WIMBLEDON LEGEND STORY〜伊達公子スペシャルインタビュー〜


日本女子としては史上初、男子を含めても63年ぶりとなる聖地ウインブルドンでのベスト4。さらに女王グラフとの2日間にわたる準決勝は、日本テニス史上に残る屈指の名勝負となった。伊達公子が自ら振り返る1996年のウインブルドンとは――。

Special Interview

WIMBLEDON

LEGEND STORY
伊達公子
1996年女子シングルス・ベスト4

取材・構成◎杉浦多夢 写真◎BBM、Getty Images

PROFILE(※インタビュー時のもの)
だて・きみこ◎1970年9月28日生まれ。京都府出身。園田学園高校では3年生だった88年インターハイでシングルス、ダブルス、団体の3冠獲得。プロ転向後は代名詞のライジング打法を武器に94年オーストラリアン・オープン、95年フレンチ・オープン、96年ウインブルドンとグランドスラム3大会でベスト4入りを果たすなど、90年代の日本のテニスブームを牽引。絶頂期だった96年限りで引退するも、08年に37歳で現役復帰。グランドスラムでも活躍し、38歳でのツアー優勝など数々の最年長記録を打ち立てた。17年に2度目の引退。現在はジュニア育成など幅広くテニスの仕事に携わりながら、テニス界の環境整備に尽力する


現役最後と決めた年に、 初めてセンターコートに立ち、 グラフ相手に納得のいくプレーができた。 充実感にあふれた最後のウインブルドン――」






ウインブルドンへの思い

 最後と心に決めて臨んだシーズンだった。もちろん、伊達にとって特別な大会だったウインブルドンで戦うのも、最後。そのラストチャンスで、まずセンターコートに立つという小さい頃からの夢を叶えた。準決勝では女王シュテフィ・グラフを追いつめ、日本中にウインブルドン決勝の舞台という夢を見せた。

 1996年のウインブルドンと伊達公子。その記憶を、伊達自身にひも解いてもらった。最後に編集部が無理を言って語ってもらった「たられば」話を含め、24年前の伝説を振り返っていく。

  ◇    ◇

 1996年は最初から「この年限りで引退しよう」ということを心に決めて臨んだシーズンでした。94年ころが一番「勝ちたい、勝てる」と強く思っていた年でしたが、それ以降はツアーを転戦することの苦しみのほうが大きくなっていってしまった。だから96年は最後と決めて、できるだけすべてにおいて楽しむように心掛けていましたね。1大会1大会、「もう来年はここに来ることもないんだな」と自分に言い聞かせながらコートに立って。まあ結局は、楽しむというのとは程遠い日々でしたけど(笑)。それでも一生懸命、楽しむ努力はしていました。

 私にとってもウインブルドンというのは小さい頃から特別な大会でした。今みたいにテレビ中継が充実していたわけではなかったので、そもそもグランドスラムといってもウインブルドンくらいしか知らない。母親にテレビのある部屋に布団を敷いてもらって、子供ながらに眠い目をこすりながらテレビの前にかじりつく。一生懸命に見ているはずがいつの間にか夢の中、見ているんだか見ていないんだかわからない、ということも多かったですが、私にとってはとにかくウインブルドンのセンターコートの試合が中継されているテレビの前にいるということが大事だったんです。

 グランドスラム・ジュニアに行ったのも、ウインブルドンが最初で最後でした。テレビで見ていた憧れのセンターコートを自分の目で見て感激しましたが、そのときはまだ「ここでプレーしたい」とまでは思えませんでしたね。ウインブルドンの会場に入って、センターコートを見るだけで満足で、「すご~い」で終わって帰ってきてしまいました。

 プロになって、少しずつ勝つことができるようになってきて、グランドスラムのセンターコートで戦うことが憧れではなく目標になっていきました。その中でもウインブルドンのセンターコートはやはり特別。序盤戦でトップ選手と当たって立つのではなく、自分で勝ち上がって、自分の力で立ちたいという夢が大きくなっていきました。ほかのグランドスラムとは違う特別感がありましたし、特別だけど簡単ではない、もしかしたら一番難しいという思いもありました。

 実際、私自身は芝のコートが得意だと思ったことはありません。それは2008年からの第2キャリアにおいても同じです。ただ、特に第2キャリアでは、芝で私と戦うのを相手が嫌がっていることは理解していましたけど。そもそも芝のシーズンは短いので、得意とか不得意とか言えるほど時間を費やしていないということもあります。クレーと違って弾道が低いとか、ネットプレーを生かせるという自分にとっていい面もありますが、ウインブルドンは天候が不安定で気温が上がらない、雨で中断が多いという不安材料があるのも影響しているかもしれません。途中で止められるのは昔から好きではありませんでしたから。

 でも、どうなんだろう。クレーは苦手な要素ばかりたくさん挙げることができるから、それに比べると客観的に見れば芝が得意と言えるのかな。それでもやはり、感覚としては得意だと思ったことはありませんね。

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