「戦術家」になるためのスマートショットセレクション 6つのカギ

写真◎Getty Images


KEY5 オーバーヒッティングとアンダーヒッティングの危険を知る

過信せず、おびえ過ぎず 攻守のバランスを見つけ出そう

 パワープレーヤーが一貫性のあるプレーを求めたとき、または一貫性のある選手がよりパワフルにプレーしたときに、最高のパフォーマンスを発揮できると単純化し過ぎることのリスクは大きくなります。

 大事なことは「オーバーヒットし過ぎない」「アンダーヒットし過ぎない」ということです。ロジャー・フェデラー、ノバク・ジョコビッチ、ラファエル・ナダルといったスーパースターたちは、オフェンスとディフェンスの最高のバランスを見つけ出しています。

 2020年のUSオープンでフランシス・ティアフォーのコーチであるウェイン・フェレイラは、ティアフォーがラリーを続ける努力を怠っていることに対し、「ディフェンスを全然していないじゃないか!」と批判しました。するとティアフォーは、「自分にはスピードがあるから、ほかの選手ならディフェンスを強いられる場面でもオフェンスができる」と言い返したのです。

 問題は「自信過剰」と「オーバーヒッティング」にありました。ティアフォーは、ディフェンシブな状況でも無理矢理オフェンスに転じようとして、多くのミスを重ねていました。15年前、ティアフォーとよく似たスタイルと戦術だった元世界4位のジェームズ・ブレイクも、同じ理由で自滅することがありました。テニスにおいて、エリート教育を受けているからといって必ずしも勝利につながる戦術が磨かれるわけではないということの証明でしょう。

 同じく20年のUSオープン4回戦で、マリア・サカーリが元女王のセレナ・ウイリアムズを追い詰めたときのことです。運動能力が高く、粘り強いサカーリは、その2週間前の「ウェスタン&サザン・オープン」でセレナを倒したばかりで、今回は第3セットで先にブレークを奪い、2-1とリードしました。

 しかし、サカーリは2週間前の勝利で自信を得たわけではない様子でした。次のサービスゲームをキープできず、そのセットのセカンドサービスでは11ポイントのうち3ポイントしか取れず、結局3-6 7-6(6) 3-6で敗れたのです。

 サカーリは試合後、「相手の息の根を止めることができず、あまりに受け身になってしまった」と認めました。これは「アンダーヒッティング」の悪い例に挙げられます。

 トリックショットにも、「オーバーヒッティング」は当てはまる場合があります。2005年のオーストラリアン・オープン準決勝で、フェデラーが見せた一か八かのショットは、フェデラーらしからぬ残念なものでした。

 フェデラーはマラト・サフィン相手に第4セットでマッチポイントを迎えました。サフィンの素晴らしいロブを追いかけたフェデラーは、ベースラインの後方までダッシュすると、高いロブで返すことでポイントを続ける可能性をわずかでも残す代わりに、たとえフェデラーであっても100回に1回しか成功しないような股抜きショットを試みて、ネットにかけてしまいました。

 その後、サフィンは逆転して決勝に進出。レイトン・ヒューイットを退けて、優勝を果たしました。もし、フェデラーが決勝に進んでいれば、間違いなく優勝していただろうと言われています。「オーバーヒッティング」の危険性は、フェデラーをも惑わせてしまうのです。


真のスーパースターたちは攻撃と守備の最高のバランスを見つけ出している。ナダルの攻守の判断は素晴らしい。近年は特に攻撃を磨き、選択の幅が広がった


「股抜き」の名手フェデラーでも、かつて「オーバーヒッティング」に陥ったことがある。大事な場面で、そのとき打つ必要のなかったトリッキーショットを選択し、すぐそこにあった勝利を逃したのである


ティアフォーの伸び悩みの原因は、過剰なまでの「自信」と 「オーバーヒッティング」


サカーリは「アンダーヒッティング」に陥り、セレナに対するジャイアントキリングを逃した


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