レベルアップの必須能力「テニスのスピード」後編「勝つためのスピードアップ」
Topic7
テニスは360度フットワーク
70%以上が横、30%は斜めと前後
大会が近づくにつれて
テニスに特化したトレーニングにする
――フロリダのIMGアカデミーでテニスのフィジカルコンディショニングのトップとして活躍した中村豊(本誌で連載中)は、Tennis.comのインタビューで「大会が近づくにつれて、トレーニングはよりテニスに特化したものに変化していきます。動きの効率性にかける時間や量を減らしていくのです」と語っています。“動きの効率性”とは具体的にどういう意味ですか? そしてなぜそうするのですか?
大地 期間を区切る基本的なコンセプトです。大会が近いとき、トレーニングはよりそのスポーツに特化したものとなり、大会でトップコンディションを迎えるためにトレーニング量を減らしていきます。ここで言う動きの効率とは、どちらかというと特定の動きのパターンやスキルになります。
大会のスタートに近いときならば、身体に新たな負担をかけたくないものです。ここまで取り組んできたことにさらに磨きをかけ、すべてが最高の形であることを確かめるのです。豊は現在、大坂なおみのフィットネストレーナーとして働いています。
ダイナミックバランスと
姿勢が一番よい
ジョコビッチ
――片足スタビリティ・トレーニングとは何ですか? それらはどのように動きの効率化につながるのですか?
大地 サービスで打ち終わったときのフィニッシュポジションでは自分の身体全体の体重を片足で着地して支えなければなりません。さらに、テニスのほとんどの動きは片足で始まり片足で終わるのです。
テニス選手は片足で減速して身体を安定させる必要があります。だからこそ片足のスタビリティが重要なのです。片足スクワット、片足RDL(ルーマニアン・デッド・リフト)は、テニス選手がよく行うもっともポピュラーな片足のストレングス&スタビリティ・トレーニングです。
――テニスで走るとき、ダイナミックバランスとよい姿勢がとても重要な理由を教えてください。
大地 ダイナミックバランスはどんなポジションでも良い姿勢を保ち、身体を安定させる能力です。テニスという競技は、相手をコート全体に走らせ、良いショットが打てないようにバランスを不安定にさせることが狙いです。
良い姿勢は安定したポジションをつくり、キープするための大事な要素です。良い姿勢なくして身体を安定させるのはとても難しいです。
――ダイナミックバランスと姿勢が一番いい選手は誰ですか?
大地 私はジョコビッチが最高のダイナミックバランスと姿勢を持っていると思います。
片足で着地して身体を支える
360度フットワーク
テニスは多方向への
動きが要求される
――2014年の著書『スペインテニスの秘密』でクリス・ルーヴィットは「スペインでフットワークは、横と前への動きだけではなく、360度全方向への動きとして指導されます。私の経験では、ほとんどのアメリカ人コーチは攻撃のために180度の動き、つまり横と前への動きを指導します」と書いています。ルーヴィットは正しいと思いますか? そして横、斜め、前、後ろに動くとき、走り方を変えるべきですか? 変えるなら、なぜですか?
大地 テニスは多方向への動きが要求されるスポーツで、360度の動きも含まれます。それと同時に、大半のテニスの動きは、70%以上が横の動きです。したがって、横の動きに力を入れるのは理に適っています。最初の動きのパターンは常に異なり、動く方向によって決まります。そしてすべてはコート上でのポジション次第で、攻撃的、ニュートラル、ディフェンシブな状況次第なのです。だからあなたの言うとおり、横、斜め、前後へ走るときは、すべて違った動き方になります。
――クレー、芝生、ハードとサーフェスによって走ったり、スライディングする方法は変えるほうがいいと思いますか? もしそうなら違いを説明してください。
大地 サーフェスによって、走り方を変えるべきかどうかは何とも言えません。しかし、サーフェスの異なる特徴、柔らかさ、硬さ、摩擦によっては動き方は変えるべきでしょう。簡単な物理の問題です。ハードコートのようにサーフェスが硬く、摩擦が大きいほど、コートからの反発力は大きくなります。サーフェスの摩擦が少ないとクレーコートのように滑りやすくなり、選手はスライディングしやすくなります。
ハードコートでのスライディングはとても面白いテーマです。今言ったようにサーフェスの摩擦が少ないクレーコートのほうがスライディングはしやすいです。ハードコートでは摩擦が大きいため、スライディングはより難しくなります。つまり、ハードコートでスライディングするほうがよりエネルギーを消費するのです。
それでも、すでに私たちが目にしているようにハードコートでスライディングできます。スライディングを止めるのにより多くのエネルギーが必要になるため、ハードコートでスライディングするためには十分な身体の強さとバランスが必要になります。
現在のテニス選手は、歴史上でもっとも強く、スピードもあるため、以前よりもハードコートでスライディングするようになりました。もちろん、シューズの進化も大きな影響があります。また、ハードコートのサーフェスが私の知らないところでストップしやすく変わっているのかもしれません。
テニスは多方向への動きが要求されるスポーツ。状況によって動きの方向、動き方は異なる。写真のジョコビッチはかなりディフェンシブな状況だが身体のバランスをとり、反転してすかさず次の動きに入っている
ハードコートでスライディングして返球するジョコビッチ。身体の強さとバランスのよさが顕著
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