ロジャー・フェデラー 2006インタビュー「王者の決意。」

2006年5月、ローレウス世界スポーツ賞において、フェデラーは年間最優秀男子選手賞を受賞(Getty images)



僕は決して自己中心的な
人間ではないかもね、皆とうまく
やっていくのが好きなんだ

ーーテニス界の頂点に立つ感想を聞かせてください。世界最高のプレーヤーであると自己確認するときの気持ちは?

「うーん、とてもすばらしい気持ちだよ。でもわからないな。明らかに以前は優先順位が高かったけど、現在はグランドスラムの方に気持ちが向かっている。だって常にいい成績を収めれば、それが結局ナンバーワンにつながるわけだからね。でも毎日目が覚めたときに自分がランキング1位だと思うのは、本当にすばらしいよ。なんだか自信を与えてくれるような気がする。今の僕はランキングが500位にもなり得るし、1位にもなり得る状態で、それを自分でもわかっているし、ランキングでナンバーワンということは、決勝に残ったのはまぐれではないという特別な安心感を与えてくれるのさ」

ーー頂点は孤独であると言われます。そのように感じますか?

「いや、そうでもないけれど、常に誰かからの挑戦を待ち受けている気分だ。あるときはヒューイットであったり、ロディックであったり、サフィンだったりするわけで、今はナダルだ。相手はいつも変わり続ける。おもしろいね。僕にはやるべきことがたくさんあり、多くのやるべき義務がある。僕の生活は想像を絶するくらい忙しいんだ。でも頂点という乗り物に乗っていることを楽しんでいるよ。できるだけ長くその乗り物に乗っていようと努めているよ」

ーーいったんそこに到達してしまうと、なんだ、それだけかというようなケースもありますが。

「優勝するのと同じさ。優勝してしまうと、突然これだけのことかと思う。大会が終われば、すぐにまた別の大会の1回戦を戦うことになる。死闘を尽くしたあと、休む間もなく次の大会へ向けて飛行機に乗っている。だから、そんな中で自分がしていることを正しく認識することも必要なんだ。ときにはひと休みし、自分が成し遂げたことを振り返ってみなくてはいけない。最初の頃は、ただひたすらナンバーワンの地位を追いかけていたせいで、そういったことをまったくしてこなかったが、今では定期的にするようにしているよ。その瞬間を楽しみたいって気持ちもあるが、同時にまた長い目で将来を見据えなければいけないと思うんだ」

ーーどのスポーツでも言えると思いますが、テニスでもナンバーワンにいるということは、ある意味で自己中心的にならざるを得ません。歴史的にみても、そうでしょう。あなたはそのカテゴリーから外れているように見えます。もっともフレンドリーなナンバーワンであることをご存知ですか?

「どう説明していいのかむずかしいな。あなたは僕よりもナンバーワンの人たちの周辺にいる機会が多いので、簡単でしょうが、僕はまだ少数しか知らないからね。僕のしていることはある意味でノーマルなことだと思うが、ときどき、すごく友好的になることもあるね。たっぷりと時間を割くからね。ただ、情報を発信する機会として、それを読んだファンや、小さな子供たちまでも含めた皆と、情報を分かち合う機会として楽しんでもいる。ある意味で自分がそうしたいのか、そうすることを期待されているのか、わからないが、いつも断るなんてできっこないな。それに僕は3ヵ国語を話せるから、それが近寄りやすくさせているのかなあ。だから余計に人々に対してオープンな機会を与えているのかも」

ーーときには自己中心的にすることが必要とは?

「僕は決して自己中心的な人間ではないかもね。誰かが来たからといって隠れるような真似はしないし、選手たちとうまくやっていくのが好きなんだ。メディアともこれまでのところうまくいっている。もちろん、嫌な目にあう日もあることも知っているよ。でもそれがテニスだ。ときにはつらいときもある。そうはいっても、ある程度は自己中心的だと思う。そもそもテニスプレーヤーというのは個人主義だからね。2時間半前にウォームアップをしたいとすると、それをする手段を講じなくてはならない。誰かいっしょに打ってくれる人が必要だ。そんなときその人が練習相手としてふさわしいかどうか確かめなくてはならないわけだからね」

ーーこれまでのキャリアの中でいちばんうれしかった瞬間、また喜ぶに値する瞬間とは?

「まず大会での優勝の瞬間だね。それから世界中のすばらしい場所へ行き、居心地のいいホテルに滞在するとき。いろいろなものを見たり人々に会ったりする、いわば特権を与えられていること。そういうのは、たぶん平均的な人々が経験できないことだけれど、それは僕がしているテニスを通じて経験できたことで、僕自身が特別な人だからではないんだ。それは自分の夢を実際に経験しているって感じだね」

ーーあなたは偉大な元チャンピオンに対して多大な尊敬を抱いているという印象を受けます。歴史的視野でものごとを見ています。そういった思いはどこからきているのですか。

「よくわからないなあ。ヴィットリオ(ATPのヴィットリオ・セルミのこと)とよくいっしょにいて、彼がテニスのことをたくさん話してくれたからかな。僕は常に質問攻めにするタイプで、そういった過去の話にすっかり夢中になってしまったんだ。今はトニーといっしょにやっているので彼が教えてくれる。それから偉大な元選手に会うようになると、さらにもっと彼らについて知りたくなる。そうすると突然多くの事実がわかる。そういうふうにして学んだのさ。テニスの歴史はおもしろいからね。プレーヤーは少しこういった歴史を知るべきだと思うよ」

ーーメルボルンでロッド・レーバーに会えたことは、特別な出来事だったでしょうね。

「実はケン・ローズウォールにも会ったんだけど、それもすごい経験だった。彼がウインブルドンで優勝できなかったからといって、優秀な選手でないことにはならない。こういう人々に会うのはすばらしく、とても名誉なことだ」

ーービヨン・ボルグにも会いましたね。ピーター(・ラングレン)を通じて彼を知ったのですね。

「その通りで、ビヨンに関しては多くの話を聞かされたんだ。初めてビヨンに会ったとき、『いつか夕食をいっしょに食べよう』って言われたよ。彼は『まだ君の知らない僕の75%を教えてあげよう』って言ったんだけど、おかしいよね。すでに彼のことはかなり知っていたんだから」

ーーボルグがウインブルドンのトロフィーを売りに出すという話題に多くの反応があり、アガシは金持ちなど個人の手に渡らないように誰かが手段を講じなければならないと考えているようです。それについてどう思いますか?

「売りに出されるなんて実に悲しいことだと思う。本当に人事ではないよ。だって僕の家にも3つ飾ってあるのだから。家に帰るたびに眺めている。トロフィーはそれを勝ち取った人にだけ大切なものだと思う。金で買うには相応しくないものだよね。なぜなら例えばビヨン・ボルグだけ、あるいは言わせてもらえばロジャー・フェデラーだけがそれに値するからだ。そうならないことを望んでいるけど、正直いってビヨンの置かれている状況を知らないので、それについて何か言うのはむずかしいね」

ーーあなたの家にもウインブルドンのトロフィーがありますね。

「USオープンとオーストラリアン・オープンのトロフィーと並べて置いてあるんだ。ダイニングテーブルの上に置かれ、うまくライトアップされている。どれもすばらしく、見ていると特別な感情がぐっとこみあげてくる。それから壁にはトロフィーだけでなくローレウス賞など、プライベートなものから偉大なシーズンの名誉を示すものまで飾ってある。あと両親の家にもトロフィーが置いてあるかな」

続きを読むには、部員登録が必要です。

部員登録(無料/メール登録)すると、部員限定記事が無制限でお読みいただけます。

いますぐ登録

Pick up

Related

Ranking of articles