誰でも取り入れられる「具体的なアドバイスをしよう!」バランス指導のスペシャリスト、マーティ・スミス PART2


Q バランスを崩すことになるケガはありますか?

A あります。同時にケガの予防も考えましょう。

――結果的にバランスを崩すことになるケガなどはあるのでしょうか?

スミス あります。ケガは選手がバランスを崩す原因になります。特に足、腰、背中のケガです。もし膝を痛めているならボールへの動きが遅くなり、スイングするために良いバランスをとろうと足を進める時間が足りなくなるだけではありません。低いボールに対して膝を曲げてスタンスを広げることの障害にもなります。

 もし腰に痛みがあるなら、ワイドへのボールに対して体重を外へ乗せることに躊躇してしまい、肩が傾いてしまいます。このバランスの悪さはストロークに悪影響を与え、コート中央に戻るためのリカバリーを遅くしてしまいます。


アンディ・マレー

 腰(臀部)の故障はテニス選手にとって致命傷になりかねません。アンディ・マレーは臀部に手術を受けたあと、目標をトップ10ではなく、世界のトップ100、可能ならトップ50位以内と定めています。元のトップレベルに戻るのは難しいと実感しているのだと思います。

 スピードがわずかに落ちることがトップで戦う上で致命傷になることを理解している選手です。コートカバー能力が落ちることは、これまで倒してきた相手に負けてしまうことにつながります。


臀部の故障、そして手術が動きのスピードにどれほどの影響をおよぼしているか、想像に難くない。

Q よいバランスはケガの予防につながりますか?

A はい。効果的な運動連鎖(キネティックチェーン)を生み出すからです。

――素晴らしいバランスはケガの予防につながりますか? どのように予防されるのでしょうか?

スミス はい、なぜならバランスはキネティックチェーン(運動連鎖)の効果的な使い方を生み出すからです。キネティックチェーンは体を連鎖システムとして力を伝え、足で生み出したエネルギーは腰へ、次に肩へいき、最終的にはボールを打つときの腕へ伝わり、最高点に達します。

 地面から生まれ、体を上がっていくエネルギーは、良いバランスがあってこそ生み出せるものです。もしキネティックチェーンでエネルギーを上手に伝えられなければ、ラケットスピードを生み出すために強力な腕の振りが必要になります。そのような方法でラケットを繰り返し振っていると、筋肉、関節を痛め、さらには腕や肩を負傷してしまうでしょう。キネティックチェーンをうまく使えれば、下半身から生み出されたエネルギーによって腕は自然と振られ、ケガのリスクは避けられます。

 バランスはショット時の前方への体重移動もアシストしてくれるので、体のほかの部位を余計に使わないで済みます。例えば、良いバランスでパワフルなバックハンドを打つために前方へ踏み込むとき、前足はしっかり固定され、前方への体重移動はスイングへ最大限に変換されます。この前方への効果的な動きは、体のストレスを減らし、ケガを防ぐことにもつながります。


とりわけ柔軟性にすぐれるジョコビッチ。運動連載(キネティックチェーン)をうまく使えれば、下半身から生み出されたエネルギーで自然にスイングができ、ケガのリスクを避けられる。

加速から減速、スピードアップ&ストップ

 スピードに乗った状態での急激なストップは、テニス選手にとって大きなケガの要因となっています。よいバランスを身につけることは、選手にとって正しい体重の分散方法、足や腰の伸縮する筋肉を順序だてて正しく作動させることにもつながります。もし方向転換するためストップしたときにバランスを崩すと、片方の足と腰に大きく体重が乗ってしまいます。このような止まり方を繰り返していると、関節を痛め、これらの部位の靭帯や筋肉に大きな負担がかかります。ストップのときに体を伸ばし過ぎることは、伸縮した筋肉の動きの最適な順序を崩してしまうでしょう。私たちの体は、特定の筋肉がほかの筋肉よりも先に作動するために伸縮する仕組みになっているのです。これが正しく作動しないと、いくつかの筋肉にストレス、疲労が集中してケガのリスクが高まります。

 39歳のフェデラーは素晴らしいバランスの持ち主で、大きなケガをあまり経験してきませんでした。とてつもなく長いキャリアを楽しんできたのは、驚きとは言えません。彼のバランスの良さは、スイング中の上方と前方へのスムーズな体重移動を促し、それゆえ彼はごく自然に生み出されたパワーでボールを打っています。


フェデラーが見せる正しいバランスは、動きの節約とも言える。最小限の努力が最大限のパワーを生み出している。


 ウェルビーもフェデラーの大ファンです。「正しいバランスは動きの節約とも言える。最大限のパワーが最小限の努力から生み出される」と過去に私に言ってきました。

 私たちは、時速145㎞のフォアハンドを打つとケガの心配やリスクがあるという声を、フェデラーが打ち砕いてくれることを期待しています。多くのテニス選手のケガは、ラケットを振ることではなく、コートの中を精力的に走り回ることによって起きています。フェデラーのバランスのとれた流れるような動きは、膝や腰に大きな負担をかけることなく、ストップして方向転換することを可能にしています。膝、腰、この2ヵ所を痛めてプロのキャリアが短くなってしまう選手のなんと多いことでしょうか……。

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