「テニスのバランス」をバランス指導のスペシャリスト、マーティ・スミスが徹底解説する PART1



Q バランスとは何ですか?

身体の重心(へそ辺り)が スタンスの中心上にあるときに バランスは保たれます。

――ずばり、 〈バランス〉とは何ですか?

スミス 科学的な側面から答えるなら、バランスが保たれるのは重心が支持面(Base of Support/図参照)の中心と一直線に並んだときです。

 人間の身体で重心はへその辺り、支持面はスタンスです。それゆえバランスが保たれるのは、へそがスタンスの中心上にきたときです。ただし、へそよりも頭のほうが目立って見えやすいため、そして頭は通常、重心の上に位置するものなので、コーチたちが指導のときにわかりやすくするため、「へそ」ではなく「頭」という言葉を使います。よいバランスを保つために、「顔を上げて」とか「頭が両足の間にくるように意識しなさい」といった言い方をするのではないでしょうか。

 私が指導するときは、肩と背中も同じように意識させます。バランスを保つには両肩を平行にしなければなりません。肩をどちらかに傾けてしまうと、重心は中心から外れてしまい、平衡は失われます。また背中は、テニスの多くのショットでわずかに前方へ傾くので、よい姿勢でスイングすることで強固にバランスのとれた“軸”による効果が得られるのです。

 ノバク・ジョコビッチがラケットを振るときに、美しい姿勢を保っている姿をよく観察してみてください。彼の素晴らしい柔軟性、体幹(コア)の強靭さ、信じられないような動きは、まるで彼の上半身に“柱が一本通っている”のではないかと思うほどです。その姿勢が、飛び抜けたバランスの良さから派生する恩恵を最大限に生かしてくれるのです。


激しいラリー中の難しいワイドボールにおいても、ジョコビッチの柔軟性と運動能力はバランスを保つのに役立つ

 ジョコビッチ自身も「バランスは人生の重要なカギだ」と語っています。間違いなく自分のフィジカル面への哲学的な取り組みとプレースタイルが、17度のグランドスラム優勝を導いたものだと自覚しているのでしょう。

 もちろんテニスは短い距離を継続的に動くスポーツなので、動きながらバランスを築き上げる技術と、ダイナミックなバランスを身につけなければなりません。異なる方向ヘ、スピード、距離をコントロールして動くだけでなく、様々な高さのボールを、地面から30~60㎝離れた高さで打たなければならず、その作業はかなり複雑で、バランスを保つためには脳が瞬時に計算しなければなりません。

 トップ選手が激しいラリーと動きの中で、動きながらもバランスを保っているのは本当に信じられないほどすごいことなのです。そこが彼らが世界でもっとも偉大なアスリートと称えられる所以でしょう。


(写真左)重心がスタンスの真ん中にあり、バランスがとれている/(写真右)腰が折れ、重心がスタンスの中心上からずれてバランスが崩れかかっている

――バランスを保つには、どのように体を動かせばよいのですか?

スミス 良いバランスの選手は柔軟な身体を持っています。緩んでおり、俊敏で、動きが非常にスムーズです。“パンサー”のようにリラックスした体勢で地面を低く這うように動きます。“キリン”のように地面から高くピンと伸びた、硬い姿勢を保っているのとは正反対です。

 テニスの動きでたとえるなら、ワイドへの難しいボールに対してダッシュして、上半身を進行方向へ傾け、バランスがとれるように両腕、両足を使います。コート上で(急激に)止まり、ボールを打ち、その後、素早くリカバリーします。

 トップ選手は動きながらも平衡を保つために、両手両足をどのように使えばいいのか、よくわかっています。バランスをとるときの両足の最適なポジションは、ボールの高さに大きくかかわってきます。ボールが低ければ低いほど、スタンスは大きく広げるべきです。スタンスを広げると自分の重心は下がり、支持面は広く、強くなります。頭上のボールを打つときは、まったく逆の動きになり、支持面は狭くなります。低いボールに対応するためには膝を曲げることも重要です。もし膝を曲げずに腰を折ってしまうと、身体の重心は両足の前になってしまい、身体が前に傾いてつまずいてしまう格好になります。


セレナは肩を水平に保ち、様々な方法で足の位置を調整してバランスをとっている

 頭に入れておいてほしいのは、スイング中に平衡を保つために右足と左足は異なる役割を果たすという点です。テニスの多くのショットで片足はストロークを支えるため、もう一方の足はバランスをとるために回転します。ほとんどのバックハンドでは、右足が身体を支え、左足はスイング中に左方向へ回転してバランスを整え、体重移動がスムーズに行われるようにします。

 綱渡りの名人が両腕でバランスをとるように、テニスの選手も同じように腕を使うべきです。片手バックハンドで右腕を前方に振るときは、左腕は後方に振り、体重のかかりを分散させて安定感を高めます。スタン・ワウリンカが強烈な片手バックハンドを放つ姿を見てください。彼のように強く振る場合でも、左腕の果たす2つの役割はバランスをとることと、お尻を固定させてパワフルなバックハンドを正確に安定して打つことです。


ワウリンカの片手打ちバックハンド。右腕を前方に振るとき、左腕は後方へ、体重のかかりを分散させて安定感を高めている

 フォアハンドのテークバック時には、右腕と左腕は別々に真っすぐに伸びて体重を分散させます。サービスでは左手が真っすぐに上がり、右腕はトロフィーポジションの形で曲がります。そのあと、ボールを打つために身体を伸ばすと同時に左腕を曲げ、代わりに右腕が真っすぐに上がります。このときも両腕は身体のバランスをとるために連動して働きます。


フェデラーのサービス。両腕が上下に連動する↑↓


 このように人間は4つのレバー、つまり2本の足と2本の腕を使って固定された重い胴体を安定させるのです。俊敏な選手は良いバランスを確立するために、4つのレバーを操作する方法をよくわかっています。

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