ロジャー・フェデラーは35歳のとき、いかにその「強さ」を取り戻したのか?
テーマ8|ルビチッチ効果
2016年1月、ステファン・エドバーグに代わり、元世界3位のイワン・ルビチッチがフェデラーのコーチに就任した。「6ヵ月の離脱があったから、彼らにとってストレスのたまる時期もあったが、それでもいい仕事をしているよ」と2017年のマイアミ・オープン決勝でフェデラーがナダルを倒したあと、ケーヒルは振り返った。
「2017年にフェデラーは生まれ変わって帰ってきた。バックハンドは強力になり、より効果的なサービスで主導権を握るようになった。これほど自信を持ってプレーする姿は長いこと見られなかった」とケーヒルは続ける。
急に組むことになったルビチッチの元でフェデラーはバックハンドを劇的に改善した。昨年まで天敵だったナダルに対し、今年は3戦全勝していることでその効果は証明されている。今季のフェデラーはバックハンドのスライスをほとんど打たなくなった。サービスリターンやラオニッチのようなビッグサーバー相手、あるいは相手を惑わすチェンジ・オブ・ペースで使う程度である。
こんなデータも新たなバックハンドの効果を裏付けている。2013年に比べて今年はハードコートで、バックハンドを平均で約45㎝も深く打っているのだ。さらに、リターン時のかなり積極的なポジショニングも戦術面で大きな要素に挙げられる。3月にインディアンウェルズで優勝したとき、ベースラインの約91㎝も内側にポジションをとっていた。これは2012年に同大会を制したときに比べると約180㎝も前に立っていることになる!
「2017年にフェデラーは生まれ変わって帰ってきた。バックハンドは 強力になり、より効果的なサービスで主導権を握るようになった。これほど自信を持ってプレーする姿は長いこと見られなかった」 ——— ダレン・ケーヒル
テーマ9|自信
「フェデラーの最大の特徴はナダルのそれとまったく同じである。ただし、2人はまったく異なる性格だけどね」と語るのは、フェデラーとピート・サンプラスのコーチを務めたポール・アナコーンだ。
「彼はよくも悪くも、その瞬間の感情に流されない。信じられないほど記憶が短いんだ。一瞬前に何が起こったかは関係ない。ロジャーは信じられないようなすごいショットを打つし、ミスもする。でも、それを気にも留めない。彼は感情を揺さぶられることなく、ただ淡々と次のポイントをプレーする」
このような記憶が短く、すぐに次へ進むことができる能力は、力の劣る選手に対する酷い敗戦や、歴史的な試合での胸が張り裂けるような敗北にもつながる。2015年USオープン決勝でノバク・ジョコビッチに敗れたことや2008年ウインブルドン決勝でナダルに敗れた試合によって、彼は荒れたりすることなく、よりよいプレーができるようにとインスパイアされるのだ。
「僕はいつもポジティブだ。もっとも難しい瞬間も、この性格のおかげで助けられていると思う」とフェデラーは自己分析した。
「彼は信じられないほど記憶が短いんだ。一瞬前に何が起こったかは関係なく、次のポイントをプレーする」 ——— ポール・アナコーン
テーマ10|唯一無比のチーム
「“今年2つのグランドスラムを勝ち獲るよ”なんて言ったら笑われただろうね。自分でも2度も優勝できるとは信じられなかった」とフェデラーは言う。
「でも、チームのスタッフみんなに、僕がふたたびメジャータイトルを獲れるだろうかと聞いてはみたよ。重要なのは僕のチームが信じているということ。チームを動かすのは僕だけではない。チームが多くの時間、僕を支えてくれることが必要なんだ。
自分自身を疑っているとき、彼らは僕を安心させようとしてくれる。あまりにも調子がよすぎるときは、地に足を着けるように、自分がいるべき場所をきちんと教えてくれる。彼らの答えはいつもいっしょさ。“100%コンディションが整って、しっかり準備もでき、プレーする意欲にあふれていれば、何だってできる!”と言ってくれた」
ルビチッチ以外に、フェデラーには、スイス代表監督であり、2007年以来フェデラーのコーチを務めるセベリン・ルティ、フィジカルトレーナーのピエール・パガニーニ、セラピストのダニエル・トロクスラーにも敬意を表している。「特にルティの貢献度はかなり大きい」とケーヒルは言う。「彼は何年もフェデラーに対して手堅い存在として寄り添い、かつ素晴らしい影響を与えてきた」。
「チームの答えはいつもいっしょさ。“100%コンディションが整って、しっかり準備もでき、プレーする意欲にあふれていれば、何だってできる!”と言ってくれる」 ——— ロジャー・フェデラー
フェデラーのバックハンドは強力で自信に満ち溢れている。チェンジ・オブ・ペースで使う以外、ほとんどスライスを打たなくなった
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