「天賦の才が今……」ゴラン・イバニセビッチ Special INTERVIEW(1996年5月5日号)

写真◎Getty Images



違う人間だったらトップ10に入ることなどできないと思う。だから、今の自分で満足だし、何か変えたいとも思わない。

ーー先ほど財団のことで、聖職者のことが話に出ましたが、信仰は持っているのですか。

「あるよ。僕はカトリックなんだ。教会にも行くよ。家にいるときは必ず行く。司祭がいて、彼とたくさん話をする。司祭の話は面白いんだ。それに、バチカンに行ったときは、ローマ法王に招待された。1分間のスピーチをしたんだけど、これは僕の人生で最高の名誉だったし、絶対に忘れることができないね」

ーーどんな話をしたんですか。

「そのときは4人のスポーツマンが招待されていて、スポーツマンと聖職者の間の友情について話をした。で、僕はその1分間のスピーチで、友達の司祭のジョー神父とジョーゼフ神父との関係について、ちょっと話したんだ。彼らとどうやって出会い、それからの3年半の間に、どうやって信仰を見出したのかという話だ。僕はそれ以前はあまり信心深くなかったけど、何か信じられるものを見つけ、それが僕のテニスにも、人生にも役立ったんだ」

ーーどういうふうに?

「コート以外の場所では穏やかな気持ちでいられるようになった。何かを信じるのはすばらしいことだ。つまり、教会へ行き、真実の話を聞くことはすばらしい。人間として成熟し、人生に責任を持てるようになる。それからその話で僕は、クロアチアが受けている苦しみのことも話し、神様が僕たちみんなにその苦しみを乗り越えさせてくださいますように、とも言った」

ーーこれまでのキャリアで、何か変えたいことはありますか。

「別にないよ。自分のやったことすべてに、満足している。ただ、92年の(ウインブルドン決勝のファイナルセット、アンドレ・アガシに5-4でリードされていた場面で)ふたつのエースを取りながら、ふたつのダブルフォールをしたのは、変えたいかもしれない。でも、ほかの誰かになりたいとは思わない。このままの僕がいい。コートでの自分が好きだし、いい人生だ。良いプレーをすればうれしいし、コートに立てれば幸せだ。

 テニスツアーでは、自分で状況を悪くして、あまりややこしいことにならない方がいいと思うこともあるけど、それも僕という人間の一部なんだし、違った人間だったら、トップ10に入ることなどできないと思う。だからこのままの僕で満足だし、何か変えたいとも思わない」

ーーただひとつ、あなたが学ばなければならないのは、買っているときに、素直に勝利を受け入れることでは?

「僕もそれは考えていた。でも、練習のときにも同じことが起こるんだ。練習でも、僕はしょっちゅう何か新しいことをやろうとしている。じゃないと退屈してしまうんだ。サーブするとき調子が良いと、僕は無頓着に打とうとする。すると、実戦でもそうなってしまう。練習は気楽だから無頓着でいいけど、試合となると少しは考えないとね」

ーーテニスは簡単すぎると言いたんですか。

「簡単すぎると飽きてくる、とは言える。でもテニスはすばらしいものだよ……なかなか面白い記事を読んだことがある。ザグレブにいたときに新聞に出ていたギー・フォルジェのインタビューで、1年間ケガで休んだときのことを話していた。そのとき、彼はテニスができるのはなんて幸せで、なんてすばらしいことなんだろうと実感したんだ。勝ち負けはどうでもいいと。

 つまり僕が言いたいのは、それが自分の選んだ仕事だってことだ。小さい頃はプロになるかどうかわからなかったけれど、僕はプレーするのが大好きで、旅行が大好きで、人に勝つのが大好きだった。負けるのは好きじゃないけど、それも全体の一部なんだ。すばらしい、健康的な仕事だ。それにテニスはスポーツだ。大きなお金が入ってくるーーでも、それはさほど重要なことじゃない。健康でいられて、やりたいことができるってことが、一番大切なことだ」

ーー好ましくない点はありますか。

「今、僕がしている生活はすばらしい生活なんだ。でも、家に帰ってみると、ほかのみんなが苦しい目に遭っている。まるで、派手な車を乗り回している男を、みんなが見ているみたいなんだ。でも、僕のところに空からお金が降ってきたわけじゃない。僕は年端もいかない頃から一生懸命働いたんだ。僕がこういうふうになることを、誰も教えてくれなかった。みんなには理解できないんだ。神様は僕に才能を与えてくれたが、毎朝早起きしてランニングしろ、練習しろ、と駆り立ててくれたわけじゃない。神様は一定の量の才能をくれるけど、それ以外の部分は自分で何とかしなければならないんだ。

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