Dr.マーク・コバクス「リズムが良くなればテニスはうまくなる!」(2)リズムをよく知る
――素晴らしいフォアハンドについて。ビヨン・ボルグ、イワン・レンドル、アガシ、フェデラー、ラファエル・ナダルは、それぞれグリップが異なり、技術的にも著しく違います。イースタン、セミウエスタン、ウエスタンなど、握り方(グリップ)の違いでリズムも変わるものでしょうか? もし変わるなら、どう変わりますか?
ストロークの話になると、特にこの質問で出てきたフォアハンドは、簡単に分析する方法があります。
まずグリップの握り方はスイング軌道を決定づけます。そしてスイング軌道は打点を決定づけます。主に次に紹介する3つのグリップの違いを頭に入れておけば、良いフォアハンドの基本を理解するのはとても簡単です。
イースタングリップでは、テークバックがある一定の角度でより直線的になります。ウエスタングリップでは、より角度のついたテークバックになり、より大きな弧を描く感じです。
打点はそれぞれ異なります。ボールを打つ前後の幅はウエスタングリップでは少し小さくなり、イースタングリップだとボールを打つ前は大きくなります。イースタングリップのヒッティングゾーンはより直線的で真っすぐなため、より長くなるのです。ウエスタングリップではスイングはよりボールに近いゾーンになります。
ウエスタングリップもしっかりとテークバックをしますが、イースタングリップよりもスイングの軌道を少し早く変える(真っすぐではなくなる)ことになります。
重要なのは、グリップによってスイング軌道は変化し、スイング軌道によってコンタクトポイント(打点)が決まるということです。そして、下半身の使い方とパワーの移行をよりよくすることが、すべてのストロークで重要な点です。素晴らしいフォアハンドを打つためには、効果的に地面を使うことが特に重要です。
イースタングリップのフォアハンド。ヒッティングゾーンが直線的で長い
ウエスタングリップのフォアハンド。イースタンに比べて軌道が変化するので、打点の幅は小さい
――ボレーもリズミカルに打つことができますか? それともよりスタッカートな(より区切ったような)動きが必要になりますか?
ボレーはテニスコート上において、もっともシンプルな動きのひとつになります。ボレーの上半身の動きはかなり小さく、主に下半身のエネルギーの変換によって打ちます。ボールに向かう動きと、体自体の動きと、そしてボールを特定のポジションで迎えるのがボレーなのです。
歴代最高のボレーヤー、そして前の世代のプレーヤーはボレーをたくさん練習していたため、現役選手たちよりも優れていると言えます。
歴代の名ボレーヤーと言えば、パット・キャッシュ、ステファン・エドバーグ、パトリック・ラフター、もう少し遡ればジョン・マッケンローがいます。いずれも非常に似た基本を持っているのですが、多くの方はマッケンローのボレーを独特のものだと主張します。でも私は違うと思っています。彼は素晴らしいボレー技術を持っていました。
マッケンローはボレーを打つときに、いつも打点が体の前にありました。そして足を使ってほとんどのボレーを打ちました。ほんの少しだけほかの選手とは違って見えただけです。 マッケンローよりも身体能力が優れていたキャッシュは、より足の動きに頼っていました。エドバーグもそうです。足からボールへエネルギーを伝える良い動きが、ボレーを簡単にしてくれます。そして、良いリズムはボレーでも重要です。
マッケンローのボレーはいつも打点が前
キャッシュは、より足を使ったボレー
――コーチはリズムを強調すべきですか? もしそうなら、なぜですか?
私はリズムについて語ることはありません。それを感情のように定義するコーチもいますが、定義するのが難しい用語です。むしろ、エネルギー変換や運動連鎖変換のほうがより的確に説明でき、利用可能です。すべてのコーチは、すべての選手たちに対して、良いリズムを習得するように指導すべきだと思います。
ただし問題は“どうやって良いリズムを指導するのか?”です。
私の場合、エネルギーを溜めて、エネルギーを放出することの物理学の原則をもとに指導しています。つまり、潜在的なエネルギー(エネルギーを溜めること)と動的エネルギー(エネルギーの放出)の2つがあり、これらを可能な限りもっとも効果的な方法で実践すると、最高の結果が得られるというわけです。それはつまり、素晴らしいリズムを手にしたことと同意になります。
もっとも効果的な方法でエネルギーを発揮できれば、それは素晴らしいリズムを手にしたことと同意になる
――プライオメトリクス・トレーニング(瞬間的に大きな力を発揮する能力を高めるためのトレーニング)は、選手のリズムをどのように良くしてくれるのでしょうか?
プライオメトリクス・トレーニングは、素早いエキセントリックな筋活動(伸張性筋収縮)の直後にコンセントリックな筋活動(短縮性筋収縮)があることで、コンセントリックな筋活動だけよりも大きな筋力が発生しやすいという性質を利用したトレーニングです。筋の急激な収縮で、筋力の発生を高めます。
例えばジャンプを例にしましょう。ジャンプするときは、最初に下へ軽くしゃがみ込み、下がってから上がるというかすかな動きの変換があります。それをプライオメトリクス・トレーニングによって上達させるということは、よりパワフルで爆発的になるということと同じ意味で、より良いテニス選手になることにつながります。
しかしながら、それがリズムを良くすることにはつながらないかもしれません。なぜなら悪いリズム、悪い運動連鎖の連続でも、より爆発的なパワーを生み出せることもあるからです。
ですからプライオメトリクス・トレーニングでは、テクニック面での向上にも取り組むことが重要になります。ただしプライオメトリクスの動きが良くなっただけでは、自動的にリズミカルなテニス選手になれるわけではありません。 (3)に続く
ジャンプするとき、人は下に下がってから上がる
リズムを感情のように定義する
コーチは、間違っている。
私の場合、リズムの指導は
エネルギーを溜めて、
エネルギーを放出することの
物理学の原則をもとに指導している
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