「トップ選手のバランスに学べ!」バランス指導のスペシャリスト、マーティ・スミス PART3【ストローク、ボレー】

写真◎Getty Images



Q ティームとシャポバロフの片手打ちバックハンドは、時折バランスを崩す傾向が見られますが……

A 両足が宙に浮いているときがありますが、実はバランスがとれています。

――世界3位のドミニク・ティームと11位のデニス・シャポバロフもバックハンド(どちらも片手打ち)で時折バランスを崩す傾向があります。何が間違っているのでしょうか?

スミス ティームとシャポバロフは片手打ちバックハンドで高いボールを引っぱたく際にジャンプしながら打つことが多いです。プロテニスの中でももっともエキサイティングなショットのうちのひとつです。地面に足が着いていないのですからオフバランスなのは確かで、身体の安定も最適ではありません。しかし、ほかの多くの視点から、彼らはとてもバランスがとれています。


ボールを腰の高さで打つためジャンプしているシャポバロフ


ティームは両足が宙に浮いても、肩は地面と平行でバランスがとれている

 彼らがこのショットを打つときは、顔をしっかり上げて、肩は地面と平行で、背中は真っすぐに伸びています。両足が宙に浮いているのにバランスがとれているのです。また、彼らがジャンプする理由は肩の高さのボールを腰の高さのショットに変えるためで、よりパワーを心地よく生み出せるからです。

 3度グランドスラムを制覇したアンジェリック・ケルバーは同じ理由で、低いボールに対処するとき、ティーム、シャポバロフのふたりとは逆の動きを見せます。センターにとても深いボールがきたときに、彼女は時折膝が地面に着きそうになるくらいしゃがみ込んで打つことがあります。ここでも空中のバックハンドと同様に、目的はコンタクトポイントを腰と同じ高さにすることにあります。現在の選手は自身のすぐれた身体能力を生かして、身体を沈めたり浮かせたりして、昔は慎重に返すだけだった難しいボールをアタックできるようにしています。


コンタクトポイントを腰の高さにするため低い姿勢をとるケルバー

Q セレナはボレーやフォアを打つときに、時々オフバランスになることがありますが……

A 彼女は強くスイングをするあまり、身体がよろめくことがあります。

――歴代最高の女子選手、セレナ・ウイリアムズでさえも、特にボレーやフォアハンドを打つときに時々オフバランスであることがわかります。彼女はどんなバランスの問題を抱えているのでしょうか?

スミス 彼女が歴代最高の女子選手だということに私も同意します。偉大な選手なのですが、あなたが言いたいこともよくわかります。彼女はあまりに強くスイングするために、例えば風でボールが流れたときや、バウンドが合わなかったときに、彼女の身体がほかの選手以上によろめくのもひとつの理由でしょう。

 セレナはパワーに頼り、フットワークにスピードも軽やかさもありません。彼女のテニスは、“一撃で倒すテニス”と言うことができるでしょう。つまりビッグサーブと強烈なリターンを打つのです。コートカバーリングや動きの質には頼っていないのです。


セレナはほぼすべてで強くスイングするため、ときによろめいてバランスを崩す

Q エマーソン、エドバーグ、チチパスが見せるネットプレーでの素晴らしいバランスの秘訣は?

A 特別なシチュエーションでバランスを保つための4つの秘訣を紹介しましょう。

――ロイ・エマーソン、ステファン・エドバーグ、チチパスは異なる時代にプレーしたため、異なる質のパッシングショットに直面してきました。私の意見では、彼らは皆、ボレーのときに素晴らしいバランスを保っていたと思います。もし私が正しいなら、その特別なバランス能力の秘訣は何ですか?

スミス あなたは正しいですよ。特別なバランス能力には4つの秘訣があります。

秘訣1   彼らは地面の近くまで沈み込みます。そのおかげで加速しても良いバランスで素早く止まることができます。ネットの近くでしゃがむ体勢(クラウチングポジション)をとることで、パッシングショットの高さに目線を合わせることができます。これでパッシングショットのスピードと方向をより正確に判断できます。この判断が良くなれば、ボールと適切な距離をとれる可能性が高まり、良いバランスの中でスイングのタイミングもとりやすいでしょう。
秘訣2   彼らは4つのレバー、両腕と両脚を上手に美しく使うことで、ボレー時のバランスを保っています。スタンスを広げて膝を曲げることで、低いボールにも頭を上げたまま対応できます。そしてワイドへのパッシングショットに対して身体を伸ばすとき、両腕を広げて体を安定させています。
秘訣3   力強いスプリットステップがあります。オーストラリア人はボレーがうまいことで有名ですが、私もメルボルンでジュニア選手として育つ中、“ボレーは下半身で打て!”というオーストラリアの有名な言葉で指導されました。両脚はボレーのポジショニング、バランス、パワーの源となり、すべては力強いスプリットステップから始まります。力強いスプリットステップは、パッシングショットにより早く追いつくことを助け、ボレー時の足の役割をしっかり果たせるようにします。
秘訣4   エマーソン、エドバーグ、そしてアシュリー・バーティは飛び抜けた予測能力を持っています。彼らがパッシングショットの方向を当てる確率は非常に高く、あたかも相手の頭の中が見えているようです。スプリットステップと同様に予測はコンマ何秒の時間を与えてくれ、良いポジションがとれるため、ネットでより良いバランスを保つことができるのです。


ネットでの反応が飛び抜けてすぐれていたエドバーグ。予測がすぐれそれが時間を生み、ネットでの動きをバランスの良いものにした

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