ジーン・メイヤーのジオメトリー・テニス_vol.01_プレースメントの重要性
Q9|今世紀の選手の中で言えば、ほかに誰がこの分野で秀でていますか?
A|サントロは非常に賢く、技巧を擁していました。
メイヤー ファブリス・サントロは非常に賢かったです。私はファブリスを数年間コーチしたことがありますが、彼が私のところにやってきたときは、彼はとても堅実で粘り強いテニスをする選手でした。しかし、彼の 22年のキャリアの終わりに私たちが目にしたファブリスは、すごく違っていました。若い頃の彼は非常に一面 的で、かなりストレートなテニスをしていたのです。
でも私には、彼の頭の機能の仕方、体格(身長177㎝)と、その才能ゆえ、彼が戦術的スタイルの特性があること、技巧を擁していることが見えていたのです。ところが彼は当時、そうしたテニスをやったことがなかったがため、このよりクリエイティブなスタイルでプレーすることをあまり心地よく感じていなかったようです。
しかし彼は、かなり迅速にそれらを学びました。ラケットづかいを鍛え、ショットを上達させた彼は、やがてしなやかなテクニシャンとなり、「マジシャン(魔法使い)」と呼ばれるようにもなりました。ファブリスは並外れたプレーヤーでしたよ。私が憶えている中で、もっとも観る者を惹きつけるプレーができる選手の一角で あったことは間違いありません。
フェデラーはさまざまなスライスのバリエーションを持ち、特に短いスライスを効果的に使う
多彩なショットで「マジシャン」と呼ばれたサントロは、ほとんどパワーを使わなかったといっていい
Q10|サントロのジオメトリー・プレーについて具体例を教えてください。
A|ほとんどパワーは使わず、低い短いスライスを有効に使いました。
ポール サントロは、あなたからどのようなジオメトリー的なアドバイスを与えられ、どのようにして対戦相手を悩ませ、混乱させたのですか?
メイヤー ファブリスは私が見たことのあるほかのどのプレーヤーよりも、ショットの緩急をうまく使いました。彼は速いボールを打つこともできたにもかかわらず、ほぼ決してフォアハンドでは強打をせず、バックハンドで少し打つ程度でした。前述の女子選手たちと違い、彼はほとんどパワーを使わなかったのです。
ファブリスはスライスやチップショット(短いショット、ドロップショット)を使い、殊にアガシやサンプラスのような1990年代を代表するパワーヒッターに対し、相手のバランスを崩すために、バウンドの低いスライスをやや浅めに打つことをし、コートの前方(ネットに近い場所)をうまく使っていました。
サンプラスに対し、ファブリスはポイントの様相をがらりと変えることができていたので、それらは、相手がよりすぐれている場合の通常のポイントのように見えませんでした。つまりファブリスは巧妙にサンプラスを操り、プレーをさせていたのです。
ファブリスが誰かに対して短く低いボールを打つとき、相手はそのボールを速く、力強く打つことはほとんど不可能になります。力強く打つなら、4球打って一球入れればよしとするのでない限り、コートの物理学がそれを許さないのです。ミスが少ない安定したプレーを望む者なら誰であれ、短く低いボールに適応する方 法を見つけ出さなければなりません。
それはフェデラーが、そのキャリアを通し、困難に陥ったときに非常に効果的に使っている戦術です。彼は単にバックハンドスライスを使うだけでなく、鋭くアンダースピンをかけた短いバックハンドを使います。そのため対戦相手は、自らの意志で打つ攻撃的アプローチショットではなしに、前に出ていかなければなりません。これは今日行われているテニスで有効な方法でもあります。なぜなら、ボレーを打つこと、ネットプレーをあまり心地よく感じていない選手は結構いますから。
Q11|トップスピン、アンダースピンを含めたスピンと、テニスの幾何学の間に関連性はありますか?
A|低く短い、高く深いショットなどが相手のストライクゾーンを外し、プレーを難しくさせます。
メイヤー もちろんですよ。ボールを低く打って、対戦相手にネットに出ることを強いれば、相手は“ある種のこと”をするのがずっと難しくなります。例えばロジャーはディフェンスに回っているとき、低く短いバックハンドを入れてきます。それによって相手の選択肢を劇的に減らすことができ、自分がカバーしなければならないコートの範囲を減らすことをしているのです。
相手は、フェデラーのバックハンドスライスを、スピードのあるショットで打ち返すことができません。相手は低く短いそのショットに対して、ラケットをボールの下に入れて返球します。より時間的な余裕があるバウン ドの高いボールに対しては、自分がやりたい方法で角度がつけられますが、低く短いショットに対しては選択肢が少なくなり、非常に難しくなるのです。
同様に、時間的な余裕がないバウンドの高いボールで、そのボールがプレーヤーのストライクゾーンの外に出てしまうと、ほとんどのプレーヤーは狙ったところに正確にボールを打つ能力が劇的に落ちてしまいます。ですから、ラファが非常に高くバウンドするボールを誰かのバックハンド側に打てば、相手は狙ったところに強いショットを打つこともできず、ただしっかりボールを返球できればよいところで満足するようになるのです。
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