バックハンドは片手打ちか、両手打ちか_元世界4位ジーン・メイヤーのバックハンド・レッスン第1弾

テーマ1|メイヤー自身の場合
片手打ち、両手打ちはどのように選ぶのか、現在の大多数は両手打ちのバックハンドを選んでいる

父アレックスが兄弟の個性を生かした

Q あなたの父アレックス・メイヤーはハンガリーやユーゴスラビアのデ杯代表選手で、アメリカへの移住後はトップコーチとして活躍しました。彼は60年代、兄サンディには片手打ちバックハンドを、そしてあなたには両手打ちのフォアとバックを教えました。なぜ、彼はそうしたのでしょうか。また、ほかのコーチたちはメイヤー兄弟をどのように見ていたと思いますか。

A 父が名コーチであった所以は、自分の理想を押しつけるのではなく、教え子たちの心の声に耳を傾けていたことだと思う。

 兄サンディはオールラウンドプレーヤーで、突出した武器を持っていなかった。だが、ネットに出てボレーでポイントを終わらせるのが非常に巧みだった。サンディは私と同様に、2歳の頃から両手打ちだったんだが、ネットに出ていく積極性や特性を見て、父は両手打ちをやめさせることを決心したんだ。

 私自身のプレーは、両手打ちフォアが大きなカギとなった。それは自信の源でもあり、選手としてもっとも重要なショットだったんだ。もともとフォアが両手打ちだから、必然的にバックも両手打ちになったよ。両手打ちは自分にすごく合っていると思ったし、ショットの種類も多彩になった。

 僕らは、ほかのコーチたちから注目を集めていて、「片手打ちと両手打ちのどちらでプレーするのか」という大きな判断材料となった。途中で変更しようとしたことは一度もない。そのプレースタイルが自分たちの性格、人間性に合っていたのだと思う。

 父はパンチョ・セグラ(素晴らしい両手打ちバックを持った元選手で、コーチとしても名を馳せた)に、その後の育成の過程について多くの助言を求めた。ほかのコーチ陣は僕ら兄弟を見て、同じ家庭で育ち、同じ食事をし、同じコーチに指導を受けたのに、ボールの打ち方やポイントの組み立て方がまったく違うことに関心を寄せ、驚いていたね

両サイド両手打ちのメイヤー。まず両手打ちフォアが大きな武器となり、必然的にバックも両手打ちになったという

両手打ちが大多数になったのは“簡単”だから

Q 1973年のATPランキングでは、トップ10のうち両手打ちバックはコナーズだけでした。1975年のWTAランキングではエバートだけです。逆に2016年のATPトップ10の片手打ちはワウリンカとティームだけで、WTAのトップ10には過去6年で一人も片手打ちバック選手がいません。なぜ、両手打ちが片手打ちバックの数を超えて逆転していったのだと思いますか。

A 両手打ちが支配し始めたのには、多くの理由があると思う。まず、両手のほうが片手よりも覚えるのが圧倒的に簡単だからだ。ラケットにもう一方の腕を添えることは、バックスイングのときの肩やお尻の動き(回転)をよりシンプルにしてくれる。体の使い方が強化されると、より安定した継続性のある精密なストロークになるものだ。

 両腕によって相手の速いボール、回転の多くかかった重いボールを打つ際にフェースのブレを抑えることもできる。相手の激しいサービスをリターンすることは、数あるスポーツの中でも非常に難しい技術を求められるが、両手打ちはそれを大いに助けてくれるんだ。

 最後の理由としては、この30年、多くのコーチや指導者がジュニアを指導するときに、主に両手打ちを教えているから、という単純な理由もあると思う。

ラケットの進化とバックハンドの進化

Q ラケットやストリングの進化は、バックハンドの進化にどのような影響やインパクトを与えましたか。

A 現代のラケットやストリングの登場は、バックハンドにほぼ必然的と言えるような好影響を与え、進化を促している。例えば40年前よりパワーやスピンを加えることがかなり容易になった。

 そして、両手打ちにはさらにアドバンテージがあった。高速のボール、強烈なスピンのかかったボールに対して、もう一方の腕を添えることで、コンタクトの瞬間にかなりラケットを安定させられるようになったんだ。高く弾むトップスピンに対して、ボールを打つストライクゾーンは上方に広がった。時速200㎞を超えるボールを打ち返すことは、両手打ちならそこまで困難ではなくなったんだ。これらの点で片手打ちとの間には差があると思う。

サーフェスの変化

Q 1974年は、グランドスラムの3大会が芝で、ひとつがクレーコートで行われました。現在はウインブルドンだけが芝で、オーストラリアン・オープンとUSオープンはハードコート、フレンチ・オープンはクレーコートで行われています。サーフェスの変化は、バックハンドの進化にどのような影響をもたらしたと思いますか。

A コートとともにボールもスローダウンして、持続性と安定性が重要なファクターになってきた。現在は重いストロークの打ち合いが標準のラリーとなっている。この状況では両手打ちが有利になる。ウインブルドンの芝生でイレギュラーが起こり、ポイントが短く、チップ&チャージ(またはネットラッシュ)が全盛だった時代は、とうの昔に終わってしまった。

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