「テニスのバランス」をバランス指導のスペシャリスト、マーティ・スミスが徹底解説する PART1
Q 頭を固定することは、なぜ大事なのですか?
A ボールのスピード、深さ、方向、 軌跡を正しく予測することに つながります。
――バランスのよい最高の“構え”(レディポジションもしくはパワーポジション)を説明してもらえますか?
スミス パワーポジションは、両足を肩幅よりも5~10㎝ほど広く構え、膝を軽く曲げて、実際の身長よりも15~20㎝低いくらいの高さが理想です。この少ししゃがんだ姿勢で、上半身はわずかに前傾しつつも、お尻は後方に突き出し、背筋を伸ばします。パワーポジションでは重心を下げ、体重を幾分か足からお尻に向けて移動します。これが身体を軽くし、相手のショットに素早く反応する助けになります。
パワーポジションの足は、車にたとえるとF1カーのデザインとも言えます。F1カーはワイドタイヤを装着しており、重心が非常に低いため、素早く動いて方向を変えることができます。
人間に話を戻すと、パワーポジションでは腕は肘を少し曲げつつ、前方に伸ばした状態。(右利きの場合)左腕と左手はラケットを支え、右手の素早いグリップチェンジを助けつつもリラックスさせます。ラケットのストリングスは胸の高さで、ラケットはわずかに左へ傾けます。
プロツアーでは、サービスリターンでいろいろな種類のパワーポジションを見ることができます。しかしボールを打つ瞬間は、すべての選手が伝統的なスプリットステップのポジションに入るものです。
錦織圭を例に挙げましょう。彼は相手選手がサービスのモーションに入るとき、足を45度斜めにする独特の構えです。それから相手がトスを上げると、錦織は一歩前に出ます。相手がサービスを打つ瞬間は、相手に正対して自分の胸を相手に向けてスプリットステップします。最終的には他の選手と同様のポジションに入っています。
錦織圭のリターンの構え。最初は両足をずらして構えるが、スプリットステップをしてニュートラルになる
――スプリットステップとバランスにはどのような関係性がありますか?
スミス スプリットステップの目的は、相手のショットに対して素早く反応することです。反応が早ければ早いほど、スイングのためのバランスを確立するフットワークを実行する時間を確保できます。テニスにおいて0.25秒はとても長い時間で、弱いスプリットステップによってその時間を失うことは、自分のバランスに大きな影響を与えます。弱いスプリットステップでは足を準備できず、身体を安定させられずにボールを打つ確率が高くなり、もしワイドにボールが来たら、身体を目一杯伸ばして打つことになるでしょう。
シュテフィ・グラフのスプリットステップ。素晴らしいバネを持ち、最初の一歩が爆発的だった
すべてのプロ選手はスプリットステップをしますが、その中でも意外に大きなレベルの差があります。シュテフィ・グラフは私が見た中で最高のスプリットステップをしていました。彼女の何がずば抜けていたかというと、スプリットステップのタイミングだけでなく、その高さでした。スプリットステップで高く飛べばそれだけコートに着地したときに大きなエネルギーを得ることができ、最初の一歩をより爆発的に力強く踏み出せます。グラフのようなスーパーアスリートだからこそ、難しいタイミングを合わせることができ、足に素晴らしいバネをもっていたこともそれを可能にした要因でした。現在なら、ステファノス・チチパス、シモナ・ハレプのスプリットステップが素晴らしいですね。この技術はコートカバーリング能力と、並みはずれたフットワークを可能にする上で重要な役割を果たします。
ハレプのスプリットステップ
――走るときとボールを打つ瞬間に頭を固定させることが、なぜ重要なのですか?
スミス ボールに向かって走るときに頭を固定するのは、向かってくるボールのスピード、深さ、方向、軌跡を正しく予測するためです。頭が上下してしまうようでは、視界が乱れ、ボールの軌道をうまく読めないでしょう。これがストロークのタイミングのズレ、ボールとの距離感を正確に測れないことにつながります。
ボールを打つ瞬間も頭の安定は重要です。頭を固定して、ボールを打つ瞬間にストリングをしっかり見ることは、非常に高い集中力が必要とされますが、良いタイミングでショットを打つ可能性を高めてくれます。
フェデラーはコンタクトの瞬間に“頭をフリーズ”させることに関して天才的です。彼の申し分のないタイミングは、ボールへの絶大な集中力と、ボールがストライクゾーンに入ったときの身体の“静けさ”も関係しているでしょう。
フェデラーの回り込みフォアハンド
スイートスポットを7.5㎝外すと パワーが30%落ちる
もし頭を上げると、同時に肩を動かしてしまうのでスイングの軌道が変わり、ラケットのスイートスポットを外す可能性が高まります。例えばフォアハンドを打つときに頭を上げると、ラケットは左へ動き、ボールをラケットの先端近くでとらえることになるでしょう。スイートスポットを7.5㎝ほど外すと、ボールに伝わるパワーが30%も落ちてしまうことを頭に入れておいてください。
趣味でテニスをしている人が頭を上げてしまうことが多いのはボレーを打つときです。テニスでボレーほど狙う場所を定めてから打つショットはないのですが、ただし、多くのボレーヤーがボールから目を離して、狙う先を見てしまいます。それと同時にネットに出るときはアドレナリンが出るシチュエーションでもあり、“余計な興奮”から、選手はどうしても“先”を見てしまうのです。
頭をグイっと動かすことはバランスを崩すことにつながりやすいです。耳の内側はバランスをつかさどる部分です。急に頭が動くと、脳から筋肉に発せられる指令の一部はスイングを行うことよりも、バランスを保つことに集中してしまうのです。それでは最適ではないショットの実行につながってしまいます。
フェデラーのバックハンドスライス
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