ショーンボーン博士のテニスゼミナール〜「今回のテーマは〈ビッグポイントとは?〉」
テレビや雑誌の解説で、ときどき〈ビッグポイント〉の言葉を耳にします。それを言う人は、なぜそれを〈ビッグポイント〉と言うのか証明はしないので、私はいつも疑問に思っています。ちなみに私の答えは明確です。数多くのゲーム分析をしてきた結果、導き出した答えを持っています。今回は、いくつかのゲーム分析の事例を紹介しながら、いっしょに〈ビッグポイント〉を探っていきましょう。ちなみに、プレーヤーやコーチのあなたはゲーム分析を行っていますか? 正しく行えているでしょうか。ゲーム分析は非常に大切です。それを行うことによって多くの事象をフラットにとらえることができるようになります。【テニスマガジン2018年5月号掲載記事】
指導◎リチャード・ショーンボーン
Richard Schonborn◎チェコ出身、ドイツ在住。10年間、チェコスロバキアのデ杯代表として活躍した。1969年からドイツテニス連盟のチーフコーチとしてデ杯、フェド杯、ジュニア代表チームを指導。のちに世界1位となるボリス・ベッカーやシュテフィ・グラフの15歳までの育成責任者でもある。バイオメカニクス、スポーツ生理学の研究者として知られ、それらを応用したトレーニング、科学的ゲーム分析研究の分野でも第一人者に。80年から現在まで世界各国の指導者育成に携わり、日本にも複数回来日、JTA公認S級ライセンス発足時には講師も務めた。
翻訳◎高橋日出二 構成◎編集部 写真◎小山真司、Getty Images イラスト◎田谷 純
ビッグポイントを考える 1
ドイツのテニス専門誌で見た〈ビッグポイント〉の解説に疑問符
ドイツのテニス誌に、ある二人の共著による「ビッグポイントという神話?」と題する記事が掲載されました。その内容は興味深く、論議する価値があるものでしたが、論証という点で少々疑問が残りました。このテーマを今回、日本のみなさんにも紹介することにします。
二人の著者による理論および結論は、ジョコビッチのある一試合を基盤にしています。内容はともかく、私は、ただ一つの試合から何かを結論づけるということをするには注意が必要だということをまず言いたいです。
なぜ注意が必要かということについて、ある事例を用いてお話しします。
私は、これまで25年から30年の間、400から500におよぶ男女の世界トップクラスの試合(さらに2018年オーストラリアン・オープンも加えます)を自身で開発したシステムを用い、ポイントごとに詳細な分析を行ってきました(分析システムについてはドイツで発行されている著書『テニスの戦略と戦術』118〜144頁に掲載。機会があれば日本のみなさんにもぜひ読んでほしいと思っています)。
こうした分析では確かに例外も少なくないのですが、分析量が多ければ多いほど、時間や公式の統計(スタッツ)、選手名、あるいは試合のあれこれに因われない、常に確かな傾向を追うことができます。こうした分析法に至ったのは、『DTBシンポジウム』でのアメリカの専門家らによる講演とその基礎資料によってです。私はその研究成果に強い疑念を抱き、それが正しいかどうか自分自身で確かめてみたのです。それがきっかけです。
さらに私には、非常に成果が多かった1950年代における国内外の数多くの試合分析で積み上げた、このテーマの重要性に関する自分自身の経験があります。私自身の経験とは、特に大きな試合のさまざまな局面における、そのつどの心理状態であり、すなわちそれは、どれほど優秀なスタッツや観察者であっても代え難いものとなります。
ただし、それが決定的で、科学的な分析や研究が重要ではないということを言っているのではありません。まさに反対で、50年以上前から私を知っている人たちは、国内外でテニスへの科学の応用にどれほど貢献してきたかを承知しているはずです。ところが、そうした科学的作業は、当時のドイツ守旧派からは長い間、誹謗され続けてきました。
当然、テニスはこれまでに長い時間をかけて、徐々に、しかもはっきりと変化を遂げてきています。ちなみに、テニスの試合と選手を対象にした私の分析や調査が、特に詳細に行われたのは1970年から今日に至るまでです。私の仕事の大部分がそのことに費やされています。テニスの戦術と、それにともなう技術は互いに相関し合いながら、ほぼ10年の周期で繰り返し変化してきました。テニスは今日においても変化しており、将来的にもさらに変化し続けるでしょう。
その一方で、一定の原則や基礎は、競技ルールが根本的に変わらない限り、長きに渡って変化しないものでもあります。この点で細部に立ち入ることは避けておきます。
これだけは強調しておきます。ストローク技術は以前よりもかなり単純化し続け、その現在の発達に向けては、人間が生まれつき、あるいは遺伝的に受け継いだ〈自然的動作〉が応用されているということです(そのことはこの日本のテニスマガジンの中でも語られていると、日本語は読めませんが見ればわかります)。この話題はそれだけで広範囲におよんでしまうため、今回はここまでにしておきます。
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