ロジャー・フェデラーは35歳のとき、いかにその「強さ」を取り戻したのか?
テーマ4|ケガの少ない強靭な肉体
ウインブルドンでは、フェデラーは20歳そこそこの新人選手のようにコート内を走り回っていた。その間、ノバク・ジョコビッチは肘の故障で棄権。アンディ・マレーは腰の痛みで苦しんだ。あまりケガをしないことで有名なラファエル・ナダルでさえも「痛みがないときはほとんどない」と告白した。フェデラーは生まれ持った頑丈な肉体なのか、あるいは軽やかな動きが体への負担を和らげているのか、1998年にツアーで初めて勝利を挙げたときから、重大なケガに悩まされたことがない。
しかし、フェデラーの幸運は2016年2月3日に終わる。左膝に、キャリアで初めてとなる手術を受けたのだ。この離脱によってグランドスラム連続出場が「65」でストップした(ジュニアを含めると「73」)。2016年のウインブルドン準決勝でミロシュ・ラオニッチに敗れた試合で転倒したとき、治ったばかりの膝を悪化させ、腰を痛めた。しかし、どちらのケガも6ヵ月の長期休暇の間に回復した。
アスリートがキャリアの終盤になって最初に衰えを感じるのは、一般的に足と目だと言われている。だが、フェデラーはただの一般的なアスリートではない。「36歳になって、あれだけ動けるのは信じられない」と今年のウインブルドン準々決勝のラオニッチ戦を見たマッケンローは驚きを隠さなかった。
的確にボールをとらえ、ほとんどミスヒットすることがない。フェデラーの目はかつてないほど鋭く光っている。さらに、彼はほかのどの選手よりもボールに集中し、長く見続けることができるのだ。
「アスリートが最初に衰えを感じるのは、一般的に足と目だと言われている。だが、フェデラーは信じられないほど動けて、ボールに集中している」 ——— ポール・ファイン
テーマ5|賢いスケジューリング
昨年、フェデラーは膝と腰を完治させるために、6ヵ月の休養をとるという英断を下した。今年も慎重に考え、クレーコート・シーズンを丸々スキップした。批判なんてクソ食らえだ!
彼はフレンチ・オープンやマスターズ・シリーズで大暴れするラファを自分が阻止することはできないとわかっていた。クレーコートでの激しいラリーで自分が消耗し、ケガのリスクが高まることも予想していた。
2ヵ月のクレー・シーズンを飛ばすことの唯一のマイナスは実戦感覚が鈍ってしまうことだと思われた。しかし、そんな心配は彼のグラスコートでの圧倒的なスキルと積み重ねてきた莫大な経験により、杞憂に終わった。
短いインターバルを組み込む賢いスケジューリングはフェデラーにとって何も新しいことではない。セレナ&ビーナス・ウイリアムズを除き、彼ほど多くの休みをとる選手はいない。シーズン中も充電するために3、4週間の休暇をとるのが彼のやり方だ。
この日程調整とフィジカル・トレーニングの的確な計画によって、フェデラーはグランドスラムでコンディションを最高の状態に仕上げている。体に疲労が蓄積することなく、選手生命を伸ばしているのだ。
ケーヒルが言ったようにフェデラーは「よい判断を下して素晴らしいキャリアを築いた」のだ。
「的確な日程調整とフィジカル・トレーニングの計画によって、フェデラーは体に疲労を蓄積させず、選手生命を伸ばしている」 ——— ポール・ファイン
テーマ6|新たにカスタマイズされたラケット
2014年のオーストラリアン・オープンでフェデラーは、ラケットをウイルソンの90インチフレームから現在の『プロスタッフ RF97オートグラフ』に変更した。それから多少時間はかかったが、このラケットのよさを最大限に生かせるようになった。
「以前のラケットではよくバックハンドを打ち損ねた」と2017年のインディアンウェルズでフェデラーは振り返った。スイートスポットが広がり、より大きなパワーを発揮できるラケットでフェデラーは大きく変化し、高いバウンドのサービスをより安定して返せるようになった。そして、より勇敢にミスを恐れることなく、バックハンドを振りきれている。
「あのラケットがなければ、ロジャーは今年のオーストラリアン・オープンで優勝できなかっただろう」と自信満々に話すのは、元世界ナンバーワンのジム・クーリエだ。
「あのラケットがなければ、ロジャーは今年のオーストラリアン・オープンで優勝できなかっただろう」 ——— ジム・クーリエ
テーマ7|衰えることのない向上心
2005年にフェデラーは「まだまだ自分には伸びしろがある」と語った。満足感ではなく、かなり明快で正直な自己批判が出てきたのは、ウインブルドン3連覇を決めたときだった。これが5つ目のグランドスラムで、大会の決勝戦では21連勝、芝の上では32連勝を記録したときだった。
「彼の、より戦術的な選手への進化は素晴らしいもの」と高く評価するのはESPNの解説を務めるパム・シュライバー。「彼はキャリアの序盤は才能にあふれていたので、戦術はさほど必要としなかった。しかし、ここ数年になってようやく素晴らしいアスリート(歴代でも最高のアスリートのうちのひとり)であると同時に戦術家になる必要があると気づいたようだ。さらに、ルビチッチは彼と完璧に合うコーチだと思う」。
「キャリアの序盤は才能でプレーしていた。しかし、ここ数年は素晴らしいアスリートとして、戦術家として進化した」 ——— パム・シュライバー
2016年1月からコーチとして迎えたルビチッチとの関係は良好で、フェデラーのレベルアップに大きく貢献している
フェデラーの傍(左)にはいつもスイス代表監督であり、2007年からフェデラーのコーチを務めるセベリン・ルティの姿がある
Pick up
-
PR | 2024-10-20
『ノアから世界へ』——ノア・テニスアカデミー所属、駒田唯衣選手&富田悠太選手インタビュー
全国に35校のテニススクールを展開する業界大手の『ノアイ
-
2024-10-27
第63回テニマガ・テニス部「テニス丸ごと一冊サービス[増補版] 解説編』キャンセル待ち受付中
キャンセル待ち受付中=====テニマガ・テニス部 部活プ
-
2024-10-08
テニス丸ごと一冊サービス[増補版] QRコード(動画)付(堀内昌一 著)書籍&電子書籍
「テニスマガジン」のサービス特集をきっかけに、MOOK「テニ
-
2024-05-03
『テニスフィジバト道場』(横山正吾 著)テニスプレーヤーのための最新フィジカルトレーニング
Tennis Magazine extraシリーズテニスプレ
-
2024-02-05
子どもが主体的に動き出すために大人はどうかかわればよいのか(荒木尚子/著)
子どもが主体的に動き出すために大人はどうかかわればよいのか(
-
2022-12-05
勝つための“食”戦略 『最新テニスの栄養学』(高橋文子著)
Tennis Magazine extra シリーズ最新テニ