでのニュートラルなバランスによって、サービスを打ち終わったときは背中が真っすぐになって、相手のリターンに素早く反応できる体勢をとりやすくなっています(CHECK4)。しかし、この未熟な技術によって得られるアドバンテージに比べると、彼がサービスで失っているパワーと安定感のほうがはるかに大きな損失になります。

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