丸山淳一コーチ_スピン大研究_③スピンを使う〜トッププレーヤーたちの特徴的なスピンの使い方

森田あゆみプロ&内藤祐希プロの専属コーチとして転戦している丸山淳一コーチが、その経験から抽出したエッセンスをお届けするテニスマガジン連載『ツアーなう!』。今回は、巻頭技術特集「スピン大研究」の中のひとつ、「スピンを使う」ことについトッププレーヤーたちの特長的なスピンの使い方を紹介しよう。(テニスマガジン2019年9月号掲載記事)

解説◎丸山 淳一

まるやま・じゅんいち●1965年4月8日、東京都生まれ。早稲田大学時代の88年にインカレ準優勝。95、96年全日本選手権混合複連覇。元デビスカップ日本代表選手。現役引退後は杉山愛(95~99年)、岩渕聡(2000~03年)を指導。その間、フェドカップやシドニー五輪の日本代表コーチとしても活躍した。現在は森田あゆみプロと内藤祐希プロの専属コーチ、早稲田大学テニス部コーチを務める

PLAYER01|ラファエル・ナダル

重いトップスピンを打って、 相手を後方へ下げる。 高い打点で打たせる

 対戦相手に対してもっとも有効なスピンというと、ナダルが打つようなトップスピンが挙げられます。テニスのラリーはその多くでトップスピンを使いますが、なぜならコートにしっかりとおさめられ、安全に打つことも攻撃的に打つこともできるからです。

 体重をしっかりと乗せて打つ、ボール軌道が高いことが特徴の重いトップスピンは、ネットの上の高いところを通ったあとベースラインの内側に急激に落下します。バウンド後は相手のほうへ向かって強く高く弾むため、相手は返球が難しく、ポジションを後方へ下げて対処することになります。

 強く高く弾むボールを、力の入れづらい相手のバックハンド側に打てれば、さらに効果的です。それがエラーの原因になったり、返球できても甘いボールになるなど、相手のプレーレベルを下げることができます。相手が下がってプレーし始めたら、オープンスペースが増えます。ですから重いトップスピンを打つことは、テニスプレーヤー共通の目標です。









PLAYER02|ノバク・ジョコビッチ

フォア、バックとも 一定のスピン系ショットが基本。 決定的なチャンスがくるまで 打ち続ける

 ジョコビッチのストロークの安定感は、まさに世界一です。比較的一定のスピン系ショットで、ネットの上の高いところを通して落とすことを基本にプレーしています。

 チャンスと思われるボールがやってきたとき、多くの選手はダウン・ザ・ラインやアングルへ、スピードを上げて打っていくものですが、ジョコビッチはそれをしません。そういうときはもう一回、相手を苦しめて決定的なチャンスをつくってからしか打たないのです。これが彼のプレースタイルなのだと思います。

 そのためのスピンのコントロール、安定感、それとしつこさは脅威です。ジョコビッチを上回るには、ジョコビッチのそれと戦い続けられるショットの精度と、とてつもないフィジカルが必要です。何本か打てるくらいでは、ゲームにつながらないでしょう。

 そういうプレーができる選手というと、例えばダビド・ゴファンが想像できますが、ゴファンにジョコビッチ以上の体力があればの話です。

 ジョコビッチのプレースタイルは、相手をじわじわと追い詰めていくやり方なので、もっとも取りこぼしが少ないです。相手が弱るまでひたすらトップスピンでラリーを続けられます。ラリーをしながら、どうやってポイントを取るかをずっと考え続けている選手です。






PLAYER03|ロジャー・フェデラー

スピンを駆使し 様々に組み合わせ、 同じサービスを続けて打たない。 相手に読ませない

 フェデラーの進化が止まりません。特に素晴らしいのがスピンを駆使したサービスです。  どんなにポイントがほしいときでも、サービスがあれほどいいフェデラーが速度重視のフラットサービスを打ちません。確率が低いものを選ばないのです。それとフェデラーはボディを狙うサービスもほとんど打ちません。これは想像ですが、彼のテニスの美学にその選択肢はないのかもしれないと思います。

 フェデラーはサービスボックスの4つのコーナーに対し、回転の種類(縦回転から横回転、その中間回転)、回転量、速度を少しずつ変化させ、組み合わせて、ボールの弾み方、曲がり方、速さを変えます。それを同じトスから打ち出すため、これを読むのは難しく、タイミングがなかなか合わせられません。  私はこれまでフェデラーは何種類ものサービスを打っていると考えていましたが、今は何種類どころではないと思うようになりました。いくらでも違うサービスがつくれるのではないでしょうか。

 錦織圭選手のコーチであるマイケル・チャンがあるとき、こんなコメントをしていました。フェデラーはちょっとずつサービスを変えてくるというのです。

 なぜ37歳の今もグランドスラムで優勝争いができるのか、その大きな理由のひとつにサービスがあると思います。普通は試合の後半になると、レシーバーがサービスに慣れ始め、読めるようになるものですが、フェデラーの場合は、レシーバーのリターン(ポジション、タイミング、ショットの選択)に慣れてきて、読めているのかもしれません。読み合いでフェデラーが優って、読みを外してプレーできるというわけです。ただしナダルやジョコビッチはそれに食らいつくので、彼らとの対戦はいつも接戦になります。





どの時点でサービスのコースがわかるだろうか。レシーバー目線でフェデラーを見て、その動作方向やラケット面の向きを見ただけではわからない。打法をほとんど変えずにスピンを駆使すればレシーバーを欺ける


どの時点でサービスのコースがわかるだろうか。インパクト直前でもまったくわからない



PLAYER04|錦織圭

クロス、ダウン・ザ・ライン、どちらにも打てる体勢から、 スピードのある重いトップスピンでライン側にエースを狙う

 錦織選手のフォアとバックはともにしっかりとしたスピン量があり、いずれも体重を乗せた重いトップスピンです。どちらも非常に安定していますが、特に相手が脅威を感じるのが錦織選手が、クロスにもダウン・ザ・ラインにも、どちらにも打てる体勢で構えたときで、どちらに打ってくるかわからないので動けません。そして、その体勢からのもっとも威力のあるショットが、バックハンドのダウン・ザ・ラインです。



 錦織選手のバックハンドは身体の使い方が素晴らしく、スピードのあるトップスピンを、正確にラインを狙って打つことができます。これが打てる選手はそれほど多いわけではありません。もうひとり名前をあげるならジョコビッチです。

 錦織選手は、しっかりスピンはかけていますがボール軌道は直線的です。スピンをかけているからダウン・ザ・ライン、クロス、コーナーとライン側や厳しい場所に打つことができます。そこでわざわざもっとスピンを多くする必要はないのです。

 かつてのトップスピンはネットの上を高く通して、バウンド後に高く弾ませるという目的がありましたが、今求められている次のトップスピンはスピードをともない、スピンがそれをコートに収めてエースが取れる、威力ある重いトップスピンです。


錦織がこのテークバックをするときは、ダウン・ザ・ラインにもクロスにも打てる形なので、相手はコースが読めない。錦織はコースを隠して打ち分けることができる


CHECK!
回転運動でボールを打つ今 下半身からの力をインパクトに伝える、 絶妙のタイミングを計っている

 フェデラーがウインブルドンを勝ち上がっていく中、要所で見せた際立ったショットがあります。例えばサイドへ走り込み、そこで一瞬止まって巻き込むようにスイングして打ったフォアハンドがダウン・ザ・ラインをまっすぐにとらえ、ベースラインの内側にドンッと落ちる迫力満点のショットです。それは、まるでフェデラーの頭から地面に向かって杭が打たれ、軸が固定されて体幹が強く回転している運動。その状態で行われるスイングの中で、ラケットがボールをしっかりつかんでライン側に運んでいきます。非常に重いトップスピンのボールです。


もっともよい形でエネルギーをインパクトへ伝える、回転運動と全身の連動、インパクトに伝えるタイミングを探っている


 足を決めて、股関節から肩甲骨、胸郭が動いて、全身がフル稼働し、インパクトまで少しの無駄もなく、絶妙のタイミングで力を伝えていきます。その連動性は今後もっと追求されていくでしょう。


 セレナ・ウイリアムズは非常に早くテークバックするため、ボールを打つまでに「間」があります。そうすると連動性はどうなるのか? 途切れてしまうのですが、ただし彼女はボールを打つ直前に足を細かく動かして踏み替え、下半身から力をつくって伝えます。時間があるのに、細かく足を動かすのは、力を伝えるタイミングを計るためです。もっともよい形でエネルギーをインパクトへ伝える、回転運動と全身の連動、インパクトに伝えるタイミングに注目してみてください。


テークバックが早いのはウイリアムズ姉妹の特徴。ボールを打つまでの「間」が長く、打つ直前には足を細かく動かして下半身から力をつくっている



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