ロジャー・フェデラー 2006インタビュー「王者の決意。」
フェデラーが唯一獲得していないグランドスラム・タイトルがフレンチ・オープン。このタイトル獲得に燃える彼が、本格的にクレーコート対策に身を入れたのが2006年シーズンだった。ロラン・ギャロスに対する思い、クレーでは他を寄せ付けないプレーを見せるラファエル・ナダルへの挑戦、ナンバーワンとしての重責などを、包み隠さずに、インタビュアーであるジョージ・ホムシに語っている。また、フェデラーのオープンな人柄もよく表れたインタビューだった。(2006年6月号掲載記事)
インタビュー◎ジョージ・ホムシ 翻訳◎川口由紀子 写真◎Getty Images
ーーまずはフレンチ・オープンの話題から始めましょう。そろそろ近づいてきましたが、今年のフレンチ・オープンをどう見ていますか?
「長い2週間であってほしいね。僕にとっては今シーズンの最大目標だーー今年のオーストラリアン・オープンに優勝しているだけでなく、目下グランドスラム3連勝中だから、それがフレンチの重要性を増すことになっている。フレンチだけだよ。あとはみな優勝したことがあるのに。昨年は、それ以前の不調に終わった3年間よりもかなりよくなっていただろ。またパリに戻れることですっかり興奮しているし、よいプレーができればいいなと期待しているよ」
ーーグランドスラム4連勝できる可能性については、どう考えていますか?
「そうだね、すごくワクワクしているよ。グランドスラム4連勝をずっと夢見てきたからね。それはたいへんな努力を必要とすることで、すでに3連勝していて、それだけでも十分すばらしいことだから、もし同年に4連勝となればまさに快挙となる。前に一度フレンチでグランドスラム4連勝のチャンスがあったが、あのときは必ずしも4つ同年にと考えていたわけではなかったし、ちょっと無理だった。フレンチはそれまで避けていたところがあったし、身体的にも精神的にも準備できているか不安だらけで、最後まですべてに準備ができているか自信がなかった。今年はすでに確認を終えているから、精神的に準備はできている」
ーーもしそうなればロッド・レーバー以来、初のグランドスラム4連勝となりますね。
「そうなればとても誇りに思うよ」
ーー可能性があるという事実がプレッシャーになりますか?
「いや、そうでもない。そんなこと知らなかったぐらいだから。でも達成した人が多くないことくらいは知っているよ。特に連続ではね。でもふたたびそのチャンスがめぐってくるよう祈っている。そのためにも早いラウンドからしっかり戦わなければならないね。エネルギーを温存しながら……なんてことは考えないよ。ただ昨年よりいいプレーがしたいと願うだけだ。昨年はフレンチ・オープンのベストのプレーだったとは思っていないからね」
ーークレーではハンブルクなど多くの大会で優勝していますが、なぜパリでは優勝できないのでしょう?
「まだ全力を出しきれていないんだ。たぶんフレンチ・オープンでは、あまり真剣にやらなかったことがこれまでに3回あったかもしれない。一度はアラジに負け、一度はホルナに負けている。両方とも1回戦負けだ。それで突然に、何をやっているんだ、フレンチはまだ終わっていないというのに、ウインブルドンの準備をしているがフレンチではまだ何も証明していないじゃないかと気づいたんだ。あと一度は僕が第1シードのときにクエルテンに負けている。彼はそこで何度も優勝しているから、負けは仕方のないことだったのかも。でもわからない……ただ気持ちが足りなかっただけかもしれない」
ーー5セットマッチが要因ですか?
「いや、そんなことはない。5セットマッチなどまったく恐れていないよ。でも早いラウンドで負けた試合を考えると、アラジ戦では雨が降り、全面的に彼のゲームに対しての判断を誤ってしまった。それから翌年ホルナ戦では、精神的にまったく準備ができていなかった。第1セットを失ったあと、挽回する可能性はなさそうだし、これからさらに6試合も勝つなんて無理だと思い、もうすっかり思考を停止してしまっていた。翌年3回戦でクエルテンと対戦したときは、状況はかなりよくなっていたが、その日の彼はすごく調子がよかったんだ」
ーー今年はフレンチに備えて身体的な準備に集中するだろうと言っていましたね。
「このところ、ずっとがんばってきたよ。特にピエール(・パガニーニ)とトレーニングを始めてからは。以前は自分にとって重要でないところでは、あまりがんばれなかった。だから、たぶん、これが問題だったんだろうね。それで自分に自信が持てなかったのかも。とにかく今年はモンテカルロ、ローマ、ハンブルクといったマスターズシリーズすべてに出場して……出場できるのはせいぜいそれくらいだろうから、そうすれば翌週のフレンチに向けて身体的にも準備が整っているはずだからね」
ーーあなたはまだ若いですが、フレンチ以外のすべてで優勝している偉大なプレーヤーたちのことが頭をよぎりますか? サンプラスなどのことですが。
「いや、そんなことはないよ。そうならないことを祈っているけど、わからない。僕は同年に3つのグランドスラムで優勝しているが、フレンチだけは優勝していない。だから立場的にはそうかもしれない。僕は多くの偉大なプレーヤー、サンプラスなどと同じ苦境にあるらしいね。そのことを考えないように努めているんだ。だってサンプラスのキャリアを振り返ると、なんてすばらしいんだって感心してしまうし、他の選手についてだってそうだ。人生には願っても叶わないこともあれば、そうでないこともある。できれば彼ら以上の何か違うことができればと思うけど」
ーー昨年の準決勝のナダル戦について、どのように思いますか?
「苦くて甘い思い出かな。試合自体はとてもエキサイティングだったと思う。自分らしいテニスを追求したが、少しこだわりすぎたところがあった。わかっているんだ。でも観客の応援はうれしかったよ。特に最後の方では観客は僕を応援してくれ、それはほとんど驚きに近かった。ただ、第4セットのところで、あたりが暗くなり、試合を中断するかどうかの瀬戸際で、それが精神的にも影響してしまった。彼はその日は負けるはずがなく、とても有利な立場にいたと思う。僕が勝つためには翌日に持ち越すべきだったが、そうなればなったで、厳しい状況になったかもしれない。おそらくストレスで参っていただろう。僕は自分でプレッシャーをかけていた。第4セットでは僕の方がワンブレークしていたのに、彼が挽回して最後は勝った。そのことがしばらくは頭から離れなくて、自分のプレー以上に悔しくてたまらなかったんだ」
ーー彼をクレーで倒すのはどれほどむずかしいことなのでしょう?
「いや、彼はその力をまだ1年しか証明していないよ。以前はケガの問題があったからね。もちろん、クレーでの彼は他の数人とともに強敵とみなしているよ。昨年の彼はクレーで大活躍をした。クレーではたぶんガウディオに次ぐ最高のプレーヤーかな。僕は彼との対戦をあまり考えないようにしているよ。だって僕らはランキングが1位と2位という可能性が大きいから、決勝までは対戦しないだろうと思うし、クレーでは彼は絶対に倒さなくてはならない人物になるんだからね」
ーーフレンチで優勝するにはどんな要素が必要ですか?
「ナダルに聞いてみてよ。僕は優勝したことがないんだから。でもどんなグランドスラムでも同じだよ。精神的にタフであること。そして最後までタフであり続けることだ。その間、ずっといい試合をし続ける必要はない。最初から最後までの道のりは長いからね。長い道のりの間、病気になることも痛みを感じることも許されないんだ。もし何かトラブルがあったら、特に5セットまでもつれれば、対戦相手が即、有利になってしまうからね。結局、あまり短期的に考えてはよくないということだと思う」
ーートニー(・ローチ)はどのように協力してくれますか? トニーはフレンチで優勝していますから、こういった状況の中だからこそ、一層あなたを助けてくれると思うのですが。
「そうだね。昨年は僕をその目標に限りなく近づけてくれた。お互いをより知るようになった今では、いっしょにやる時間も増えた。たぶん彼はこれまで自分では開けられなかったドアを開けてくれると思う。僕のオールラウンドなプレーをクレーでももっと活用するとか、サービスを生かすとか、別なやり方でフォアハンドをもっと活用するとかの方法でね。僕にはクレーで調整すべき多くの方法があるし、トニーがどうすればいいかアドバイスをくれると思う」
ーー試合ごとに、ですか?
「いや、いったん大会が始まってしまえば、もう準備をすることや協力できることはほとんどなく、対戦相手とどうプレーすべきかなどの的確なアドバイスなど何を言われようがあまり変わらないと思うんだ。僕にとって問題となるのはクレーでの総合的なゲームだからね」
ーーフレンチのことはもう終わりにしましょう。それがまだ獲得していない唯一のタイトルであることなどのすべての要素を考慮すると、ウインブルドンがあなたの最大目標だと聞くといささか驚く人もいます。それでもやはりウインブルドンなのでしょうか。
「僕にとって、それは質問にもならないほどのことで、本当に真剣に取り組むべきことなんだ。ウインブルドンは僕にとって、これまでのところ、もっとも優先されるものだ。フレンチが僕にとって何を意味するかは承知しているけれど、ウインブルドンはこれまでのキャリアの中でも格段にすばらしいものだ。フレンチというのは一度獲得したら、基本的にもうそれで終わりにできる。ゴールじゃないんだ。ただ明らかなのは、現在は、フレンチが2番目でウインブルドンの方が最重要だと言ったら嘘になる。今はフレンチで頭がいっぱいだ。ウインブルドンではないことは確かだね」
ーー子供の頃、ウインブルドンをテレビ観戦していたことが、憧れのきっかけですか?
「僕の英雄ともいうべきベッカーやエドバーグがプレーするのをテレビで観ていたんだ。なんてすばらしいんだって、いつも思っていた。98年にジュニアで単複両方で優勝したが、その雰囲気に一目惚れしたんだ。最初はベッカーやエドバーグ、それからサンプラスも好きになった。ウインブルドンはいわば伝統のようなものだ」
ーー毎年ウインブルドンに優勝することが最終目標だと言っていますが、ボルグやサンプラスの記録に挑戦するということですか?
「いや、何連勝などという具体的な目標は立ててないよ。ただ毎年出場するからには優勝したいと願うだけさ。でもそれはほとんど不可能なことで、3年連続優勝しただけでも十分幸せだ。ベストを尽くしたいと願うだけだ。フレンチがその前にあるので決して生易しいことではないが、誰にとってもそれは同じだからね。芝生ではクレーほど敵が多くないだろうとは感じている。ウインブルドンではそういう有利性を生かし、もっと優勝したいとは思っているよ」
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