夏本番に「熱中症」安全対策〜スタンダードは“クール・ファースト”
新型コロナウイルスの影響は残るものの、テニスはソーシャルディスタンスが取りやすいスポーツ。コートにも徐々に人が戻ってきた。そこで迎える夏本番に、気をつけなければならないのが「熱中症」。日本テニス協会医事委員を務める中田研先生に、「熱中症対策」の最前線を解説していただこう。(2020年9月号掲載記事)
解説◎中田 研 写真◎Getty Images イラスト◎もりおゆう
プロフィール(※掲載時のまま)
なかた・けん◎1961年2月生まれ。大阪府出身。大阪大学大学院医学系研究科スポーツ医学教授。高校・大学時代はテニス部に所属。日本テニス協会医事委員(ナショナル部会長)/強化本部テクニカルサポート委員(メディカルチーフ)、関西テニス協会理事/スポーツ医科学委員会委員長を務める
1|熱中症を知る
テニスにおいて唯一、
命にかかわる
「熱中症」の怖さ
まずはテニスにおける熱中症の怖さをお伝えしておきましょう。
運動をすれば筋肉を使い、筋肉のエネルギーは最終的に熱となります。消費カロリーとも言われますね。使われたエネルギーは体内の熱となり、血液循環を介して体表の熱となり、大気中に熱を逃がしていきます。
その中で、汗は蒸発するときに気化熱を奪うことにより体表の温度を下げます。体内の運動エネルギーが熱となって体表に伝わり、外へ放出される流れを熱勾配といいます。体内は熱が高く、外にいくにつれて下がっていく状態であれば、きれいに熱が流れて体は正常な状態が保たれます。
ところが、気温が人間の体温の平均である36度を超えて逆熱勾配になってしまったり、脱水状態になって汗がかけなくなってしまったりすると、運動エネルギーで生まれた熱が外に逃げられなくなり、体温が上昇してしまいます。
人間は体温が狭い範囲で保たれている恒温動物です。体温が上がったままだと、卵がゆで卵になるように、体内のたんぱく質が変性し、もとに戻らなくなってしまいます。深部体温が39度の状態が30~40分も続けば、神経や脳が深刻なダメージを受けてしまうのです。
こうした異常の過程でめまいや筋肉痛、吐き気やケイレンといった熱中症の症状が表れます。テニスは肩肘を痛めるなどのオーバーユースは起こるスポーツですが、一生プレーができなくなるような深刻な障害は起こりにくいスポーツです。その中で唯一、熱中症は誰にでも簡単に起こる上に、場合によっては命にかかわるものだと言えます。
医学的に熱中症はⅠ~Ⅲ度に重症度を分けていますが、日本テニス協会では昨年、大会における「ヒートルールとメディカルルールの運用について」というパンフレットをつくり、その中で選手の症状に応じて点数化してプレー続行の判断基準としています。どんな状態が熱中症なのかというガイドラインにもなっていますので、レベルを問わずあらゆるプレーヤーに知っておいてもらいたいと思います。
ドクター、トレーナーのいずれもが配置されていない大会においては、熱中症を疑わせる該当の状態の重症度点の合計が3点以上の場合、レフェリーにより公式トーナメント規則「25.メディカルルール」「8.身体的プレーの限界」を適用する判断基準とする
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