レベルアップの必須能力「テニスのスピード」後編「勝つためのスピードアップ」
Topic6
加速と減速の両方を
使いこなす力をつける
相手のショットや
ポジションを読む能力、
次の動きを予測する力
――フェデラー、ナダルやジョコビッチのような選手は、測ったように減速してボールにアプローチし、ボールを打ったあとはアジリティーを利用して方向転換します。彼らはどのように両方の動きをあれほど上手にできるのでしょうか?
大地 何年もの練習、トレーニングと経験によって、彼らはコートの内外で素晴らしく上手なのです。彼らはコート上のどこからでも加速・減速できるだけの強さとパワーを持ち合わせています。彼らのフット・アイ・コーディネーション、相手のショットやポジションを読む能力、次の動きを予測する力が、彼らが動く距離とタイミングを正確に測るのに必要な精度の加速と減速を可能にしています。
――スピードトレーニングの内容は男女間の体の違いのために異なるのでしょうか? もし異なるなら、どう違うのですか?
大地 先ほど話したように、私はアスリートを個々で見てトレーニングを課しています。異なるフィジカル、競技歴、経験、強みと弱みなどを考慮してストレングス&コンディショニングのプログラムを作成します。
そしてあなたの言う通り、一般的に男女で身体のつくり、特徴が違います。おそらく、もっとも重要な違いは身体組成でしょう。一般的に男性のほうが女性よりも筋量が多く、骨盤のつくりの違いにより女性のお尻のほうが大きく(全体が女性のほうが横長、男性のほうが縦長)、アングル(骨盤の傾き)も女性のほうが大きくなります。しかしながら、男性の何割かは女性の身体のような弱点やマイナス面があることもあり、逆のケースもあります。
個々のアスリートはそれぞれ異なり、人間の身体はとても複雑です。ある選手はほかの選手よりも強く、瞬発力があり、大きい、小さい、背が高い、背が低いなど特徴があります。この事実がストレングス&コンディショニングの専門である私たちの仕事をとても興味深く、やりがいのあるものにしてくれています。だからこそ、私はこの仕事が大好きなのです。
なぜスプリットステップが
重要なのか
――相手のショットに追いつくため素早く加速するのに、なぜスプリットステップは重要なのですか? 進化したスプリットステップとはどんなものですか?
大地 スプリットステップは素早く加速するための、より大きな地面からの反発力を生み出してくれます。小さくジャンプする(スプリットステップ)ことで身体は地面からプラスアルファのエネルギーをもらえるのです。その結果、より小さい動きで効果的に素早く加速できます。
私の意見で「進化系スプリットステップ」は、スプリットステップをする時点ですでに次の動きの準備をしていることです。具体的な例を挙げると、スプリットステップの直後に着地する前に、すでに腰を開いてつま先は次に動く方向に向いており、外側の足は地面に着く瞬間に一歩目を踏み出す準備をしている状態です。
スプリットステップは
上下動を抑え、
地面から反発エネルギーを
もらう
――重心とは何ですか? そして動きの中でスプリットステップ、一歩目、スプリント、歩幅調整、シャッフル、スライディングなどのときに、どのように重心は移動していくのですか?
大地 重心はバランスポイントです。身体を動かすためにエネルギーが作動されるポイントです。それゆえ、より安定して、より簡単に身体を動かすためのエネルギーを作動するために、重心を低くすることが多いと思います。そして走るときに重心の上下動をできる限り小さくすることが大事です。
スプリットステップは、動きの中で自然と上下動の動きを生みますが、できる限り上下動を抑える意識をしつつ、地面から得られる反発エネルギーを十分生み出せる高さにジャンプをする必要があります。ゆえに、スプリットステップは通常、非常に小さいステップです(右写真のナダル)。またスライディング時の重心は、低く両足の間にキープすることです。そうすれば、止まったときにバランスを崩す危険性が減ります。
動きの良い長身選手の出現
――世界トップ50の男子選手の平均身長は190cm以上で、かつてない高さになりました。史上もっとも身長が高いのは211cmのライリー・オペルカ(アメリカ)です。現在35歳で身長203cmのジョン・イズナー(アメリカ)の全盛期と比べても、オペルカのほうが動きがスムーズで俊敏さもあります。オペルカのほうが生物学的により効果的に走っているのでしょうか?
またオペルカは「私はボールに向かってダッシュするのが好き」と言っているのに対し、イズナーは「NBAで相手チームに得点されたあと、2mの選手がドリブルでボールを相手陣内に運ぶことはないだろ?」と言っています。2人の姿勢の違いが動きに影響していますか?
大地 ライリーは大きい割に動きがいいと私も思います。実は、彼が13歳のときから一緒にトレーニングしてきました。その頃から彼が大きくなることは予想できました。ジュニアの頃にクレーコートでたくさん練習し、特にグラウンドストロークを磨いたのが彼の動きの良さにつながったと思います。
基本的なアジリティーのフットワークトレーニングもたくさんしました。ライリーは走るのが嫌いではありませんでしたが、確実に好きでもありませんでした。どんなトレーニングやエクササイズをするときも、彼の身体に大きな負荷がかからないよう注意深く調整していました。だから、彼を走らせるときはいつも天然芝の上だったのです。
ライリーは素晴らしいアスリートでもあり、バスケットボールも本気でプレーするのが大好きです。彼とトミー・ポール(アメリカ)は地元のジムでいつも長時間プレーしていたようです。私たちも当時は知りませんでしたが。
私たちは彼の強度と許容量をうまくコントロールし、おかげで、彼はよい加速と減速の動きを習得しました。彼の一歩目はとてつもなく速いですよ。ライリーは現在、USTAの10mダッシュにおける5mタイムの最速記録を保持しています。
――長身選手には、背の低い選手と違う走り方を指導するのですか?
大地 基本的なスプリント技術はどんな身長の選手でも同じものです。長身のスーパープレーヤーの膝や足首のケガの要因は様々ではありますが、背の高い選手のほうが低い選手よりも腰、膝、足首の関節にかかる負担は大きいと言って問題ないはずです。体重、組成が同じ2人の選手がいて、どちらかのほうが背が高ければ、同じ頻度でスプリントとストップを繰り返したとき、背の高い選手のほうが関節にかかる負担は大きいでしょう。それゆえ、私は長身選手に違う走り方を指導するのではなく、スプリント系トレーニングの強度や量に、より注意を払っています。
ライリー・オペルカ(身長211cm)は ネットプレーを好む
ジョン・イズナー(身長203cm)はオペルカほど積極的にネットに出ることはしない
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