「天賦の才が今……」ゴラン・イバニセビッチ Special INTERVIEW(1996年5月5日号)
今、ゴラン・イバニセビッチの勢いが凄まじい。昨年はトップ10プレーヤーとして唯一ツアー・タイトルなしという不振にあえぎ、屈辱を味わった男が、96年に入るや、この3ヵ月余りですでに4大会で優勝を果たしているのだ。24歳のイバニセビッチに何が起こったのか。この快進撃は、念願のグランドスラム・タイトルに向けての彼自身も認める「神がくれた才能」の待ちに待った発露なのだろうか。(1996年5月5日号掲載記事)
テキスト◎BARRY WOOD 翻訳◎永田美喜 写真◎Getty Images
ーー多くの人が“本当のゴラン・イバニセビッチ”を知っていると思いますか。
「知らないと思うよ。コートで見る姿しか知らないから。でも、僕自身だって自分がどういう人間なのかわからないときがある。コートで癇癪を起こせば、もしかするとひどい人間かもしれないと思うだろうけど、コートの外では全然違うんだ。僕のところへ話をしに来た人に、全然違うんですね、とよく言われる。僕のことを頭がおかしいのかと思っていたって。きっとコートでのことと関係があるんだろうけど、ほかの場所では……そりゃあ、僕はコートではラケットを投げるけど、それは一時の感情。コートではおとなしくしていられないんだ。ラケットを投げたり、起こったりすることもある。
僕が7歳のとき、父が初めてテニスをしにコートに連れて行ってくれたんだ。僕にひとりでボールを打たせておいて、2時間経ってから父が戻ってきてみると、僕は壊れたラケットを持っていた。もうそのときからすでに、そういう性分だったんだよ。コートの上でも外でも、誤解を受けることはすごく多いね」
有名になるとみんなが友達になりたがる。だから誰が本当の友達なのかをしっかり判断しなくちゃいけない。
ーーコートから出ると、テニスのことは忘れてしまう?
「30分くらいテニスの話をしてもいいけど、そのあとは何もかも忘れたい。映画を観に行ったり食事をしたり、したいことがたくさんあるんだ。テニスからスイッチを切り替えて、次の朝になったらまたスイッチを入れて、試合の準備をするようにしているんだ」
ーーテニスが完全にオフのときはどうやって過ごすのですか。
「家にいるときは、友達と会ったり、コンディション調整をしたり、ほかのスポーツをしたりするのが好きだな。バスケットボールや、友達と出歩いたりするのが好きなんだ。普通のことで、みんなが思うほどかっこいいことじゃない。普通の人のように、普通の暮らしをしているだけさ」
ーー友達付き合いを続けていくのはたいへんだったのでは?
「全然。家にいるときは、いつも親友たちと出歩いたり、バスケットボールやサッカーをしたりしているよ。ただ、友達全員と付き合い続けるのはむずかしいね。忘れてしまった友達も多い。家を空けてばかりいると、『あいつも有名になったから、僕たちとは口を聞きたくないんだな』と思われてしまうんだ。でも、本当の友達はいつも僕のことを信じていてくれる。一生の真の友人だよ」
ーーそういう生涯の友達は、誰もが持てるわけでじゃない。
「そうさ。それに、有名になるとみんなが友達になりたがる。アドバイスしたがったり、提案したがったりね。誰が本当の友達なのか、僕だから友達でいてくれるのかを、判断しなくちゃいけないんだ」
ーー判断は得意ですか?
「だまされてばっかりいるから、もっと気をつけるように練習しているところだよ」
ーーどういうふうにだまされたのですか。
「すっかりだまされたんだよ。つまり、少し年上の、いっしょにテニスをしていた、仲の良かった友達が、僕にかなりの大金をせびったんだ。僕はその金を彼にやって、2度と会わなかった。3年もお目にかかってないほどの大金さ。でも友達だからと思っていたんだ。だけど、そいつに会うと、いつも逃げて、何か言い訳を探してばかりいる。でも、友達なら僕のところへ来て困っていると言えば、わかってあげるのに。
あんまりだまされてばかりいるけど、これからは友達に金をくれと言われたら、ふたつのどっちかだとわかると思う。金をやって、返してくれとは絶対に言わないか、金は絶対にあげられないというか。返してくれと言いに行くのはたいへんだからね。友達にそんなことできないから、どちらか判断しなくちゃならないな。僕にとってすごく良い友達なら金をあげるし、ただの友達なら、悪いけど、あげられないと言うよ」
ーーあなたは気前が良い方?
「そうだね」
ーー優勝したとき、クロアチアの子供たちに賞金をあげましたね。
「前から財団を持っていたんだけど、それを、困っている子供たちを援助するための財団にしたんだ。ミュンヘン(グランドスラム・カップ)で優勝したときの賞金をあげたんだけど、あっち(クロアチア)ではすごい大金になるんだ。7人の委員会がお金の使い道を決める。僕が決めると、お金をあげたりあげなかったりで、悪者になりそうだから。家に帰ると、悪いことをいっぱい書かれていたりするーーひとりは助けたのに、別に10人出てきたのを助けなかった、とか。で、悪者にされてしまうんだ。
全員を喜ばせることはできないんだから、委員の7人に決めてもらった方がいい。その中に医者がひとり、聖職者がひとりいる。委員会がお金をどうしたかは、毎月、リストになって報告されるから、僕はそれを見ることになっている。それが一番だ。クロアチアの情勢は段々良くなっているとはいっても、まだ戦争なんだからね」
ーー孤児を援助したりもするんですか。
「困っている子供は全員助けたい。学校に行きたいのに余裕がない家庭の援助もする。僕にも子供の頃があって、僕はいつも幸せだったけど、スポーツや、ほかのことをしたいのに余裕がない家庭の子供たちも大勢いる。だから援助しているんだ。毎年、かなりの金額をそこに入れ、プラス、エキシビションマッチとかオークションもやるようにしている。ラケットやシャツを出してもらったり、募金を頼んだりもする」
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