「テニスのバランス」をバランス指導のスペシャリスト、マーティ・スミスが徹底解説する PART1
Q バランスをとるための 4つのレバーをうまく操作するには どうすればいいですか?
A 4つのレバーは体幹につながっています。 筋肉と骨盤をしっかりさせると、 バランスを保つ手助けになります。
さて、4つのレバーはどこにつながっているのか? 答えは体幹(コア)です。良いアスリートに欠かせないのは強く安定した体幹。つまり、身体の脊椎を支える胴体のすべての筋肉と骨盤です。木の幹が枝を支えるように、これらの筋肉が大きなパワーを生み出し、両手両足が動く身体を安定させ、バランスを保つ手助けをします。
――あなたは著書の中で、「バランスはテニスのプレーに大きな影響を与える5つの重大なポイントになる」と指摘しています。それぞれを説明してもらえますか?
バランスが影響を与える5つのポイント
❶ラケットコントロール
❷ストロークのパワー
❸リカバリーの動き(スピードアップ)
❹視野を広げる
❺相手の時間を奪う(戦術)
ジョコビッチは〝強力"なスタンスを決めて、そこから運動連鎖によってパワーを生み出している。これができるのはスタンスに対して重心が中心上にあり、バランスがとれている場合のみだ
スミス バランスがテニスに与えるもっとも大きな影響は、❶ラケットコントロールへのかかわり方です。コートの寸法、ネットの高さ、テニスラケットの形状、ボールのサイズと重さが、特に高いレベルでのテニスを非常に緻密なものにしています。
ある選手がバランスを崩して、自分が意図したよりもわずかにラケットを上下に傾けてしまったら、そこでミスショットが生まれる確率は格段に高まります。身体を前に倒すと、グリップを握る手の角度は変わらなくても、グラウンドに対するラケット面の角度は変わってしまいます。逆に後ろに身体を倒すとラケット面は開いてしまい、打ったボールがコート外へ飛んでしまう確率が高まります。逆に前方へ身体を倒すと、ラケット面は閉じて、ネットしてしまう確率が高まります。
これと似たように、肩を左右に傾けると、ボールもその方向に流れる可能性があります。例えば、右利きの選手がボールへ近づきすぎてしまったときのフォアハンドは左へ流れる傾向にあり、ボールから離れすぎているとボールは右方向へ流れがちです。
最後に、バランスを崩すと体重は意図したのとは異なる方向にかかってしまうため、スイングの途中でショットを修正することを考慮しつつ、調整して打たなければなりません。前方に伸びながら打つと急にスイングにパワーが加わり、ボールがベースラインを越えてしまうケースが増えます。後方に倒れながら打つと、ボールは短くなり、相手のチャンスボールになってしまうでしょう。
❷バランスはストロークのパワーに大きな関係があります。テニスでもっとも大事な2つのショット、サービスとフォアハンドを打つときは、巨大なパワーが臀部の回転と地面を蹴る足から生まれます。もし腕だけでサービスやフォアハンドを打てば、平凡なショットになってしまいます。これらのショットのパワーは、足を曲げるところから始まり、異なる角度に伸ばして、それから地面を蹴り出して、地面からの反発力によってつくり出されます。
バランスが悪い状態でスイングしてしまうと、臀部(腰、お尻)もうまく回りません。体全体を効果的に使ってストロークのパワーを最大限に発揮するには、良いバランスが欠かせません。オフバランスになってしまう(バランスを崩す)とキネティックチェーン(運動連鎖)による効力は失われてしまいます。
アシュリー・バーティのサービスやフォアハンドにおけるパワーは、世界トップレベルの選手が、バランスを足やお尻の効果的な生かし方につなげることの最高の見本になっています。
バーティは素晴らしいアスリートであり、ものすごいスイングスピードを誇ります。完璧なボディコントロールで地面すれすれまで体を沈め、スタンスを効果的に狭めたり広めたりして、身体のバランスを保つために両腕もうまく使います。
彼女はフォアハンドとサービスを打つときは深く膝を曲げて、お尻を大きく回転させます。これらのショットを打ち終わったあとのフォロースルーでは、頻繁に身体が宙に浮きます。彼女の運動能力とバランス能力が、このように身体を使うことで大きなパワーを生みつつ、ストロークのコントロールを失うこともありません。
バーティはスタンスを効果的に狭めたり広めたり、バランスを保って腕をうまく使う
❸良いバランスはリカバリーの動きをスピードアップしてくれます。テニスという競技は時間のコントロールと動きの良さによって勝負が決まります。フォロースルーのときにバランスが良ければ良いほど、ボールに向かって動いて、ラケットをスイングしたことによって生み出された惰性のパワーに対抗して、踏み留まることができます。このことで次のショットのために素早くリカバリーして方向転換することができるのです。
具体例を挙げると、ワイドのフォアハンドを打ち終わったあとに、身体のバランスを保ってニュートラルな状態にいることができずに右方向へ身体を倒してしまうと、左方向へ戻る動きは遅くなり、コート中央に戻るのも遅れてしまうでしょう。
ティームのフォアハンド・ランニングショットは、左足で留まっている。そのとき身体を傾けず、頭の位置が高く、しかもブレていないので視界良好
❹良いバランスは頭部を高い位置で安定させるため、ボールの軌道を追うための視野も広げるのです。バランスを崩して頭が垂れてしまうと、向かってくるボールのスピードと距離感を正確に測れなくなり、ポジショニングとスイングのタイミングを誤ってしまう可能性が高まってしまいます。
トップ選手がショットの準備をするときは、顔をしっかり上げて頭がブレていないのをよく見てみましょう。このヘッドポジションが視界を広げ、ボールジャッジメントを助け、ボールに対して正しいポジションに入ること、良いタイミングでスイングすることにつながります。
❺ラリーをどちらが制するのかは、両選手がボールを打つときのバランスの良さに大きく関わってきます。テニスで主となる戦術は、いかに相手をコート上で走らせ、ボールに対してダッシュさせてバランスを崩した状態で打たせるかで、その間、自分は安定したポジションでポイントをコントロールするのが理想でしょう。それがテニスの戦術の格言です。相手の時間を奪うことにも大きく関係しますが、そこにバランスは常に絡んできます。
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