レベルアップの必須能力「テニスのスピード」前編「テニスの動きのセオリーを学ぶ」

写真◎毛受亮介



Topic2
トレーニングの間は身体を意識することを忘れない

360度どの方向にも動けるフェデラー
よい動きと読みと予測を持っている

――フェデラーの比類のないフットワークと動きはいろいろな言葉で表現されてきました。「並外れた」「優雅」「バレエのような」、そして「コートの上を浮いている」とさえ言われています。

 オーストラリアにいるフットワークの専門家、デビッド・ベイリーは、テニスのフットワークを15個の“コンタクトムーブ”に分けて考えています。そのうちもっとも基本的な7個がありますが、そのうち3個は攻撃、2個は守備、残り2個はラリーだそうです。ワールドクラスの選手ならこれら7個をうまく使いこなせると言いますが、フェデラーだけは15個すべてを高いレベルで使えるとベイリーは言っています。

 ニューヨークタイムズのインタビューではこのように語りました。「彼は360度すべての方向にうまく動ける。すべてのサーフェスで前後左右、どの方向にも素晴らしい動きを見せる。動きに無駄がない」と。フェデラーはどのように、これらの一段も二段も進化した動きができるのでしょうか?また彼ほど才能のない選手にはどのように指導すればよいのですか?

大地 テニスコート上でもっとも効率の良い動きができる選手はフェデラーであるという意見に賛成です。先にも述べましたが、彼はボールと相手を読んで、次のショットを予想するための特別な才能を持っていると思います。その結果として、彼は最初のステップをより効果的にかつ美しく動けるのです。

 何年も重ねてきた練習とトレーニングにより、フェデラーはこの特別なスキルを身につけたと考えます。彼はおそらく、オフコートのトレーニングにもかなり取り組んできたのでしょう。それが彼のフィジカルレベルを押し上げ、彼の動きを助けています。

 トレーニングセッションの間、私はいつも選手たちに「身体を意識すること」を忘れないように伝えています。そして選手たちは「重心」をきちんと理解しなければなりません。これについて知っているかどうかでかなり違います。意識していない選手もいますし、理解できずに苦しんでいる選手もいます。

 自分の身体、身体のポジションを意識できれば、不要な無駄な動きを最小限に止めることができます。そこが「身体を意識すること」の効果です。もし、不要な動きをたくさんしていれば、バランスを失い、無駄なステップでエネルギーを浪費してしまいますから。その結果、フェデラーのように効果的に動くことはできなくなるのです。


身体を意識する


重心を理解する(スタンスの間に重心を保つ)


フェデラーはただ動きがよいだけではない。ボールと相手を読んで、次のショットを予想して動いている

テニスの複雑な動きの習得には
多くのトレーニングと練習が必要


指導へ影響するのか?
テニスのスピードと遺伝的要素


――テニス選手のパフォーマンスは遺伝によってどの程度影響されると考えますか? 例えば人種の違いによって飛び抜けた遺伝子を持ち、とてつもないスピードを備えた選手がいた場合、ほかと異なった方法で指導しますか?

大地 基本的に、人種の違いによって指導方法を変えることはしません。私は選手を個別のアスリートとして見ています。彼、あるいは彼女の身体の特徴は一人ひとり異なり、それぞれが必要としている要素をベースに練習プログラムなどを考えています。ただ、遺伝的な要素は確実にあり、無視できません。身体的な特徴は人間の遺伝子によってあらかじめ決められているケースもあります。

 テニスは複雑な動きを求められるスポーツです。スキルを身につけるためには、何時間、何年間ものトレーニングと練習が必要です。もし「テニス遺伝子」というものが存在するのなら、それは選手にスピードというアドバンテージを保証してくれるものではありません。ほかの要素が違いを生み出すのであり、偉大なテニス選手に育つのをサポートしてくれるのです。

――テニスに当てはまるスピードの遺伝子が存在すると思いますか?

大地 はい、スピードの遺伝子はあると思います。しかしながら、スピード遺伝子を持っているだけでは、足の速いアスリート、私たちのケースではテニスコート内でのスピードを向上させられるとは限りません。デビッド・エプスタインが著書『The Sports Gene(スポーツ遺伝子)』の中でポイントに挙げていたのは、遺伝子だけがすべての解決策になるのではなく、環境やトレーニングも非常に重要な要素になるという点です。


続きを読むには、部員登録が必要です。

部員登録(無料/メール登録)すると、部員限定記事が無制限でお読みいただけます。

いますぐ登録

Pick up

Related

Ranking of articles