Dr.マーク・コバクス「リズムが良くなればテニスはうまくなる!」(1)なぜリズムは重要なのか?

写真◎Getty Images


 スポーツにおけるリズムとは何か? そして、もしリズムがスポーツのパフォーマンスを向上させられるのなら、テニス選手はいかにすればよりリズミカルになれるのだろうか? スポーツテクノロジーの専門家でフィジオでもあるドクター・マーク・コバクス(Dr.MARK KOVACS)に、その知識をあますところなく聞いた貴重なロングインタビュー。1回目は「なぜテニスでリズムは重要なのか?」(テニスマガジン2020年9月号掲載記事)。 

インタビュー◎ポール・ファイン 翻訳◎池田晋 写真◎Getty Images
コバクス研究所 


もっとも
リズミカルな選手は
ロジャー・フェデラー


はじめに

ぜテニスでリズムは重要なのか? これらの興味深い質問は、ドクター・マーク・コバクスの専門領域となります。彼はハイパフォーマンスの専門家、スポーツテクノロジー・コンサルタント、パフォーマンスフィジオ、分析家、教授、作家、講演者、コーチ(USTA/全米テニス協会認定コーチ)といくつもの顔を持ち、科学的トレーニング、エリートアスリートの研究と広範囲なバックグラウンドを有しています。コバクス研究所のCEOを務め、その方向性、実験手順、アスリートのモニタリングプログラムを監督。特にテニスの研究に熱心で、アトランタ州、ジョージア州に新設されたアカデミーではテニスに特化した育成プログラムを進めています。

 オーストラリア・メルボルン出身の40歳は、これまでに25人以上のトッププレーヤーを指導してきました。代表的な選手は2017年USオープン優勝のスローン・スティーブンス、準優勝のマディソン・キーズで、ほかにもアメリカのトップ選手たちがずらりと並びます。テニス以外にもNBA、NFL、MLBのトッププロを何人も育ててきており、アトランタ・ブレーブスのショート、ダンズビー・スワンソンがその代表的な選手です。野球、ゴルフのジュニア選手も多く指導しています。  

 コバクスはこれまでに7つの著書を発表しており、その中でももっとも有名なのが『Tennis Anatomy(テニス解剖学)』『Complete Conditioning for Tennis(テニスのための完璧なコンディショニング)』です。これらの本は12ヵ国以上の言語に翻訳され、内容はストレッチ、リカバリー、メンタルトレーニング、解剖学とトレーニングについてです。

 こうしたバックグラウンドがあるコバクスに対するロングインタビューでは、多方面にわたるスポーツの専門知識をみなさんと共有してくれます。これらはあまり世に出ていない貴重なもので、かつテニスのリズムという題目において非常に重要な内容です。


Dr.MARK KOVACS

――2003年にリチャード・ショーンボーン(バイオメカニクス、スポーツ生理学の研究者)は「リズムは、ある動作の構成要素のうち、動的グループ化、構造、部分の強調であり、その規則性は必要に応じて、また個々に選択した時間的枠組みによって決定される」と書いています。彼の定義がテニスに適用されることに同意しますか?

 リズムは、効果的かつ継続的に身体を通して“エネルギーの放出を統合する”真の方法です。当時リチャード・ショーンボーンが『テニスワールド』で書いたリズムについての解説は、リズムを説明するのに複雑な方法をとっています。ほとんどの人は目で見ることでリズムを理解するものです。それはエネルギーの効率的な変換ともいえます。

 私自身は人生をシンプルに考えるのが好きです。彼の文章に反対しているわけではありませんよ。ただ、博士は必要以上に複雑化していると思います。もっと、もっとシンプルなものだと思うのです。地面から身体を通して放出されてボールに伝えられる、効率的なエネルギーの変換なのです。

 物理的な考え方だと、その動きの中の運動連鎖(キネティックチェーン)の連続(繰り返すこと)がどれほど効率的であるかというポイントになります。それがサービス、ボレー、フォアハンド、バックハンドであろうと同じことです。

 ボールにパワーを伝えるのに、エネルギーを溜めて放出するには、最適で基本的な方法があります。だからリズム、最適なリズムが最適な運動連鎖によるエネルギーへの変換なのです。私たちはそれを目で見ることで理解しています。ロジャー・フェデラー、ロッド・レーバー、ピート・サンプラスのサービスについて語るなら、彼らは信じられないほど良いリズムで打っています。言い換えれば、彼らは信じられないほど素晴らしい運動連鎖の連続を持っています。

――運動連鎖の定義を教えてください。

 運動連鎖は動きの中で、身体の関節や部位がお互いに影響しているというコンセプトです。ある人物が動き出すと、隣り合わせた関節や部位の動きに影響する動きの連続を生み出します。

――なぜテニスにおいてリズムは重要なのですか?  

 2つの大きな理由からリズムは重要です。ひとつは、リズムがパワーを下半身から上半身に伝え、そこからラケットを通じてボールに伝えることで、スピードやスピンを最適化させてくれるからです。それこそ、リズムがパフォーマンスを高めてくれる方法です。

 もうひとつは本当に、本当に重要なことです。もし、あなたが自分のリズムをつかみ、運動連鎖を効率的に利用することができれば、もっとも効率的な方法で自分のエネルギーを利用することができ、ケガのリスクや不必要な身体の部位の使い過ぎを防いでくれるからです。つまりリズムにはパフォーマンスを高めてくれる側面と、同時にケガの予防とケガを未然に防ぐ効果もあるのです。

――テニスの歴史の中でもっともリズミカルな選手は誰ですか? そして、その選手はどうリズミカルなのでしょうか?

 誰でもいいから、自分の好きなプロ選手や好きなストロークを思い浮かべるといいでしょう。その選手はおそらく素晴らしくリズミカルな選手であるはずです。おそらく、ロジャー・フェデラーがもっともリズミカルな選手でしょう。史上もっとも効率のよいテニス選手であり、ほとんど大きなケガをしてきませんでした。信じられないことに、フェデラーは現キャリアで1513試合を戦い、一度も試合途中でリタイアしたことがないのです。

 古い年代に戻るなら、1953年に初のグランドスラムを獲り、72年に自身最後のグランドスラムを獲得したケン・ローズウォールや、14年間のキャリアの中で、たった2度しかグランドスラムを欠場しなかったステファン・エドバーグもいます。女子ならイボンヌ・グーラゴン、クリス・エバート、ハナ・マンドリコワなどがおり、今世紀ならジュスティーヌ・エナンが素晴らしいリズムの手本のような存在です。

 これらの偉大なレジェンドたちと同じく、ほかの多くのプロ選手も、それほど頑張っているようには見えなくても、正しいポジションをとり、ボールに素晴らしいスピードとスピンを生み出すことができます。彼らは関連する要素であるリズミカルで効率的な面でもすぐれていました。

 そして話を運動連鎖の連続に戻しましょう。これらのエリートアスリートたちは、効率的に自分の身体を使うことができました。彼らはエネルギーをこれっぽっちも無駄にしません。そして自分が利用するエネルギーを素晴らしい形で変換する能力を備えています。さらに、彼らのほとんどはキャリアを通してケガが少なかったはずです。ここで知るべき重要なことは、リズムはトレーニングしやすいものであるということです。



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