レベルアップの必須能力「テニスのスピード」後編「勝つためのスピードアップ」
USTA(全米テニス協会)のフィジカル部門トップコーチ、大地智(おおち・さとし)氏にポール・ファインがインタビュー。テーマは「Everything You Need to Know about Speed in Tennis(テニスのスピードについて知っておくべきすべてのこと)。後編は、「勝つためのスピードアップ」として、「テニス選手に最適なトレーニング〜加速のカギは何か?」「加速と減速の両方を使いこなす力をつける」「テニスは360度フットワーク〜70%以上が横、30%は斜めと前後」「将来に向けて ── より速く、より強く“ただのテニス選手”以上になる必要がある」をお届けします。(2021年5月号テニスマガジン掲載記事)※記事は掲載時のまま
スピード解説◎大地 智(全米テニス協会ストレングス&コンディショニング・ヘッドコーチ) インタビュアー◎ポール・ファイン 写真◎毛受亮介、BBM、Getty Images
Topic5
テニス選手に最適なトレーニング
加速のカギは何か?
素早く効果的な加速のカギ
テニスに近いスポーツ
――素早く、効果的な加速のカギは何ですか?
大地 まず、目と頭脳、それからストレングス、瞬発力とパワーです。効果的に加速するためには素晴らしいボール認知能力と判断力が必要です。ベーシックなストレングスは身体を動かすパワーを多く生み出す助けになります。 最後に、素早く動くにはパワーを早く生み出す必要があります。そこですぐれた瞬発力とパワーを生み出す能力が必要なのです。
――短いダッシュの繰り返しで、テニスの動きに近く、スピードとアジリティーを要求されるほかのスポーツは何ですか? また、若いテニス選手はそのスポーツをプレーするべきでしょうか?
大地 私は多くのスポーツを経験することに大賛成で、若い頃は特にたくさん経験したほうがいいと思います。異なるスポーツは身体能力、運動能力だけでなく、メンタル面とソーシャルスキルを向上させることができます。サッカー、バスケットボール、バレーボール、野球の内野手はテニスに似て、短いダッシュの繰り返しが多いスポーツだと思います。一般的に言うと、選手とボールがともに動くスポーツが、テニスでももっとも役に立つと思います。
スピード向上に
有効なトレーニング
――選手のスピードを向上させるのにもっとも有効なトレーニングは何ですか?
大地 シンプルに「スピード」、つまり直線的な加速とトップスピードを向上させるには、ストレングス・トレーニング、プライオメトリクス・トレーニング(スピード筋力を鍛えるトレーニング)、パワーアップにつながるトレーニングが非常に有効です。そのほかのスピードの種類には多方向への加速、減速が含まれます。つまり20mやそれ以下の加速トレーニング、エキセントリック・エクササイズ、方向転換(COD=Change of direction)トレーニングもかなり有効です。
テニスのスピードアップのために私がもっともおすすめしたいのが、「なわとび」です。低強度で反復のプライオメトリクス・トレーニングは腱や筋肉の剛性と強さを向上させます。テニススピードのためには地面を強く蹴って、そこから素早くパワーを得るのに十分な剛性と、強さのある腱と筋肉が必要です。なわとびはコーディネーションのトレーニングにも最適です。
右が大地智氏、左はジェニファー・ブレイディ(アメリカ)
Photo courtesy of Amy Barnhart, USTA Player Development Medicine Ball drills on sand with Jennifer Bardy. 2018 pre season training.
坂本勇人選手(読売ジャイアンツ)
おすすめの
トレーニング用具紹介
――スピード・アジリティー・トレーニングの用具は、ラダー、コーン、マーカー、ゴムチューブ、バンジーコード、スピード筋力ストラップ(人やタイヤなどを引っ張る際のゴムバンドのこと)、リアクションボール、ゴムバンド、フィットネスリングを使いますか? テニス選手はこれらやそのほかの用具を、具体的にどのように使うのですか?
大地 私はすべて使います。それぞれの用具は異なる理由と目的で、とても便利です。ラダーはアジリティー・フットワークのトレーニングに最適です。コーンやマーカーは選手に加速・減速や方向転換トレーニングで目標にするのに有用です。プライオメトリクスのトレーニングでまたいでステップしたり、連続でジャンプして飛び越えるのにも使えます。
ゴムチューブ、バンジーコード、ハーネスベルトは、スピードトレーニングや動きのトレーニングで抵抗を加えるのに使えます。これらの用具は“オーバースピード”トレーニングにも使えます。通常のスピードよりも速く走れるように選手を引っ張るのです。アスリートが“オーバースピード”を経験すると、同時に減速技術・ストレングスも身につきます。
スピード筋力ストラップは抵抗を加え、加速のトレーニングに最適です。リアクションボール(凸凹でどこに弾むかわからないボール)は、まず楽しい上に、反応とアジリティーを強化できます。ゴムバンド、フィットネスリングのようなサスペンション・トレーニング器具は、テニススピードのためのストレングスとスタビリティを向上させるストレングス・トレーニングに有用です。
重要なのは、異なるトレーニング法や用具をバランスよく使うことです。ひとつのタイプの用具ですべてをまかなうことはできません。異なる用具、道具をミックスするのです。複数の用具を組み合わせて、異なるトレーニングを作成したりします。例えばオープントレーニング、クローズドトレーニングで異なる用具を組み合わせて使います。もし、それぞれの用具について知識が深く、それぞれの長所短所を理解しているのなら、テニス選手に最適なトレーニングをたくさんつくることができますし、退屈することなく、楽しませながらやらせることができるでしょう。
ゴムバンドを腰に巻きトレーナーに 引っ張ってもらうアンディ・マレー
スピードアップのためにおすすめしたいのは「なわとび」
ゴムバンドを足首に使用する ダニエル・エバンズ
ネットプレーでの
ハンドスピードアップ
―― あなたの仕事は、特にネットプレーで重要になる“ハンドスピード”の能力を上げることも含まれますか?
大地 反射とコーディネーション力は選手の「ハンドスピード」をアップさせるのに必要な能力です。加えて、ラケットを巧みに操るのに欠かせないパワー、ボディポジションと動きをコントロールできるだけの瞬発力と機敏さが必要になります。反応、ストレングス、パワー、コーディネーションのトレーニングやエクササイズは、選手のハンドスピードの向上にも使います。しかし、この分野を向上させるもっともよい方法はオンコートでの練習だと思います。
瞬発力、機敏さに始まる反射とコーディネーション力を養うことがハンドスピードの向上につながる
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