ショーンボーン博士のテニスゼミナール〜「今回のテーマは〈ビッグポイントとは?〉」
ビッグポイントを考える 6
試合における高い心的な負荷がある中で各ポイントに100%の集中を注ぐ努力を
以上のことから、多くのポイントを獲得すること、マッチポイントを取ることが重要であることを主張できるのです。一度失ったポイントは後に“修理”できませんから、そうなったら次のポイントに従事しなければなりません。
もちろん、ブレークポイントやゲームポイントなどを考えないように、などと選手に要求してはいけません。彼らは活気のないマシーンではないのですから。
選手が“成功の希望を抱いて”プレーするのか。それとも“失敗の不安を抱いて” プレーするのか。選手がどのように思考してプレーするのかが問題です。
私は、自身がプレーしたベストマッチの一つを思い起こします。当時、トップ選手が活躍した国際チェコ選手権の準決勝に進出しました。その試合はさまざまな理由から注目されていて、センターコートのチケットは完売。相手は当時欧州ナンバーワンのロバート・ハイレット(フランス)でした。ナーバスになるだけの理由はある相手でしたが、私は必勝の意欲に満ちていました。彼はナンバーワンで、人気も高い選手でした。その彼を相手に私は、試合全体に渡り周辺環境を一切認知しないほど、相当深く集中していました。誰が審判で、男女の区別さえつかないほどに。
試合は、私の目の前で進む映画フィルムのような感覚でした。変わりゆくスコアをまったく考えず、ポイント一つひとつに全身力と全気力を注いで、必ず勝ちたいという意思でプレーしていました。最終的に私は勝ち、その後、控え室に戻り、シャワーを浴びたときに目を覚ましたような感覚になりました。試合中は一切熟考せず、あるいは何か知りたいともせずに、“ポイント収集ゲーム”を本能的に実践していたのみです。
今日の偉大な選手たちを見ると、同じように各ストローク、あるいは各ポイントに100%の集中を注いでいるところが見られます。レーバー、ボルグ、サンプラスを経て、フェデラー、ナダルへと時代は移り、発達と変動が進んでも、この点は同じです。
私は多くのトップ選手を指導してきましたが、その最適なパフォーマンス下ではこうした現象が起きることを幾度となく見てきました。短時間的なメンタルの回復なしに3〜5時間におよぶロングマッチを通して、このような心的緊張を保つことはたいていは困難であり、繰り返し衰弱化が起きたり、あるいは余儀なくされたりします。しかし、こうした周期を縮小することは習得できます。
ただし、これはトレーニングでは得られません。試合における高い心的な負荷においてだけです。心的緊迫状態との内的な駆け引き。このような緊迫したメンタル状況をトレーニングでシミュレートすることはできないのです。それが可能だと言う人は、おそらくビッグマッチを経験していないでしょう。