レベルアップの必須能力「テニスのスピード」前編「テニスの動きのセオリーを学ぶ」

写真◎毛受亮介



Topic4
長いストライドは距離を稼ぐとき、短いストライドは短い距離を移動するとき 

ストライドの長さは
状況に合わせて調整する


――長いストライドを利用するのはどんなときですか? 細かいステップを踏むのはどんなときですか? それぞれ理由も教えてください。

大地 ストライドの長短はすべて状況によって変わります。答えは、 そのつど最適な長さのストライドを使うことです。

 一般的には長いストライドのほうが距離を稼ぐことができ、短いストライドで短い距離を移動します。距離があるときは長いストライドを使って加速して移動し、すでにボールに追いついて打つときは短いステップを「調整」に使えばいいのです。

 しかし、テニスコート上ではすべてのシチュエーションが異なるため、距離、方向、角度、ポジションなどがすべてまったく同じになることはありません。それゆえ、ストライドの長さはそれぞれの状況に合わせて最適な長さに調整すべきです。

――試合中、いろいろな方向へのスプリントが繰り返されることがあります。例えば、ベースライン上を4~6m程度、左右に何度も動くラリーから、クロスコートへのアングルショットを返すために斜め後方へ6m下がったり、ドロップショットに追いつくため前方へ9mダッシュしたりします。それゆえ、これら特定の状況に備えて選手は練習をするべきなのでしょうか?

大地 はい、テニスは多方向への動きが要求されるスポーツなので、選手はここで挙げた状況への準備のために練習するべきです。

 しかしながら、テニスの動きのほとんどは非常に短い距離であることも頭に入れておきましょう。ある研究では方向を変える動きの平均距離は4m以下で、また別の研究では選手の動きの80%が2.5m以下と言われています。それゆえ、短距離の多方向への練習・トレーニングがテニスの動きにおいてもっともフォーカスされるべきです。


短い距離を移動したいとき、ストライドは短く


長い距離を稼ぎたいとき、ストライドは長く



選手にはある方向への動きが
ほかに比べて得意な場合がある

――2020年ATPファイナルズのラウンドロビン(予選リーグ)で、アレクサンダー・ズベレフがディエゴ・シュワルツマンを倒した試合の話です。テニスチャンネルの解説者であり、元世界1位のピート・サンプラス(アメリカ)を指導したポール・アナコーンが、「ズベレフは横の動きは素晴らしいが、南北(前後)の動きはごく平凡だ」と話していました。ある方向への動きがほかの方向への動きよりもかなり良いのはなぜですか? そして、彼らはどうすれば不得意な方向への動きを改善できるのでしょうか? 

大地 あなたのコメントは非常に興味深いですね。私はその試合を見ていないので、ここで述べる意見はあくまで予想になります。南北(前後)の動きには斜めの動きも含まれていると思います。全般的にズベレフは動きのいい選手です。バランスも安定性もすごくいいです。テニスの動きの70%以上が横方向への動きなので、ほとんどの状況でコートをよくカバーできています。ズベレフはパワーと瞬発力があるので、コート内を速く動くのに必要な要素も備えています。 

 お話しのケースでは、相手がトリッキーなショットが得意なシュワルツマンなので、問題はマッチアップであったり、予測の問題なのではないかと思います。もしかしたら、ズベレフの動きがたまたま悪かったのかもしれません。何とも言えません。あなたのような経験豊かなコーチの目を私は信じているので、もしかしたらズベレフが改善する必要のあるポイントなのかもしれません。

198cmのズべレフの動きは全般的にいいと大地氏。シュワルツマン戦での前方への動きの評価について大地氏は、相性の問題や予測力の欠如などがあったかもしれないと予想


2020年ATPファイナルズ予選でシュワルツマン(左)と対戦したズベレフは、そのトリッキーなプレーに翻弄されたかもしれない


 選手にはある方向への動きが、ほかに比べて得意な場合があります。パワーと可動性の問題かもしれません。人間の身体、特にテニス選手の身体は左右非対称です。ある選手が身体的な欠点があるために左側の腰を正しく開くことができない場合は、左方向へのステップを効果的に踏み出せないかもしれません。つまり左方向への動きがよくないのかもしれないです。

 右側のお尻の筋肉(臀筋)が弱い選手なら、右足の一歩目が左足ほど強くない可能性があり、右サイドからの切り返しが、左サイドからの切り返しほどよくないこともあるでしょう。

 私たちはストレングス&コンディショニングのプログラムの中で、これらのようなことを観察し、見つけた欠陥をもとに、選手たちが動きの中で不得意な面を克服できるように調整していきます。(次回に続く)

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