「トップ選手のバランスに学べ!」バランス指導のスペシャリスト、マーティ・スミス PART3【ストローク、ボレー】

写真◎Getty Images


 オーストラリア生まれでトップジュニアとして活躍、カレッジプレーヤーを経て、現在は全米1位とされるアスレチッククラブのテニスディレクターを務めるマーティ・スミス(現在52歳)は、テニスの指導においてもっとも重要なのが「バランス」だと言っている。そのスミスに対して、同じくテニスコーチでジャーナリストでもあるポール・ファインが、「バランスとは何か?」という質問を投げかけた。「テニスのバランス」を深く掘り下げていったロングインタビューから、前編「バランスとは何か?」、中編「バランス向上のための具体的なアドバイス」に続いて、後編「トップ選手のバランスに学べ!(ストローク、ボレー)」をお届けしよう。もっともバランスの良い選手とは?(テニスマガジン2021年1月号掲載)


指導◎マーティ・スミス

マーティ・スミス(52歳)、オーストラリア生まれ。トップジュニアとして活躍し、カレッジプレーヤーを経て、現在は全米1位とされるアスレチッククラブのテニスディレクターを務める。テニスの指導においてもっとも重要なのが「バランス」と考えている。

インタビュー◎ポール・ファイン 翻訳◎池田 晋 写真◎毛受亮介、Getty Images
※写真は解説がわかりやすいようにイメージとして掲載しています。

「テニスの上達を考えるとき、技術と戦術の重要性を挙げることはあっても、同列でバランスを挙げる人は少ない。この特集はそんな当たり前を変える、大きなきっかけになるはずだ」

Q もっともバランスの良い選手は誰ですか?

A レーバー、フェデラー、ジョコビッチ、ナブラチロワ、エナンを挙げましょう。

――テニスの長い歴史の中で、もっともバランスの良い選手は誰ですか? その選手のバランスのポイントは何でしょうか?

スミス 単複で59度のグランドスラム・タイトルを獲得したマルチナ・ナブラチロワは、私が実際に見た中では間違いなく、もっともバランスの良い選手のうちのひとりです。彼女には、良いバランスのチャンピオンたちが持つ2つのクオリティーがあります。


マルティナ・ナブラチロワ(2002年)

 彼女は頭からつま先まですべてが強く、特にコアの部分がすぐれており、コートすれすれの低い位置まで体を沈めることができました。ネットプレーヤーである彼女のローボレーや、全速力で走るときのバランスを維持する能力は信じられないほど素晴らしいです。彼女の滑らかな動きとバランスは、大きなケガと無縁の長いキャリアを可能にしました。40代半ばで大きなダブルスの大会で優勝し、2006年のUSオープンのダブルスでは50歳の誕生日を迎える1ヵ月前にボブ・ブライアンとのペアで優勝という大偉業を達成しました。

 ジュスティーヌ・エナンもとてつもなく良いバランスの選手でした。彼女はオフコートでアジリティー(敏捷性)のトレーニングに積極的に取り組み、それが彼女のコート上での素晴らしい動きとボディーコントロールにつながっていたと考えられます。


ジュスティーヌ・エナン(2010年)

 男子テニス界では、私たちは現在、ふたりの史上最高のバランスを持った選手の時代を生きています。ロジャー・フェデラーとノバク・ジョコビッチです。

 フェデラーは流動性とタイミングという点で100年にひとりの選手です。彼はボールを打つほぼすべての瞬間に顔を上げてしっかり頭を固定できており、肩は地面に平行で完璧な姿勢を保っています。その非の打ちどころのないバランスは、素早く、軽快なフットワークに起因しています。これら2つによってフェデラーは、ストロークを打つために完璧なポジションに入れるのです。またボールへの読みも完璧で、ボールに近づきすぎたり、遠すぎる位置でラケットをスイングすることも滅多にありません。


ロジャー・フェデラー(2019年)

 ジョコビッチのファンタスティックなバランスはフェデラーとは若干タイプが違います。彼も良いバランスを保つためにすべてのことを行っていますが、彼には驚くほど柔軟な身体というプラスアルファがあるのです。


ノバク・ジョコビッチ(2020年)

 テニスファンなら誰でも、ジョコビッチが股を大きく広げてワイドの難しいショットに追いつく姿を思い浮かべられるでしょう。その柔軟性によって足を伸ばしきっても背中を起こすことができるので、コントロールされた力のあるショットが打てます。このワイドへのボールに対してもバランスを保てる能力により、彼はベースラインの近くでプレーすることができ、対戦相手から見たら、コートが非常に狭く感じられるのです。

 私はオーストラリア人として、偉大なロッド・レーバーの名前をここで挙げないわけにはいきません。彼も並外れたバランスを持った選手でした。動きは流れるように美しく、コートを舞うように動き、力みがなく、抜群の運動能力を誇りました。当然、現在とは時代が異なり、テニスのスタイルもまったく違うのは承知の上ですが、優雅さとバランスでは、“ザ・ロケット”と呼ばれたレーバーの右に出る選手はいないでしょう。


ロッド・レーバー(1978年)

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