柏井正樹_錦織圭のジュニア時代を振り返って〜【テニスマガジン2008年9月号掲載記事】
「ゲームセンスがあった」「見ている風景が独特〜俯瞰図」
——ゲームセンスがあると言われます。ほかの選手とどこが違うのでしょう。
柏井 コート上で対戦相手と戦っている自分を、バックフェンスの上にカメラを置いて、そこから映し出して見ている…もうひとりの自分がいて、コート上の自分がどう動いているかを見ている…もうひとりの自分が司令塔となり、コート上の自分は実働部隊となって動き回る…司令塔が、あそこが空いているという指示を出したらすぐに戻る…そういう感覚がある子です。コートを俯瞰して見ている感覚があります。それで予測できているんでしょう。
——最初からそういう感覚にすぐれていましたか。
柏井 そういう感覚はありました。でもケイ自身、僕が戦術について(俯瞰した)話をしても、へえ〜という顔をして聞いているだけで、おそらく半分くらいは無意識に行動していたと思います。自分がどう打っている、どう振っているといったことはあまり考えていなかったのではないでしょうか。
——そういうケイに柏井さんはどんなアプローチをしましたか。
柏井 どういうボールを打つかということは、僕は繰り返し言ってました。どのタイミングで打てばいいか、どのスピードで、どの長さであれば意味があるけど、それより短ければ意味がないとか。切り返しのための狙い方とか。それは1対1で試合をするときによく言っていました。
——与えられたシチュエーションで、彼なりに課題を克服していったということでしょうか。
柏井 そうです。あるシチュエーションで、もっとスピンが必要ならラケットヘッドを下から出せばいいんじゃないか? と言えば、彼はそれを表現しました。そこで、もしも彼が、僕が思うイメージからはみ出したら修正しますが、だいたいはイメージから外れないので何も言いませんでした。グリップやスイングは、イメージからはみ出したものでなければ僕は変える必要はないと思っています。
グリップを変えればスタイルが変わります。グリップが薄ければベースラインで打ち合っているわけにはいかないので、ネットへ出なければなりません。逆にネットへ出たいのに厚いグリップで、しかも後ろ足体重で上にボールを打ち上げていてもネットには出られません。ネットに出たければグリップを薄くしなければいけないんです。そのように、グリップはスタイルに結びついているのであまり言いません。ただし、僕がイメージする勝つために必要なスタイルはあるので、そのイメージの中で許せる範囲の打ち方じゃないとダメです。
——ケイが見ている風景とは、どういう意味ですか。
柏井 オレンジボウル(フロリダで行われるジュニア大会)に行ったときの話です。ダブルスをプレーしていて、ケイが配球してチャンスをつくるんですが、パートナーがそれにパッとアクションを起こさないんです。パートナーはチャンスを予見できていませんでした。逆にケイが前衛にいると、パートナーが後ろで配球し、2打目の配球の瞬間には、ケイにはすでにポーチに出る準備ができていてスッと出るんです。相手のボールがどこに返ってくるかを読んでいて、動いているんです。そのとき僕はいっしょにいたコーチとこんな話をしました。ケイとパートナーは、見ている風景が違うよねって。
——具体的にどこを見ているんでしょう。
柏井 おそらく相手のバランスなり、体重の入れ方なり、そういうところに焦点を合わせているんでしょう。ケイもパートナーも同じ「コートの絵」を見ているんですが焦点が違うんです。どこを見るべきかケイはわかっています。だから、必要なことを吸収するスピードが、ほかの子たちよりも速かったということも言えます。
柏井コーチによるオンコートレッスン
日常行なっているレッスンをジュニアをモデルに紹介
熱心に耳を傾け、メモを取る指導者のみなさん
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