ジーン・メイヤーのジオメトリー・テニス_vol.02_クロスとダウン・ザ・ライン
このテーマはやや難しいですが、非常に魅力的です。かつて“テニス界でもっとも聡明な男”と呼ばれた、元世界4位のジーン・メイヤーが解説するジオメトリー・テニス。彼はとても賢く、テニスをよく理解し、頭脳的なプレーをしていました。(2020年2月号掲載記事)
講師◎ジーン・メイヤー
Gene Mayer◎1956年4月11日生まれの61歳。アメリカ・ニューヨーク出身。スタンフォード大学卒。右利き の両サイド両手打ちのプレースタイルでツアー通算14勝を挙げた。ATP最高4位(1980年10月6日付)
インタビュアー◎ポール・ファイン
Paul Fein◎インタビュー記事や技術解説記事でおなじみの、テニスを取材して35年以上のアメリカ在住のジャーナリスト。多くのトップコーチ、プレーヤーを取材し、数々の賞を獲得。執筆作品はAmazon.comやBN.comで何度も1位となっている。テニスをこよなく愛し、コーチとしても上級レベルにある
翻訳◎木村かや子 写真◎Getty Images イラスト◎サキ大地
ADVICE|ジオメトリーとは、頭脳的にボールを選びコントロールすること、プレースメントなどに置き換えると理解しやすいでしょう。
Q12|プレーヤーの体格とテニスの幾何学の間に関係性はありますか?
A|高身長の選手ほど、高い打点から大きなパワーとスピン、角度も生み出せます。
メイヤー それは疑いようのないことです。典型的な例がジョン・イズナーのサービスです。彼は身長が208㎝で、非常に高い位置でボールをとらえることができます。その彼が大きなパワーとスピン、そして厳しいアングル(ワイド)も生み出すことができます。そこにさらに測ったような正確さを加えれば、相手はイズナーのサービスに届くことさえ、非常に難しくなってしまいます。
イズナーはその高身長ゆえ、放ったサービスはコートでバウンドしたあと、この上なく高く弾みます。それは、これまでのテニス史上前例がなかったほどのバウンドです。特に彼のセカンドサービスは弾みます。ウインブルドンではバックフェンスを越えることもありました。芝は、比較的バウンドが低いサーフェスなのに……驚くべきことです。
ジョン・イズナー
Q13|ジオメトリーを理解し、自分に有利な形で活用することが非常に大事なスポーツというのは、ほかにありますか? もしそうなら、テニス選手は自らのテニスの戦術とテニス・ジオメトリー(テニスの幾何学)を理解する手助けとするため、それらのスポーツをやってみるべきではないですか?
A|ビリヤード、卓球、バスケットボール、サッカー…さまざまなスポーツをプレーすることによって、〈アングル〉と〈空き(スペース)〉を生み出すことを考えることができます。
メイヤー それには心から同意します。ビリヤードのほかにも(ビリヤードは前号で紹介、メイヤーは父アレックスにビリヤードを教えてもらった)、私は若いときに、大いに卓球をプレーしていました。卓球では、小さな台と低いネットを使いますが、そこから学べることはたくさんあります。
それから、私はサッカーをプレーすることも大きな助けになると感じました。サッカーでは、多くのディフェンダーがいる中、得点するためのチャンスを生み出すためには、驚くほど正確なパスが必要とされます。それはある種の芸術です。
それからバスケットボールでも、ディフェンスの大部分が、角度を切り、ピック(味方のボール保持者がディフェンスに邪魔されず動けるようにしてやるプレー)に対処することに関わっていると思います。これら双方のスポーツで、頭は常に〈アングル〉と〈空き(スペース)〉を生み出すことを考えているのです。
私はアイスホッケーについてあまりよく知っているわけではありませんが、最初に試合を観に行ったときのことは憶えています。行き当たりばったりにパックを引っ叩いているように見えたものです。
それから2年後、私がスカイボックス(特別席)から試合を観ていたときに、ウエイン・グレツキー(ホッケーの神様と呼ばれた名選手)がネットの後ろからプレーを指揮していました。スカイボックスからだと、アクションやスピードはあまり見えないのですが、プレーのフォーメーションはよく見えます。グレツキーの作戦行動を見ることは、まるで“交響楽団の指揮者”を見ているようでした。彼は本当にすぐれたビジョンを持ち、すべての駒(プレーヤー)を認識していたのです。本当に驚くべき体験でした。
どのスポーツも頭は常に〈アングル〉と〈空き(スペース)〉を生み出すことを考えている
Q14|鋭角なグラウンドストロークの利点は何でしょうか?
A|角度は、コートの正しいポジションから正確に使うことによって自分を有利に導きます。
メイヤー ショットの角度は、それがコートの正しいポジションから正確に使われれば、あなたに有利に働くものとなります。しかし、うまく打てなかったり、それらをうまく使うのがほとんど不可能な場所から打ったりしたら、逆にあなたのポジションは困難に陥ることになります。テニスでは、自分が支配的なポジションに立ち、しっかりボールを打てるときに、アングルショットを使いたいものです。
しかし、もしうまく打てなかったり、いい位置に打てなかったボールでコートにオープンスペースをつくろうとした場合には、逆に、自分がカバーしなければならないコートの範囲、守備範囲を大きく広げてしまうことになります。ですから、それはうまく使わないと逆効果となり、しっぺ返しを食らうことになるのです。
アングルショットは、それをベースラインの内側、横幅で言えばコート中央ではない位置から打った場合に、もっとも効果を発揮することになります。
これらを実証するために、私は生徒たちとドリルを行っています。ハーフコートでダブルスのポイントをプレーし、ただクロスにだけボールを打ちます。ふたりの右利き選手が打ち合うと、フォアからフォアへ、バックからバックへとなります。ここで気づくことは、ポイントを終わらせる唯一の方法は、非常にいい角度に打つ、ということです。
また、もし時期尚早に、あるいは辛抱足らずでアングルショットを打てば――特にサイドが狭かったり、ネットが張ってあったりするインドアコートでプレーしている場合には――大きな代償を払わされることになるということも学びましょう。このことは、ラリーの早い段階では深いショットがいい、ということを指摘しています。それから、ひとたびラリーの主導権を握ったなら、コートにオープンスペースを生み出すためアングルショットを打てますし、そうすべきだということです。
角度は、自分が正しいポジションから正確に使うことによって、相手を不利に追い込むことができる
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