データ分析の第一人者、レオ・レビン「データはいかにテニスを変え、今後どのような影響を及ぼすのか?」
Q21|データを使用することの危険性や不利益はどのようなものが考えられますか?
A シンプルな危険性は、データだけに頼り過ぎることだ。選手がコート上で何を考え、どんなプレーをしているのかを、データとリンクさせなければならない。データはテニスのメンタル面を測ることはできない(今のところは)。もし、ある特定のショットのデータにばかりとらわれてしまい、選手のメンタル面、試合への準備など全体像を見失うと、かなり危険だろう。
Q22|ギャンブルの世界でテニスは3番目に人気のスポーツらしいです。ギャンブラーもデータ分析で勝率を上げられるのですか?
A 彼らが賢いなら、勝率を上げられるだろう。データ分析には深さのレベルに差があるからだ。データ分析の最初のレベルは、選手の過去の記録になる。対戦相手との勝敗数(Head to Head)。そのサーフェスでどのようなプレースタイルを見せるのか。対戦相手と似たタイプの選手との対戦成績。
もし私がギャンブラーならこれらのデータをまず見るだろう。それから直近の試合の結果、さらに同じ大会の過去の記録を見て、いつもその大会でいいプレーをしているのか判断する。
TV解説者も同じように、ある試合が始まる前は両者の過去の対戦成績、そして前日の試合での調子などを見るものだ。もしサービスがすごくいい選手なら、サービス力を比較し、お互いの強みを比較するのだ。
ATPの公式サイトが提供するデータの中にあるHead to Head。ナダルはフェデラーに23勝15敗で勝ち越している
Q23|ある選手が65%のサービスポイントを獲得したというデータがあります。その背景からは、その選手がポイントを取る確率はどれほど高いことがわかるのでしょうか?
A テニス独特のスコアシステムがひとつ大きなカギになる。このスポーツでは、あるポイントは他のポイントよりも重要性が高くなることがある。だから、両者のデータをただ比較するだけではあまり意味がない。より深く考察し、大事な場面でのデータを分析したほうが、より深い理解を得られる。
ある選手がリターンゲームにおいて、15%しかポイントを取れないとする。これは非常に重要なことだ。その選手のプレーで大事なところをすでに見つけたことになる。次は、その理由を理解することだ。ほかの選手と同数のブレークポイントがあるのに、それを生かせていないだけなのか? 選手のパフォーマンスを評価するとき、どこに注目するのかがとても重要なのだ。
Q24|データ分析の実行者は、数字に頼り過ぎるというリスクがあるのではないですか?
A リスクは常にあるものだ。データから価値のある情報を得られる。データを手にすると「このデータはこういうことを表すから、我々はこうしないといけない」となる。ダブルスで世界ナンバーワンだったジム・グラブが、USオープンの直前の大会で私と交わした会話を紹介しよう。
ジム「シングルスのファーストボレーで苦労している。いつもミスをしてしまうんだ」
多くのコーチは「どうやって打っているんだ? 打ち方を修正しよう」と言うだろう。しかし、私はほかのことを尋ねた。
私「ファーストサービスを打つ前、ファーストボレーをどこに打とうと思っている?」
ジム「ボールに反応するだけだ。君が何を言いたいのかさっぱりわからない!」
私「ではこれでどうだ。すべてのファーストボレーはオープンコートへ打つ。君はデュースコートのワイドにサービスを打ち、アドコートのワイドにボレーする。アドコートでワイドにサービスをしたら、デュースコートのワイドにボレーを打つ。ファーストボレーだけなら、それでいいんじゃないか?」
試合を終えたジムは「ファーストボレーをミスしなかったよ!」と笑顔を見せた。
翌週、彼はUSオープンのシングルスで4回戦まで勝ち進んだ。それがグランドスラムでの彼の最高成績だった。重要なのは、選手がどこに集中するかを少し変えることだった。私はストローク自体の変化や多くのデータ分析を必要としなかった。ポイントは余計な判断を省くということ。
2002年、USオープンの35歳以上男子ダブルスで優勝したグラブ(左)とレネバーグ
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